【2008年11月15日(土)16:00~ 愛知県芸術劇場】
<ツァラトゥストラ7―舞踏の歌> ●ハチャトゥリャーン:バレエ《ガヤネー》から 〈剣の舞〉、〈子守歌〉、〈薔薇の乙女たちの踊り〉、〈レズギンカ〉 ●ショスタコーヴィチ:バレエ組曲第1番 ●ルーセル:バレエ《バッカスとアリアーヌ》第2組曲 ●ラヴェル:《シェエラザード》 →浜田理恵(S) ●同:《ボレロ》 ⇒大友直人/名古屋フィルハーモニー交響楽団 最近夕方の4時ころが猛烈に眠い。どうしてかな。 4時開演の名フィル定期は、だからとっても辛いんです。 ハチャトゥリャーンからルーセルまで、前半は起きていた時間と沈没していた時間が半々くらい。情けない。起きていた時間に関して感想文を書きます。(ルーセルは9割方沈没。) ハチャトゥリャーンはチェクナヴォリアン/アルメニア・フィルの、ショスタコーヴィチはマキシム/ボリショイ劇場管の演奏が頭の中にあるから、大友氏のスタイルは(予想されてたけども)はっきり言って全然好みではありませんでした。ソヴィエトの作曲家の「バレエ」って平明に見える小節線の底にヘドロのように思念が沈殿しているから、額面どおり平明にバランスよく纏めるだけでは、僕は意味がないと思っています。 〈レズギンカ〉も〈叙情的なワルツ〉も〈ギャロップ〉も、よく研磨されてササクレは見つからない。テンポの伸縮もなくほとんど表情のないかわりに、清潔で健やかで○王の石鹸のごとき響きでした。こうした大友氏のバランスのよさは後半のラヴェルで活きてくることになりますが、前半は退屈だったです。申し訳ないけど。 + + + 「ツァラトゥストラ」シリーズ第7回、「舞踏の歌」。もし僕がプログラミングを決める権限を持っていたら(大胆な仮定)、安易な気持ちで《高雅にして感傷的なワルツ》か《ラ・ヴァルス》を持ってきてしまうでしょうが、ここでは《シェエラザード》。 この「うた」が、非常に秀逸な出来。これが聴けただけでも元は取れたと思う。 大友氏の最大の美点は、まさしくこのラヴェルで最大限に発揮されたのです。つまり彼がブレンドした響きは、楽器がキシッ、キシッ、キシッ、と音を立ててアンサンブルに変形していくような、ラヴェル独自の合体ロボット的な精密さと精密さ自体による感覚的な快感を発生させることに成功しておりました。大友さんってこんなに優れたバランスを構築する人だったのか。初めて彼の真価を思い知ったような気がする。名フィルもコンディションがいい…。 もちろん、《シェエラザード》に対してこの日ひときわ大きな拍手が寄せられたのは、オケの音色の素晴らしさにだけに因るわけではないでしょう。ソプラノの浜田さんの声質や歌い口がこの日の大友+名フィルのサウンドによく合致しているといいますか、何か特段の相性の良さのようなものを感じさせたのです。声がオケに乗っかっているのではなく、オケが声を包括しているような。 ディクションはそんなに明瞭じゃなかったのでフランス語を解する方はイライラしたかもしれませんが、ちっともフランス語がわからない自分には一個の楽器が美しく鳴っているように聴こえて、20分間ひたすら美しい響きに溺れました。ほわわ。 《ボレロ》はね。過剰な誉め言葉も自虐的な反省も必要ないでしょう。あれが現時点での名フィルそのものだと思う。ソロの出来に関して脳内BPOや脳内CSOと比べてあーだこーだと文句をつけるのは実に簡単だけど、そういう問題でもないかなと。何より、拍手を浴びながら起立しているときの団員さんたちの「やりきった」顔がとてもよかった。 ああいう顔をしているオケは、もっと応援していかないとなと思う。
by Sonnenfleck
| 2008-11-16 08:28
| 演奏会聴き語り
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Comments(6)
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ライオンの昼寝
at 2008-11-16 10:11
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意見の違いはあれど名フィルへの愛着は同じだと思いますので、勝手なコメントお許しください。
皆さんのブログを眺めると「シェエラザードが良かった」という感想が多く、予習して臨んでも捉えられなかった私には羨ましいかぎりです・・・退屈はしなかったんですが。 ところでボレロですが、これが名フィルの現状ということは仰る通りだと思います。 そして前回のオケコンとも共通する「頑張っている&もっと上達してほしい」という思いです。 だから脳内ミスなし演奏と比較するのは酷とはいえ、もはや「一応プロ」というレベルではない「堂々たるプロ」としての名フィルには「更に頑張ってほしい」と思います。 Tbの難しさは、ボレロという作品がリズムとメロディの繰り返しの中でソロ楽器には難しいものだという点では、他の楽器にも言えることだと思います。 従って「難しくてもクリアしてほしい」というのと「ガイーヌでも外してた」という思いで厳しい態度になりました。 だからといって見限ったりするわけではなく、勿論これからも応援していきます。 来シーズンの案内が来て、会員継続にチェックをして返送しました。
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Sonnenfleck at 2008-11-16 11:44
>ライオンの昼寝さん
いえいえ!名フィルを応援する気持ちは私も同じですし、その意味で、あのボレロで満足していては困るという思いがあります。オケの自主性に任せた指揮者の意向だったのかもしれませんが、ソロの歌い方にバラつきがあって統一感に欠けたのも、トロンボーンが難所で苦しんだのも事実ですからね。ますますの奮起をお願いしたいものです。 来シーズンも注目公演が目白押しですね。紹介文に目を通していると12月の回はやっぱりパユを全面に持ってくるしかないようでしたが、パユ目当てのお客さんを別世界に引きずり込むくらい、今のフィッシャー+名フィルなら可能だと思います。今から1年後が楽しみです!
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モザイク
at 2008-11-16 22:12
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待望のシェエラザードを堪能させてもらいました。
柔らかな歌唱は詞の内容にもマッチしていたと思います。しなやかなオケも上々でした。 帰宅後に振り返ってみたところ、他の曲の印象が薄いようです。「そつのない」表現がそうさせたというよりは、プログラム自体に起因しているのかもしれません。見えそうで見えないプログラミングの意図を類推する妙味(或いは苦行?)が今回に限っては希薄だったようで、是非はともかくとして、先述の印象につながったように感じています。アメだけではなくムチもなければ堪能できないようになりつつあるとすれば、フィッシャーの調教にはまっているということなのでしょうか。
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Sonnenfleck at 2008-11-16 22:43
>モザイクさん
私がもやもやと感じていたのはまさに「ムチもなければ」のくだり。纏めきれずにいたところを仰っていただいてスッキリしました。今回のようにサービス満点のところへ、シェエラザードのように澄ましてちょっぴりとっつきにくい曲が入ると全体の印象がぐっと上品になるようですね。私もしっかり調教されています(笑)
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p___q at 2008-11-17 18:20
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Sonnenfleck at 2008-11-17 22:35
>p___qさん
なるほど、、「忍耐を強いられる声」ってのは面白いですね。密やかな声で歌われるラヴェルと、開放感溢れる声で歌われるラヴェルと。
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