みなとみらいホールはこれまで何となく贔屓にしていて、たくさんの思い出があります。新しい住み処からはアクセスが悪くなってしまいましたが。。 今日の演奏会はそのみなとみらいホールの主催。「特別協賛」でスポンサーはついてたけど、FジテレビやD和証券の時のように客層の悪化はなく、それどころか「まさしくそれを聴くために」集まってきたと思われる聴衆が多くて実によかった。予鈴(MMホールだと予ドラか)が鳴ってからの奇怪な静寂は、チケットの値段以上のものを多くの聴衆が望んでいたから、と書いたら今回は穿ちすぎかもしれませんね。 【2009年1月31日(土)18:00~ 横浜みなとみらいホール】 ●モーツァルト:交響曲第41番ハ長調 K551 《ジュピター》 ●R. シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》 op.40 ⇒ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団 普段は偉そうに垂れ流しておりますが、世界に冠たるオケを聴取する体験には乏しいワタクシめ、シカゴの生はこれが初めてです。チューニング音からして独特の光沢があるのがこういうクラスのオケの特徴なのだよね。。颯爽と登場したハイティンクはかなり元気そうだ。 《ジュピター》。紛うことなき無化調のモーツァルト。またこの言い方をするのを許してもらえるなら、「20世紀が時間をかけて蓄えたある種の微妙なセンス」を温存している指揮者とオーケストラによって、まるで今世紀に対するデモ行進が為されたようでした。 もちろん編成を刈り込んでいるとは言え、厚盛りのヴィブラートを含んだ豊満な歌い口によってリズムの角はどんどんあやふやになります。ラジオやディスクで聴くとそんなに感じなかったけど、あの後ろにもたれ掛かったリズムでモーツァルトが流れていくのを聴いていて違和感を覚えることしきり。 あの贅沢な響きで、彼らは何を表現したのか?このモヤモヤは「ネタにマジレス」なのか? 確かに第2楽章の展開部や第4楽章のフガートで、この容れ物においては明らかにオーバースペックな、ブルックナーのような美しさが顕現していたけれど、こういうのをメインにして楽しむ視座には僕は到達できていない。この先到達するかどうかもわからない。 一方で後半の《英雄の生涯》は、超一流のオケでシュトラウスを聴く喜びを十二分に満足させる、懐疑の入り込む余地の見当たらない演奏。モーツァルトの様式感とシュトラウスの様式感と、比べてどちらがシカゴ響に近しいかといったら、それは自明ですわな。僕はP席に近いLAブロック、ティンパニの後ろというかホルン隊の朝顔が向く先に座っていたのだけど、ステージから1階客席の窪みに、金色の液体が波々と湛えられているような視覚的な印象すら受けました。 冒頭のホルンと低弦の強奏や〈英雄の戦場〉のクライマックスは、天井が落ちそうな大音響を至近で聴いていたにもかかわらずテクスチュアの見通しがクリアで大変驚きましたし(ヒョーロンカ先生方がシカゴ響のために好んで使う表現に誇張はない)、〈英雄の敵〉で聴かれた恐るべき木管軍団の実力、〈英雄の伴侶〉におけるロバート・チェンの鮮烈なソロ、こうしたところの贅沢な気持ち。。 ではハイティンクは何をしていたのでしょう? 〈英雄の業績〉と〈英雄の引退〉、この痺れるような幸福感と匂いやかな音響が聴けたのはハイティンクのおかげじゃないかと思う。最初のモーツァルトからこの最終局面に至るまで、ハイティンクは延々とテクスチュアの整理に徹してオケの好きなようにやらせていただけのような気がするし、オケもプライドをくすぐられてバルブを全開にしていたみたいなんですね。ところがいざ最後の場面、ハイティンクの棒の動きが急にエモーショナルになってオケを強く統率し始めるやいなや、一気に夕映えのような響きに変異してしまった。魔法のような位相切り替え…御侠なヤンキーオケからあのような音を引き出す技が見られたのは幸運だ。 さすがのフラブラ隊もこれには息を呑んでいたようで、ハイティンクが腕を下ろしてやっと、自然なため息と拍手が湧き上がってゆきました。ブラヴォ。アンコールがなくてむしろよかった。
by Sonnenfleck
| 2009-02-02 06:40
| 演奏会聴き語り
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Comments(6)
偶然ですが、5年ほど前にハイティンクの指揮する全く同じプログラムを名古屋の芸文で聴いたことがあります。オケこそ異なりますが、ハイティンクの自然体の指揮と(ジュピターでは指揮者の存在が消えたような感覚さえ覚えました)、「英雄の生涯」のクライマックスの暖かさや光々しさみたいなものを強烈に覚えています。あの時は終演後も拍手が止まず、名古屋では珍しい一般参賀もありました。
シカゴ響の次期シェフはムーティに決定しているから、このコンビでの来日は今後ないとも言われているんですよね。実は私は一年前にシカゴ響の来日が決まったときには関東まで出かける気満々だったのですが、結局現在では外出さえもままならない状態となり、涙を飲んであきらめました。シカゴ響の音響体、すごかったですよね?次回にムーティと来日するときには、これを体験するために関東まで足を伸ばしたいと思っています(名古屋に来ないこと前提w)。
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Sonnenfleck at 2009-02-03 23:15
>蔵吉さん
ああ、、そのときも同じプログラムを組んでいたんですね。最近のハイティンクは取り上げる作品をずいぶん絞り込んでいる印象があります。モーツァルトは自分の好みの範疇ではありませんでしたが、シュトラウスの素晴らしさ、と、音響体としての塊感には息を呑みました。みなとみらいで一般参賀がなかったのは不思議! お子さまのこと、行間から伝わってまいります。。蔵吉さんの早期英才教育で、今度名古屋にシカゴが来るころには客席の一員として加えられますよう!(そもそも日本にはしばらく来ないこと前提?)
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pfaelzerwein
at 2009-02-04 03:48
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良かったですね。高かったでしょう?私はモーツァルトやマーラーは位相が絶対狂わないショルティー指揮でも聞いていますが、音楽的にはバレンボイム指揮の時が圧巻でした。
正直、シカゴの音楽性からすればベルリンの管弦楽団など目じゃないですよ。R・シュトラウスはショルティーのメインレパートリーであって今でもその影響は残っているかと思います。ハイティンクはやはりコンセルトヘボーで聞きたいですが、まあ、ムーティーで聞いても音楽的な興味はないので、ハイティンク指揮はやはり羨ましいです。
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Sonnenfleck at 2009-02-04 06:40
>pfaelzerweinさん
高かったです。。シカゴに旅行したと思って泣く泣く購入しました。 今回は特に、ハイティンクの嗜好とシカゴ響の響きが互いの不足を補い合って、シュトラウスの味のほとんどすべてが開陳されていたと思いますね。泣いた甲斐はありました。ムーティになって異様にギラギラとするはずのシカゴ響にも興味深々なので(笑) もうちょっと値段が落ち着いたら来日公演にも足を運んでみたいです。
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アルマ
at 2009-02-04 18:32
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私は2月3日のブルックナーをサントリーホールで聴いてきました。
1977年の来日の時文化会館の天井が割れるのではないかと思うほどの大音響で当時高校生だった私も度肝を抜かれました。 今回シュトラウスやマーラーも魅力でしたが、生で聴くならドッカーンと終わる曲が好きなのでブルックナーを堪能しました。 トロンボーンのフリードマンをはじめとする低音金管おじいさん軍団の凄まじい音はなんなんでしょう!でも一番すごかったのはワーグナーチュウーバ4本を率いたギングリッヒでしょう。そして以前にもまして弦楽器の透明なほれぼれする美しさ!コントラバスなどまるで一人で引いているのでは思うほどピッチが合っていた。 そしてハイティンクの誠実な指揮(ハイドンも見事)を堪能し、幸福な気持ちになりました。唯一惜しむらくはドッカーンとティンパニーのコスの一振りと金管が炸裂した時多くの人は余韻に浸りたかったのに滑って拍手した人、あー我慢して欲しかったなーあれさえなければ最高だったのに。
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Sonnenfleck at 2009-02-04 22:31
>アルマさん
コメントありがとうございます。 伝説の1977年初来日ですね。。今回ようやく私もその片鱗に触れることができましたが、何よりも貴重な体験、うらやましいです。私が聴いたこの回でも、「低音金管おじいさん軍団」は前半のモーツァルトが終わってから休憩時間にぞろぞろとステージに現れ、物凄い迫力で練習(というか「サービス」?)を始めていたのが印象的です。もちろん本番も途轍もないパワーを見せ付けられましたが。。 ブル7でフライングがあったというのはネット上のいくつかの書き込みで見ていました。残念なことです。
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