ブリュッヘン/新日フィル ハイドン・プロジェクト 《天地創造》

c0060659_8424358.jpg【2009年2月7日(土) 15:00~ すみだトリフォニーホール】
●ハイドン:オラトリオ《天地創造》 Hob.XXI-2
→マリン・ハルテリウス(S/ガブリエル、イブ)
  ジョン・マーク・エインズリー(T/ウリエル)
  デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン
  (Br/ラファエル、アダム)
→栗友会合唱団
→渡邊順生(通奏低音)
⇒フランス・ブリュッヘン/新日本フィルハーモニー交響楽団


求め、一方で恐れていた、あの「空疎」の現場に立ち会うことになりました。
ここにいるブリュッヘンはもう、新日との初共演時に18世紀オケと同じ音をさせて聴衆を興奮させたあのブリュッヘンではないようです。ベリオの《レンダリング》を取り上げた際の前半プロ《未完成》で聴かれた空疎で暗い響きが、スタヴァンゲル響との《田園》のあたりで平滑と静謐のブレンドに変化し、さらにバッハの《リチェルカーレ》で終末的な色彩を見せる。この日ブリュッヘンは新日フィルからその響きを立ち上らせていました。ウェブラジオで追いかけてきたものが今回のシリーズで聴けるとは、正直思っていなかった。

冒頭、〈混沌の描写〉。前も同じ表現を使いましたが、透き通った蜻蛉の羽のような模様が空気中に投影されているみたいな感じなんですよ。明解でシンプルなアーティキュレーションによって音のかたちはよく窺えるんだけど、普通ならその中に置かれてしまうであろう雑味がなく、無色透明。事実シューマンの第2交響曲なんか特にドタドタとしていた記憶があって、こうした雑味をまとった重さこそが、CDも含めてブリュッヘンを聴く愉しみだったのですが、もはやそのようには聴こえないというわけ。非意志的な模様だけが残った。

この透徹した空疎、逆にそこから急速に凝縮して一気にスパーンと爆発する「光あれ!」の部分の質感を実現した新日フィルを、僕はここで最大限に称賛したい。これまでに日本のモダンオケが持ち得たピリオドスタイルのうち、最高級のものだったんじゃないだろうか。
第1日から第4日までが描写される「第1部」は万事が万事、この背筋が凍るような透明な響きなのです(水面のような弦楽合奏には驚いた)。全般的に見たらファン心理による補正が掛かっているかもしれないけど、この「第1部」だけはガチ。ここが聴けただけでも僕はブリュッヘンのファンをやっててよかったと思いましたよ。それは椅子の上で身じろぎもできぬくらいに。

第5日と第6日、つまり「生物の創造」シーンである「第2部」、それから平和なエデンの園を描いた「第3部」と、細かなグラデーションをつけたみたいにして色味雑味が増えていったのは、オケの集中力とかスタミナに関係していたのだろうか?
それも少なからず影響していたと思う(あれだけ張り詰めた空気の中で2時間も集中するのは難しいでしょう)。でも、それだけじゃなくて、天体やら大地やら水やらの土台部分を創造し終えて安心したかのように、以後は指揮者の指示がもう少しミクロ的な部分に移行していったような気もするのです。全体のトーンはそんなに「第1部」と変わらないけど、いくつかの具体的描写も登場する「第2部」「第3部」は、あのように響きの襟元を緩めたほうが効果的なのかもしれない。か弱い人間の心拍音。―

ますます背すじが曲がって、袖と指揮台の間をそろそろと歩くブリュッヘン。あの表現を聴いていると、身を削って透徹した音楽を提供してくれているみたいで心が痛みます。。

+ + +

ソロの3名は、僕からしたら何の不満もありませんでした。イブを歌っているときにハルテリウスが見せた上品なコケットリーは大変素晴らしかったなあ。
一方、栗友会合唱団。。このレベルの演奏会に参画するのならさらなる精密さが求められるように思われました。あれが指揮者の判断だったらなんともしようがないですが、発音のタイミングが不揃いなのと、音量のコントロールが利かずにメゾフォルテでオケを踏み潰してしまう場面には興醒め。栗友会合唱団は巧い団体だし、いつもなら気持ちよく聴けていても、オケとソロ歌手があのようなパフォーマンスに達しているとどうしても点が辛くなってしまいます。

さても演奏前に配役表を見て仰天したのは、渡邊順生氏の通奏低音。
指揮者の前にフォルテピアノとチェンバロがL字型に配され、僕の前に6日の公演を聴いた友人の表現を借りると「全盛期のTKのような」変幻自在の活躍でした。最後のアダムとイブの二重唱でのフォルテピアノは殊に甘く神秘的で、まったく神懸っていましたね。。
使い分けの基準は、レチタティーヴォの伴奏と一部の叙情的なアリアにフォルテピアノ、アリアや合唱にはチェンバロ、としていたような気がしますが、記憶は微妙です。これって楽譜に指示が書いてあったりするんだろうか。

自分はハイドン不感症とか、、そういう甘っちょろいことは言ってられなそうです。
by Sonnenfleck | 2009-02-08 08:53 | 演奏会聴き語り
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