ハーディング/新日フィル 第442回定期演奏会@すみだ

c0060659_6222828.gif【2009年3月7日(土) 15:00~ 第442回定期演奏会/すみだトリフォニーホール】
●ドビュッシー:《牧神の午後への前奏曲》
●ラヴェル:《ラ・ヴァルス》
●ベルリオーズ:《幻想交響曲》 op.14
⇒ダニエル・ハーディング/新日本フィルハーモニー交響楽団


いやーハーディングは天才っぽいね。
前に関東にばっかり来ている未知の指揮者とか正体がわからないとかいろいろ書いたけど、そんなのは全部撤回だ。今回の演奏でイメージが固まった…どころか、グイと胸倉を掴まれて大外刈をくらい後頭部をぶつけたあげく星が出たような衝撃を受けました。

これまでいろんな《幻想交響曲》を聴いてきて、中には変な演奏だってあったわけですが、この日の「ハーディング版」はそのうち一二を争うインパクト。
元来とんでもなく多くの仕掛けが設えられたスコアだったのに、150年分の埃が詰まって大仰にしか動かないか、あるいは部分的にはまったく働かなくなってしまっていたところを、この午後にハーディングの手で埃が払われた途端、スコアがうなりを上げて凄まじいギミックを聴衆の前にさらけ出したという感じ。こんなに激しく各部分が駆動する曲だったのか......。

+ + +

まず、今回示された第1楽章の厳格すぎる序奏と、後へと続く非常に放埓な起伏は、むしろこの交響曲が《フィガロの結婚》みたいな伝統的スラップスティックコメディの末裔なのかもしれないということを、我々に強く印象づけます。
ハーディングの面白ポーズに導かれた鬼のような形相のオケ、ドリフのコントみたいに素晴らしいノリに基づいてあちこちの楽句が伸縮、デュナーミクも狂ったようにウニョウニョと変化し、バッハみたいに聴こえるところもあればバルトークみたいに聴こえるところもある。もう聴いていて可笑しくてたまらず、吹き出してしまった。マジメなマジメなクラッシックではあるまじき大失態。でも可笑しい!こんなに可笑しいのは初めてだ!

涼しい音色とともに第1楽章の最後でコメディの幕はちゃんと降りて、第2楽章
いや、何かおかしい。
ハープが4台、指揮台の周りを取り囲んでいるのです(これってベルリオーズの指示なのかなあ)。視覚的な効果を除いても、確かにこの楽章はハープが目立つから、音量を増強すればさらにキラキラとするだろうなあと、そういう予想は立ちましたけど、聴いていると思ったより効果がはっきりしないというか、ちょっと企画倒れな感じもしたんですよ。
でもちゃんと考えられてるんですね。チェリのように楽章の最後をディミヌエンドしてふわっと収めた上に、この4台のハープの残響を舞踏会の残り香のようにして散らす作戦が行なわれたわけです。これには思いつきレベルをはるかに超えた美しさが漲る。さても残響が消えた瞬間、袖からスタッフがワラワラと出てきて、あっという間に4台を片づけてしまうはご愛嬌。

第3楽章では侘びた佇まいよりももっとドライに音響のちぐはぐさを狙ったようで、和音を巧みに「重ねない」ことであちこちに微細なズレが生じ、とても面白いことになっていました。ガラスとガラスであれば色が違っていても重ねるとうまく透過するけど、ここではガラスとセラミックとか、土と毛皮とか、そういった組み合わせで響きが作られている感じ。「遠雷」も遠雷を描写するというよりも、楽音であることを強く要請されているように思われました。
(※これは特に前半の《牧神の午後への前奏曲》でも聴かれたやり口で、和音に関するハーディングの好みはもしかするとこういう方面にあるのかもしれない。)

後半二楽章の方向性は予想通りだったものの、その程度の甚だしさに仰天する。フツーの演奏であれば絶対に聴こえないパートが(必然性を帯びて)浮かび上がったりするのは、これはオケの側の30日間ブリュッヘン体験が活きているのかなと思いましたが、それ以上にハーディングの熱いモデリング魂を見せ付けられたような気がします。

特に第5楽章のグロさは類を見ないレベルでして、身の毛もよだつようなハーモニーを抉り出して並べたり、木管をケタケタと笑わせたり、チューブラーベルではなくてちゃんと袖の方で鐘を鳴らしたり、コルレーニョをきつく強調したり、ううむ、、こうやって言葉で書くとどんどん陳腐になってしまうんですけどね。。でも実際のところ、最後の和音が鳴り切ってもフツーの演奏のように歓呼へ雪崩れ込まず、明らかに一瞬、ホール中が呆気に取られて間が空いたのが、このモデリングの強烈さを物語っているのかなと思う。周囲の反応を観察してみても、ちゃんと熱狂と興醒めに二分されていたのが可笑しかった。

+ + +

しかし、強い炭酸のように、喉を滑って落ちると途端に思い返しづらくなるプチ不思議。
by Sonnenfleck | 2009-03-11 06:29 | 演奏会聴き語り
<< シロップ煮クリーム添え 新しい角度 >>