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晴読雨読:鈴木博之『東京の地霊』

晴読雨読:鈴木博之『東京の地霊』_c0060659_629574.jpg鈴木博之『東京の地霊』、1990年、文芸春秋社(2009年、ちくま学芸文庫)

昨年から断続的に放送されていたNHKスペシャル『沸騰都市』シリーズが面白かった。
その最終回「TOKYOモンスター」を見ていたら、この回だけ攻殻機動隊みたいな秀麗なショートアニメが挿入されていた(意欲的なつくり)。その中の登場人物が手にしていたのが、この『東京の地霊』なのでした。読んだことがなかったので、さっそく近所の本屋へ走って購入。

本書での「地霊(ゲニウス・ロキ Genius loki)」という概念はそんなにオカルト的なものではなくて、まえがきにおける著者の言葉を引用すれば「ある土地から引き出される霊感とか、土地に結びついた連想性、あるいは土地がもつ可能性」ということになる。
土地に結びついた連想性というのが自分としては(主語が明確なように思えるので)いちばんしっくりくるかな。ただしこの直後に「その土地のもつ文化的・歴史的・社会的な背景と性格を読み解く要素も含まれている」ともされます。

したがって、本書においては、いくつかの「由来の深い」東京の土地がセレクトされて、地道かついくぶん羅列的な考察作業が行なわれます。基本的には関係者の行動や古地図資料を丹念に読み込んで「感じ」を言語化してゆくのですが、その反面、突如として飛躍的な結論に達するところも多く、フィクショナルな楽しみも味わえるのが面白いところです。真面目な建築学の先生がキレて思いの丈をぶちまけたような熱さがある(ギャップ萌え?)

東京で、あるいは東京へ簡単にアクセスできる場所で生まれ育った方はどうなのか知りませんが、少なくとも僕にとっては東京はまだまだ謎が多い場所です。あそこはこんな感じの街、こっちはこういう感じ、というのを無意識に会得しているのが街リテラシーかなと思うんですが、東京については、おぼろげな了解こそあるもののいまだ無意識のレベルには全く達しないなあ。いつか達するかなあ。
ともかく、本文の内容をここで述べるのはもったいないのでやめますが(ぜひ買って読んでください)、断絶したように思える戦前からの東京は案外残っているのだなあと感じ入りました。もうちょい落ち着いたら、東京の街を歩いてみよう。
by Sonnenfleck | 2009-05-15 06:30 | 晴読雨読 | Comments(2)
Commented by iustitia at 2009-05-15 23:13 x
タイトルが気になりつつ、読んだことがない本です。
地霊というと、Frank Wedekindを連想してしまいます。
www.iwanami.co.jp/.BOOKS/32/2/3242910.html
Commented by Sonnenfleck at 2009-05-15 23:17
>iustitiaさん
たぶんあなたの好みからいって、お好きだと思いますよ。
こちらはヴェデキントと違っておっかなくない地霊ですが。
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