【2009年6月12日(金) 19:00~ 第一生命ホール】
<第3日 The Communicators―世界をつなぐ者> ●メンデルスゾーン:弦楽五重奏曲第2番変ロ長調 op.87 →川本嘉子(Va) ●ブラームス:Pf五重奏曲へ短調 op.34 →田部京子(Pf) ○シューマン:Pf五重奏曲変ホ長調 op.34 ~第3楽章 ⇒カルミナ四重奏団 マティーアス・エンデルレ(1stVn)、スザンヌ・フランク(2ndVn) ウェンディ・チャンプニー(Va)、シュテファン・ゲルナー(Vc) スカラ座に60,000円、VPOに30,000円、ポリーニに20,000円払う人々も、カルミナの3,500円に気がつかない。現役最高峰のカルテットの来日に気がつかない。もったいないと言うよりほかない。気がついた人々は、この週末の夜を熱狂的に過ごすことになった。 第1日の「名曲」プログラムを聴いた友人は「巧すぎて胃が痛くなった」というコメントを寄せてくれたのですが、僕が聴いた第3日と第4日も、そうなるだけのエネルギー放射が十分にあったと言えます。 この数年間、老境を迎えたアルバン・ベルクの引退に臨んだ一方、今となっては正直凸凹が酷かった記憶しか残っていないハーゲン、あるいはパイゾやクスといったクールな若手たちのライヴにも接することができましたが、完全な球体として瑕疵ひとつないカルテットをカルミナに発見することができたのは望外の喜びであります。僕は彼らを生で聴いたことがなかったし、巨大匿名掲示板でも「カルミナは録音に助けられている」という意見をよく見かけたんだけど、少なくともそれは一刻も早く生を聴くべきであるとアドバイスしたいところだ。 互いが互いのためにアンサンブルをやると、究極的にはあのようになると思うのであります。どこかが欠損したら何かがすかさず穴を埋めに動くし、誰かが突出すればすぐに他のメンバーもそのレベルまで自分を高めるし、要は絶対に球面が崩れない。うにょうにょとした不定形で、しかも美しい何か、であります。 彼らは球体のままフェーズを変えることでデュナーミクを表現したり、エアを増やしてスカスカにしたり、逆にステージの床面から土中に沈み込むくらいグッと比重を重くしたり、なんでもやってのけてしまうのだ。もとよりCDを聴いて似たような印象は感じていたとはいえ、ライヴでそれ以上の球体を見せつけられるとは思っていなかったものだから、当夜は椅子の上であんぐりと口を開けてしまったのだった。 + + + ただ、第3日・第4日と続けて聴いてしまうと、どうしても第3日の方は分が悪い。 4人の球体にゲストを迎えることによって、閉じた世界には楔が打ち込まれてしまう。吉と出るか凶と出るかといったら、第3日については特に前半のメンデルスゾーンで、凶と出ていたように僕は感じてしまいました。"The Communicator"としてのゲストは、確かに閉じた世界と聴衆の世界の間に立ってはいたけれども、どちらの世界にも属しきれずにいたのではなかったか。曖昧な言い方しかできないんだけど。 プログラム冊子で、1stVnのエンデルレが次のように語っています。 「加わるのがヴィオラであれピアノであれ、私たちはそのパートを欠いた弦楽四重奏で全曲の練習をし、コンセンサスを作っておきます。5つの異なる方向から議論が為されるよりも、弦楽四重奏と独奏者のふたつの方向の方が練習が進みますからね。とはいえヴィオラ奏者の場合はチームのメンバーみたいなものですけど、ピアニストの場合には殆どソリスト。相手が加わった段階で変化することはありますよ。」…ここだよなあ。きっと。 こういう練習スタイルを採っているのであれば、なおさら気心知れた、近しい間柄のソリストでないと5方向からの完全世界を形成するのは難しかろうと思うのです。川本さんも田部さんもともにカルミナQとは共演経験があるし、彼女たちが非常に素晴らしい音楽家であるということは体験的にわかっているのだけど、閉じた世界に入り込むことに関してはできていない局面のほうが多かったように感じました。 個人的には、ちょっとメタメタしつつも勢いのあったブラームスの方が楽しめたんですが、会場で偶然会った友人はブラームスにおける齟齬を指摘する。確かにメンデルスゾーンに比べると、メンバーが滑ったりピアノが脱落したりする場面が目立ったものなあ。メンバーたちはほぼ完璧な球体を維持してるんですが、球体の隣にもう一つ物体が浮んでいるような(Q体?)そんな雰囲気もありつつ、第4日へ続く。 あ、でもアンコールのシューマンはサイコーに素晴らしかった。これは書いておかねば。
by Sonnenfleck
| 2009-06-14 12:03
| 演奏会聴き語り
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Comments(5)
やはりカルミナ四重奏団を聴きに行かれたのですね。
これ土曜に行こうと思ってたんですが、名古屋の帰省とぶち当たりあきらめました。 入場券の破格、、、嬉しいことですが、それで多くの方が楽しめることができれば良いことですね。
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ガーター亭亭主
at 2009-06-14 21:20
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そうですね。1,3,4日目と聞いたのですが、やはり4日目が圧巻でした。いや、もちろん4回やれば1回はゲスト入りでも良いのだろうな、と思い、、、いやいや、10回聞くことができるのであれば1回は、という程度でしょうか。
ワタクシ、ここのシリーズの年間会員になっているので、2000円でした、当日のお代。本当に、チケットの値段というものには考えさせられます、というか、単にスカラやポリーニには行かない、と意を強くするということなのですが。4日目の話は別エントリを上げられる風情なので、そちらへコメントすることを予告しておきます(笑)。
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Sonnenfleck at 2009-06-14 22:42
>ピースうさぎさん
週末の午後から夜にかけて、あんまりにも多くのコンサートが集中しているために、どれを選ぶのかかなり迷うことになります。もちろん、今週末はカルミナ一択でしたが、名古屋のほうが一つの公演に集中していたかもしれないなあと思わないではないです(自戒)。
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Sonnenfleck at 2009-06-14 22:46
>ガーター亭亭主さん
やや。ニアミスでしたか。客席の一体感は素晴らしいレベルでしたね。アーティストもお客も、みんなで緊張感を作り上げる空気、あれが室内楽を聴く醍醐味の一つかもしれません。 そうか、年間会員だとさらに安くなってしまうんですね(笑) コストパフォーマンスについては(ここに頭が行くようではまだまだなのかもしれませんけど)今回のカルミナ、自分の中ではダントツで今年の一番にランクしています。第4日の感想文はしばしお待ちを。。
これも、熱狂的な一夜の予感...ではありませんか。
本年12月にあのイルジャルディーノのエンリコ・オノフリがヴィヴァルディの四季を全曲演奏。場所は紀尾井ホール。少なくとも、私は楽しみですが。上記のURL見つけました。
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