【2009年11月29日(日)14:00~ ミューザ川崎】
●モーツァルト:交響曲第38番ニ長調 K504 《プラハ》 ●ヘンデル:《メサイア》~ シンフォニー、〈慰めよ、私の民を慰めよ〉、 〈もろもろの谷は高くせられ〉 ●同:《アリオダンテ》~ 序曲、〈不実な女よ戯れるがよい〉、 第2幕のバレエ音楽 ●同:《エイシスとガラテア》~ 〈愛の神が進軍の鐘を鳴らすと〉 ○同:《セルセ》~〈懐かしい木陰よ〉 ○同:《エイシスとガラテア》~〈愛の神が彼女の目に座って戯れ〉 →イアン・ボストリッジ(T) ⇒ハリー・ビケット/東京交響楽団 学生時代の名残で、みなとみらいホールは近いと錯覚しがちであるのだが、実際は神奈川のホールの中ではミューザが最寄りだったりする。それでも片道一時間は優に要するのでほとんど足は向かないのだけど、この日ばかりは出掛けざるを得ないのです。何しろボストリッジが生でヘンデルを歌うんだから! 一昨年出た彼のヘンデル・アルバムにはすっかり魅了されていて、この公演は発売早々に2階センターを押さえてしまった。さらに指揮者が、当該アルバムで伴奏を付けていたその人、ハリー・ビケットに交代するという(かなり)嬉しい誤算もあり、テンションは高ぶるばかり。 なので、前半の《プラハ》が極めて微妙な出来だったのにはがっくりと落胆してしまった。 アーティキュレーションにこだわって変なアクセントを付けることしかしない第1楽章に、ただただ平滑なだけの第2楽章、無理のある速さの第3楽章を聴かされて、安っぽいノリントン風味というか、、ビケットには不信感を持たざるを得ませんでした。東響も薄めのヴィブラートではピッチの甘さを隠しきれず、ぐーむ…と唸るしかなし。録音で聴くビケットの伴奏はあんなによかったのに、こらどうしたことかね。。 + + + ところが後半のヘンデルになるやいなや、ビケットは別人のように。 通奏低音を強く先導し、上の声部たちには上品で華やかな装飾をつけていく様子、指揮する姿もモーツァルトのときとは全然違ってナチュラルハイだし、可笑しくなってしまった。この人は本当にバロックにしか興味がなさそうだなあ。 東響のほうも、格段に繊細なアンサンブルに化ける。 僕はここにはっきりと発言するけれど、このヘンデルのときの東響は、これまでに聴いた日本のどのモダンオケよりもナチュラルに、古楽オケに化けていました。もちろん、最初にブリュッヘンが手を振り下ろした瞬間の新日フィルも忘れられないが、今回の東響のように啓蒙時代管やAAMのようなアングロサクソン系の優美な古楽オケの音がしたのは大変な驚きでした。スダーン効果なのか。 さてボストリッジは。ライヴ体験は2004年《水車小屋の娘》以来の2度目。 結論から申せば、快感だったとしか言いようがない。 大勢はヘンデルアルバムの様子と変らないけど、録音で感じた彼らしい苦みはライヴではずいぶん後退していて、より甘く、より自由な装飾を入れて歌う。 《メサイア》から〈慰めよ、私の民を慰めよ〉。 Comfort ye, Comfort ye my people...最初の「o」の透き通った姿と、二回目の「o」の胸苦しい想念にぞくり。 《アリオダンテ》から〈不実な女よ戯れるがよい〉。 Scherza infida in grembo al drudo.「e」音の諦観、「morte」の暗闇と「braccio」の怒髪。 ミューザの柔らかな音響と、前述のように完璧なビケット/東響の伴奏が付いて、至福のひと時。僕のヘンデルイヤーはこれで完全に報われたので思い残すこともありません。アンコールも含めて、ヘンデルアルバムのコアを抽出したような素敵な選曲だった。 終演後に「Noël Coward Songbook」をようやく買い求め、サインを貰う。
by Sonnenfleck
| 2009-12-11 22:49
| 演奏会聴き語り
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