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晴読雨読:ミヒャエル・エンデ『鏡のなかの鏡』

晴読雨読:ミヒャエル・エンデ『鏡のなかの鏡』_c0060659_23444636.jpgミヒャエル・エンデ『鏡のなかの鏡』、2001年、岩波現代文庫。

何年か前の正月に実家に帰省したとき、新幹線のなかで暇つぶしに読もうと思って偶然に買い求めた一冊です。
ミヒャエル・エンデは言うまでもなく『モモ』や『はてしない物語』の作者であり、20世紀ドイツを代表する児童文学者である…という一面的なレッテル貼りが廃れる要因になったのが、本作『鏡のなかの鏡』であります。この作品は連作短編集の形をとり、ひとつひとつの話は非常に微妙なつながりを持って書かれます。「つながり」の種類は千差万別。直前の話の最後のセンテンスから新しい話が始まったり、登場人物が共通していたり、舞台設定が似ていたり、、「自由な変奏曲形式」といえば音楽ファンにはわかりやすいでしょうか。注目すべきなのは、一番最後の話が一番最初の話につながっているということです。環状のものに閉じこめられる感じ…わかります?

各短編の内容はどれも非常にヘビーでグロテスク、かつ超現実的です。奇妙な閉塞感が通底し、後味はビター。どうせお子さま向けの作家だろー?とか思って読み始めると本当に打ちのめされる。キリコの作品世界に閉じこめられたような感覚(恐怖6割)がじわじわと足下から上がってきます。ただしそれはダダイスティックに「破壊される」感覚ではなく、慣れ親しんだ「理性」とは違う(しかしそれに並立している)シュルレアリスティックな「別の法則」に支配される違和感、と言えばいいのかな。

森博嗣は「自分の感覚を研ぐためにサリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』を何度も読み返す」と言っていますが、この『鏡のなかの鏡』もそういった「砥石もの」のひとつになりうると思います。かなり鋭いので怪我などされませぬよう。
by Sonnenfleck | 2005-04-17 15:03 | 晴読雨読 | Comments(0)
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