鈴木大介 Gtリサイタル@所沢ミューズ(1/8)

2007年のライヴ初めであった、「武満徹を聴く、武満徹をうたう」コンサート@愛知県芸(加藤訓子、鈴木大介、木ノ脇道元、coba、ノース・エコー、谷川俊太郎)は今でも僕の心の深いところに組み込まれて、強い印象を残しているのですが、この2011年のライヴ初めも、同じように、鮮やかに記憶されそうです。

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c0060659_1427040.jpg【2011年1月8日(土) 15:00~ 所沢ミューズ・キューブホール】
●バッハ/鈴木大介:組曲ト短調 BWV1011
●西村朗:《玉響》(2010)
●バリオス:《大聖堂》
●フランセ:パッサカリア
●猿谷紀郎:《二つの記憶と一つの未来の記憶》
 (所沢市文化振興事業団委嘱/世界初演)
●ピアソラ:ギターのための5つの小品
 ○アンコール 映画音楽メドレー?(詳細不明)
⇒鈴木大介(Gt)


鈴木大介氏の口調が好き(ここでは話し方のことです)。
極めて慎重な、こだわりの言葉選び、それにともなう独特の「間」、自分の感情に素直な抑揚、もちろん声質も。NHK-FMの「クラシックリクエスト」ではずいぶんニコニコさせられました。毎週楽しみだったもの。

さて大介さんの「どソロ」を、300席のキューブホールのような親密空間で聴けるのは幸せである。2006年に聴いた“QUOTATION OF DREAM―Love and Soul of Toru Takemitsu”も素敵な時間だったが、この日も、ただただ気持ちよくってね。人の息づかいをうそ偽りなく表すギターが、大介さんのあの喋りかたをありのままに音楽に変換してく。
ギターは真に属人的な楽器だなと思う。属人的でない楽器というのは今のところ見当たらないが、初音ミクなどはそろそろ人の目を盗んで、庇護から抜け出ようとしているかもしれん。



最初のバッハは(無伴奏Vc組曲第5番の編曲ですね)、いかにも調子が悪そう。音が苦しげで、リズムがほどけてばらばら。残念だけどもいい演奏ではなかった。1月の乾燥と照明の熱が、最大限に悪い影響を及ぼしてしまったようだなあ。

ところがこれ以降、急激に調子を取り戻す大介さん。
西村朗氏の《玉響》。黄金色に透き通った開放弦の色みと、それを囲うように配された紋様状のトレモロが織り上げる、ある種の蒔絵箱のようであった。いくぶん気取った雰囲気の曲だけど、何しろとっっっっっても美しいの。最後の小さなトレモロが幽玄の彼方に薄れて消えて、しばし法悦。

バリオス《大聖堂》。十八番ですね。
CDで聴いて感じていた以上に、大介さんの《大聖堂》は、大聖堂という言葉がふさわしくなかった。石組みのサイズを初めからビシッと測って、水も洩らさぬ緊密な構成になりうる作品であるけれども、ここでは上述のとおり、大介さんの最強の持ち味であるふんわりとした「間」の美学が活きて、何者かによって緩やかに肯定されるような、気持ちのいい時間が過ぎる。

後半に入ってフランセパッサカリア
べたべたのべた褒めで恐縮ですが、この日はこの演奏が個人的白眉。
よく晴れ渡った冬の午後に、広々として人のいない所沢の街路、大介さんのギターを聴くことをまさに目的として集まってきた百数十人の聴き手の濃密な沈黙。フランセの音楽自体はけっして険しい顔もしていないし、お高くとまった超絶技巧もない。メロディは優しくて、リズムはぴちぴちと新鮮。ただインティメイトで柔らかな時間。ああ。いいよね。
何の感想にもなってないように見えるかもしれませんが、この時間から得たものはそのようであるので、自分のために書いておくとしたらこういうかたちになる。



猿谷紀郎氏のミューズ委嘱新作、《二つの記憶と一つの未来の記憶》では、大介さんの集中のギアが二段階くらい上がったように見える。世界初演だし、作曲者も臨席しているしね。
で、これは名作の名演奏だったと思う。
特に第1曲の独特の思わしげな空気が忘れがたい。メロディのようで、あと一歩の運や実力や努力が足りなくてメロディになりきれない、メロディのトルソのようなものが無数に浮遊する空間。トルソのひとつひとつにフォーカスするのは人間技では不可能だろうし(やわらかナンカロウ、ぐらいをイメージしてみてください)、抑揚の支点や力点をどこに持ってくるのか、構築するのがとても難しそうな音楽であったが、聴き終えてみるとコンパクトに空気がまとまっているんだな。なぜだ。不思議だ。
第2曲・第3曲は、思い切った旋律美が清々しい。フィナーレはボレロのリズムで壮大な決着。

第1曲について、大介さんがご自身のブログに「ものすごい複雑すぎて毎回眼が初見状態になる」と書いていたので、サイン会のときに「今回はどうでしたか?」と尋ねてみたところ、「ありえないことに、作曲者が(ゲネプロに)来てからさらに音が変わったよ(笑)」とのこと。いつか譜面を整えてもらって、録音もしてみたいそうです。これ、多くの人に聴いてほしいなあ。個性的でいい曲だったもの。

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航空公園駅までの道のり。コンサートのあとは、それほど人の多くないところを歩いて、得たものを咀嚼し、日常に戻るための時間がほしい。このホールは、首都圏にしては珍しくそれが可能なんだよなあ。
今年もたくさん、いいライヴに出会えますように。
by Sonnenfleck | 2011-01-09 14:27 | 演奏会聴き語り
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