〈エスポワール シリーズ 8〉日下紗矢子(Vn)Vol.2@トッパンホール(7/2)

ベルリン・コンツェルトハウス管(旧ベルリン交響楽団)の第1コンサートマスター・日下さんの帰国公演。まずもってプログラムが好みだし、メルヴィン・タンとペーター・ブルンズもセットとあっては出掛けずにはおれない。佳いシューベルトが聴けるなら、暑いさなかに飯田橋駅からてくてく歩く労も厭いません。

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c0060659_731223.jpg【2011年7月2日(土) 18:00~ トッパンホール】
●シューベルト:ノットゥルノ変ホ長調 D897
●シューベルト:幻想曲ハ長調 D934
●シュールホフ:VnとVcのための二重奏曲
●メンデルスゾーン:Pf三重奏曲第1番ニ短調 op.49
 ○ハイドン:Pf三重奏曲ト長調 op.73-2
       Hob.XV-25《ハンガリー風》~第3楽章
⇒日下紗矢子(Vn)
 メルヴィン・タン(Pf)
 ペーター・ブルンズ(Vc)


この日のプログラムのテーマは「民俗風・民謡風」かなと思われた。ロマン派音楽を19世紀ドイツの民謡とするなら、メンデルスゾーンもなんとか座る。



前半の2曲で、久しぶりにシューベルトの魔に遭う。こういう体験をさせられることが、僕がシューベルトに惹き付けられる理由なのよね。やっぱり大切な作曲家。
ノットゥルノもファンタジーも、生でちゃんと聴くのは初めてのような気がするんだけど、どちらもぽっかりと空いたパウゼや、答えの出ない問い掛けのような切ないゼクエンツが頻発し、調性も不安定で恐ろしい。

日下さんは共感に溢れた真っ直ぐな弾き手という印象。
ファンタジーは実に凄まじい難曲だったが、前半の圧倒的な不安感、民謡風歌曲に擬態した中間部の「何か」、そして後半の錯乱した追い込み、いずれも、僕の胸の裡にまっすぐ飛び込んでくるような歌い口。

美しいもの・悲しいものとは必ずしも言い切れない複雑なシューベルトの歌が、その混ぜこぜになった色々な感情のひとつひとつが丁寧に再現されることで、きれいに紐解かれていく。極端な技巧が要求されている箇所も多かったが、あえて安全運転ではなく、シューベルトの極北の感情を体現するように右手を操っていく日下さんには敬服の一言だった。喝采を浴びる彼女がそれとわかるくらい疲労困憊していたのも、むべなるかなという感じ。

ひょっとしてメルヴィン・タンはフォルテピアノ、ペーター・ブルンズはバロックボウを使ったりするんじゃないかなあと開演前に勝手に期待していて、実際はスタインウェイにモダンボウだったのでこちらの予想は外れてしまったけれども、やはり歴戦の強者の室内楽はシンプルに気持ちいい。特にタンの軽い指捌き、繊細なルバートにはまったく惚れ惚れしちゃうのだ。



シュールホフとメンデルスゾーンでは、前半の硬質な音色から変わってちょっとリラックスした日下さんの音色が心地よかった(高品質メンデルスゾーンでは安心しきって客席でぐうぐう寝てしまった)。日下さんはアンコール前のあいさつでもmusizierenの愉しみを率直に語っておられて、素敵。来年の〈エスポワール シリーズ〉は六重奏に取り組むとのことで、今から楽しみだな。
by Sonnenfleck | 2011-07-09 07:32 | 演奏会聴き語り
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