BCJ第94回定期演奏会[世俗カンタータ・全曲シリーズ Vol.1]@オペラシティ(7/14)

万事につけて頭の固い我が社でも今夏はサマータイムが導入され、急に夕刻に時間ができる日が増えた。BCJのオペラシティ定期はいつも平日で、しかも会場が(職場からは遠い)初台なものだから、まったく一度も聴きに行ったことがなかったのだが、この機を逃さず参戦することに。3階ステージ真上のバルコニー席。

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c0060659_21425061.jpg【2011年7月14日(木) 19:00~ 東京オペラシティ】
<バッハ 世俗カンタータ・全曲シリーズ Vol.1>
●セレナータ《日々と歳月を作り成す時間は》BWV134a *
●シンフォニア BWV1046a/1
●狩のカンタータ《楽しき狩こそわが悦び》BWV208 **
→ソフィ・ユンカー(S1/ディアナ **)
 ジョアン・ラン(S2/パレス **)
 ダミアン・ギヨン(A/「神の摂理」*)
 櫻田亮(T/「時」*、エンデュミオン **)
 ロデリック・ウィリアムズ(Bs/パン **)

⇒鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン
→ジャン=フランソワ・マドゥーフ(Corno da caccia I)
 ジェローム・プランセ(Corno da caccia II)
 山岡重治(Flauto dolce I)
 向江昭雅(Flauto dolce II)
 三宮正満(Ob I)、森綾香(Ob II **)、尾崎温子(Taille/Ob II)
 若松夏美、パウル・エレラ、竹嶋祐子(Vn I)
 高田あずみ、荒木優子、山口幸恵(Vn II)
 成田寛、深沢美奈(Va)
→鈴木秀美(Vc)
 今野京(Violone)
 村上由紀子(Fg)
 鈴木優人(Cem)


それでですなあ。これまでに聴いてきたBCJのライヴの中でも今回のはかなり良かった。得られた知見がとても多くって、記憶に残りそうだ。

数年前、名古屋のしらかわホールでしばしば聴いていたBCJは、彼らにとって新しい領域に踏み出そうとしてる雰囲気(汎用性がきわめて高いかわりにあんまり胸躍らない「オールドクイケンスタイル」みたいなものからの脱皮)がありありとして、ある種の迷い、あるいは組織が新しく変容する前のざわめきが音楽に滲み出ていた。いま思い返せば。
そのころは、旧い演奏様式と新しい演奏様式とが交互に登場してたんだよね。つまり、白い絹ごし豆腐みたいにつるんとした上品なアーティキュレーションと、舌触りも荒々しい木綿豆腐、あるいは油揚げのごときダイナミクスを追求した音楽づくりと。この両方がざわざわと同居していた。

この変化の芽みたいなものは、この日の演目が目出度い世俗カンタータ特集だったので判りやすかったにせよ、数年後の今日、花も実も結んでいたようだった。それはすなわち、バッハの官能性を無視しない曲づくりを、ついに雅明氏が始めたということなのですよ。これってすんごい変化だと思うの。

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ああ、BCJ(および雅明氏)変わったな、と感じたポイントは三点あった。

まず《日々と歳月を作り成す時間は》終曲。ここでVnのトゥッティをあえて粗っぽくわさわさわさっ、と響かせることで、ヴィヴァルディのような乾いた熱風をテクスチュアの中に含ませ、体感温度を上げる。こりゃあエロ熱い。

二つめは《楽しき狩こそわが悦び》第4曲、エンデュミオン(櫻田氏)の甘いソロ・アリアをチェンバロのみで伴奏する局面で見せた、雅明氏の濃密な歌いぶり。
これまでに彼のソロ録音では聴いたことがないような熱烈なルバートで、櫻田氏の清潔な声を装飾していく。これは実に、自信のあるときのシューマンが発散するような骨太の浪漫によく似かよっていた。こんなに堂々とした浪漫をBCJ定期で聴くとは思っていなかった自分は、心底驚いたのであった。

三つめはやはり《狩》の、〈羊は安らかに草を食み〉として知られる第9曲。
00年代後半は「バロックの森」OPテーマとして有名だった曲だが、あにはからんや、雅明氏はこのナンバーを凄まじくねっとりとした官能で彩ったのであった。これには吃驚仰天。
まず秀美さんと今野さんのウルトラ緻密テヌート。あれは単純なスラーではなかった。僕はボウイングが見下ろせる席に座ったんだけど、弦にひたり...と吸いつくようなアップボウとか、このときの二人の右手には一生掛かっても到達できんなと思ったねえ。そして、それまで姿勢を正して座っていた山岡・向江コンビがすくっと立ち上がり、ふわとろのハーモニーを聴かす(日本リコーダー界のツートップを惜しげもなく並べる最高の贅沢)。この響きはまさしくフラウト・ドルチェ。音楽が、ずいぶん肉感的な柔らかさを表現してたなあ。

こういう音楽。BCJがこういうバッハを聴かせてくれるようになった。
雅明氏さあ、最近マーラーとか振ってるじゃないですか。そこからの連想は短絡的すぎるかなあ。でもこういうエロ熱いバッハはマーラーとの円環を想像させるよ。

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まさかのブラ1初稿とか、そこにいきなりマドゥーフ氏登場で嬉しいとか、コルノ・ダ・カッチャの朝顔の上空に座れてよかったとか、優人氏頑張れ親父に負けんなとか、でもマチャアキ+ヒデちゃんのコンティヌオはいまだに最強だなあとか、にしても親父の一段鍵盤チェンバロはどうしてあんなに鳴ってたんだとか、櫻田氏絶好調とか、パレスを歌ったジョアン・ランの装飾がとっても素敵だったとか、やっぱりオペラシティ古楽は舞台サイドに限るとか、いろいろ考えつつ、佳い演奏会でした。
by Sonnenfleck | 2011-07-21 21:57 | 演奏会聴き語り
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