浦沢直樹・勝鹿北星・長崎尚志『MASTERキートン 完全版』 1・2、2011年、小学館ビッグコミックススペシャル。
大学時代、僕が所属するサークルの部室には、諸先輩方が残していった種々雑多なマンガが蓄積されており、『MASTERキートン』を初めて読んだのは、おそらくそこだったのではないかと思われる。
その筋では高名な作品ゆえ、何を今更と笑われるかもしれないが、背景と表情と仕草で緻密に描かれた人間模様、苦い味わいとマンガならではの痛快さを両立させるバランス、読後ほのかにかき立てられる学問への思い、、ほとんど最強のマンガと言うべき存在だ。浦沢直樹という作家の代表作は、『YAWARA!』でも『MONSTER』でも『20世紀少年』でもなく『MASTERキートン』だと、僕は勝手に思っている。
実はこの『MASTERキートン』、長い間絶版になっていたんです。理由は定かならずも、漏れ聞くところによれば、原作者たちの間で権利にまつわるトラブルが発生したため、、とのこと。この素晴らしい作品が、当然備えられるべき書店に並んでいない、という異常事態が長く続いてたわけで。ところが、何らかの障害が取り除かれたのかついに2011年の8月、完全版として覆刻されることになったのですな。
ストーリーはこんな感じ。
ロイズの保険調査員(オプつまり探偵)である平賀・キートン・太一は、オックスフォード大学を卒業した考古学者であると同時に、元SASのサバイバル教官でもある。フォークランド紛争や在英イラン大使館人質事件では隊員として活躍したとされる。
父は日本人の動物学者、母はイギリス人。オックスフォード大学時代に日本人女性と学生結婚し、一女をもうけたが、離婚。別れた妻は、数学者として大学教員を勤めている。本人は考古学の道を進みたいと思っているが、職もままならない。発掘費用のために調査員を続けるが、過去の経歴からいろいろな依頼が舞い込み、数々の危険な目にも遭ってしまう。
冷戦終結前後の社会情勢、考古学、そして太一をめぐる人々のドラマを描いた作品。(wikipediaより)
ともかくも再発売された第1巻と第2巻では、「迷宮の男」から「赤の女」までの24話分が収録されていて、ああそうだったそうだった…と感慨にふけりながら、休日の夕方を使ってすべて読み通す。
以前と同様の痛快な心地を体験する話もあれば、学生の頃とは異なるニュアンスを感じる話もあり、いつまでも色褪せない名作だなあと改めてしみじみ。第15話・第16話「RED MOON/SILVER MOON」など、のちの『MONSTER』のサスペンスにつながっていくような闇を感じたし、第9話「貴婦人との旅」、第23話「昼下がりの大冒険」などは、昔とは違う印象を持ってしっとりと読んだのだった。
第3巻、9月30日発売予定。