Georg Philipp Telemann Ⅴ:新大久保バロックアンサンブル(9/9)

自分の心の底でこれだけは無条件で行きたいなあと思っているのは、大規模なオーケストラでも絢爛なオペラでも晦渋なゲンダイオンガクでもなく、実は、中後期バロックの小アンサンブルの演奏会なのだ。
中後期バロック音楽の聴取には、腹の奥から湧き上がるような身体感覚が伴っているから、年中、バロックアンサンブルのコンサートだけ聴いててもいいくらい。

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c0060659_7565229.jpg【2011年9月9日(金) 19:00~ 日本福音ルーテル東京教会】
●テレマン:四重奏曲(4声のコンチェルト)ト長調 TWV43:G6
●同:トリオ・ソナタ イ短調 TWV42:a6
●ファッシュ:ソナタ(四重奏曲)変ロ長調
●C.Ph.E.バッハ:ObとB.C.のためのソナタ ト短調
●テレマン:トリオ・ソナタ(《音楽の練習帳》より)ホ長調 TWV42:E4 *
●同:四重奏曲(4声のコンチェルト)イ短調 TWV43:a3
 ○ファッシュ:ソナタ(四重奏曲)変ロ長調~第2楽章
 ○テレマン:四重奏曲(4声のコンチェルト)イ短調~第4楽章

⇒トーマス・メラナー(Ob)、宇治川朝政(Rec, VFl*)、木村理恵(Vn)
 懸田貴嗣(Vc)、福間彩(Cem)


東京に戻ってきたとき「これで新大久保の教会の古楽コンサートに行きまくれる」とほくそ笑んだものだが、現実はそう甘くもなくて、平日の夜に職場から遠い新大久保に向かうのは果たして至難の業であった。当夜は新大久保駅から、物情騒然とした街区をかき分けて歩いてゆく。たいへん久しぶりの訪問である。

2009年のブルージュ古楽コンクールでアンサンブル部門第2位を勝ち取った「アンサンブル・ディアマンテ」のメンバーをコアに、仕事人・懸田貴嗣氏、そしてベルナルディーニ(ゼフィロ)とアーフケン(FBO)という当代最強の2人に師事した若いオーボイスト、トーマス・メラナーを迎えた本公演。テレマン尽くしにファッシュとエマヌエル・バッハを加えたプログラムも最高です。

全体を通してハイレベルなコンサートの中で、ファッシュの変ロ長調ソナタの奇抜さ、そしてテレマンのホ長調トリオで聴かせた「古楽の良心」みたいなもの、これらがとっても素晴らしかった。満足しました。
ファッシュは前々からその華々しい外面性に心惹かれていたが、この作品も「ソナタ(四重奏曲)」という苦しいネーミングの通り、様式が最後期バロックを逸脱して、気持ちが前の方向へ飛んじゃってる。ヴィヴァルディ・プログレッシヴな第3楽章、そしてアンコールでも取り上げられた第2楽章は、一面のテレマン畑のなかに謎の外来種が奇抜な花を咲かせてるみたいだった。面白。

いっぽう、テレマンの安心感。イタリア風味かつギャラントなイ短調コンチェルトも素敵だったが、質朴な響きをちゃんと維持しているホ長調トリオが、この日いちばんの聴きどころだったよ。
宇治川氏は「箸休めみたいな作品です」ってスピーチしてたけど、いやいや易しい型ほど恐ろしいよね。この日のアンサンブルは、福間氏の安定した推進力と、懸田氏の強固で豊饒な発声に支えられて、音符を上品に深く抉る木村氏と、ヴォイスフルートに持ち替えた宇治川氏の翳のある音色が絡まり合って美しかった。
(懸田さんはBCJとかOLCのトゥッティでお見かけすることが多かったので、裸の通奏低音を聴いたのはたぶんこれが初めてなのだが、こんなに素晴らしい音楽をやられる方だと気づいてなかった自分が情けない。)

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さて、メラナー氏は心優しいギークのような見かけに反して、なかなか我の強い音楽を志向するひとで、小さい作品では自分を閉じ込めておくのに苦労しているような印象を持った。
だからテレマンのイ短調トリオはいかにもアンサンブルがずれて、それを取り戻そうとする必死さが窮屈を生んだし(確かにオーボエとリコーダーが組むトリオ・ソナタは構造的にそうならざるをえないのだが…)、逆にソロを取ったエマヌエル・バッハのソナタは、作品の烈しい様式感と彼の志向がぴたりと一致したために、佳い感じの演奏になってたと思うの。中規模以上の古楽アンサンブルでソロを吹いたら、彼きっと面白いんじゃないかなあ。
by Sonnenfleck | 2011-09-24 08:00 | 演奏会聴き語り
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