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納涼帝国樂

納涼帝国樂_c0060659_20323475.jpg【Linn Records/CKD 385S】
<kuniko plays reich>
Electric Counterpoint version for percussions (1987/2009)
Arr. for steel pans, vibraphone & marimba and pre-recorded tape (arr. KUNIKO)
Six Marimbas Counterpoint (1986/2010)
Arr. for solo marimba and pre-recorded tape (arr. kuniko)
Vermont Counterpoint version for vibraphone (1982/2010)
Arr. for vibraphone and pre-recorded tape (arr. kuniko)
⇒加藤訓子(Perc)

実は昨夏からずうっとiPodに収まってて、昨夏今夏のヘビロテどころか、10年代前半の個人的テーマアルバムとなりぬべらなり。

パーカッショニスト・加藤訓子さんを生で聴いた、たった一度のコンサート「武満徹を聴く、武満徹をうたう」コンサート@愛知県芸(2007年1月)は、強烈な蝕みを僕の精神に遺している。むなりばいむなり。

+ + +

このアルバムを初めて聴いた瞬間のイメージの強度も、おさおさ劣らない。
スティールパンの眠そうな打撃音が漸増するにつれて、夏の大気が満ちた駅のホームがぐらりと揺れて、傾きに沿って線路に転落しそうになる。目の前をびゅいいと通り過ぎる急行電車は、カナルを突き破って届く蝉の声は、僕を押しとどめる―

Electric Counterpointが進展し、やがてMovement III: Fastに辿り着くと、マリンバの破裂音がスタジオの壁にぶつかって砕ける音とともに、総体としての音楽は前向きなニュアンスを得、薄まって消える。

Six Marimbas Counterpointは、印象をガラリと変えてくる。
きつく閉じた蕾が、押しとどめられない内的な欲求によって開くようにして、音場は閉じた隘路から開けた広場へと拡がっていく。そして聴き手は、それを外側から視ることを許されている。それが「空に知し召す」前曲との圧倒的な相違である。

モノトーンの前2曲と対照的に、色とりどりの音符がさらさらと転がっていくようなVermont Counterpointを、僕たちはデザートのように楽しむことを許されるだろうか。加藤さんの巫女ライクな禁欲性を思えばこっそりと。

+ + +

巧拙などは取り上げらるべき話題にもならない。晝の暑いさなかにこうした音をしんみり聴いていると、夏がやがて去っていくことがふと思い起こされる。
by Sonnenfleck | 2012-08-13 22:01 | パンケーキ(20) | Comments(2)
Commented by 雪如雨露 at 2012-08-30 16:11 x
こんにちは。評判は聞きつつも買いそびれていたので、良い機会と思い購入しましたが……うーむ、これは凄い。トリップ感も中毒性も半端ないです。休日の午後を丸々一枚の音盤で潰したのはいつ以来だったか。ヘッドホンで聞き続けてたら耳が馬鹿になるのが先か変なビジョンでも見え始めるのが先か、という気さえしてきますね。ただでさえ打楽器とミニマルの組み合わせは卑怯極まりないというのに、こんな演奏されてしまうとどうしようもねえです(笑)
Commented by Sonnenfleck at 2012-09-04 19:51
>雪如雨露さん
旅行に出ていまして、ずいぶんお返事が遅れてしまいました。すみません。
「休日の午後を丸々一枚の音盤で潰したのはいつ以来…」という一文にすべてが表れていますね!これが多重録音の産物であり、現実には存在し得ないということが余計に快感を増幅させてます。儀礼に(目に見えないようにして)音楽を取り込んできた古今の宗教家たちの気持ちもわかるというもの。。
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