クリストフ・エッシェンバッハ/フィラデルフィア管弦楽団:ロマン野郎たち

c0060659_1555283.gif【2005年5月20日(金)19:00〜 来日公演/横浜みなとみらいホール】
●チャイコフスキー:Pf協奏曲第1番
 ○アンコール 岡野貞一:朧月夜
→ラン・ラン(Pf)
●チャイコフスキー:交響曲第5番
 ○アンコール スメタナ:歌劇《売られた花嫁》〜〈道化師の踊り〉


前半。
袖から現われたラン・ランは、長髪で中肉の好青年に変身していました。もはやホリエモンではない。しかし僕のなかでイメージ修正の必要があったのは、彼の見た目ではなく、むしろ彼の内面でした。なにかとあの奇矯な演奏姿だけが話題になるラン・ランですけど、funnyではなくlyricalというのが彼への正当な評価だと思うのです。強靱な筋肉から生まれる粒立ちのよい美音、そしてそれを駆使しての清らかな歌い口。かなり自由なアゴーギクをきかせて旋律を愛おしむように奏でるんですが、そこには粘つきだとかこれ見よがしの似非ロマンはなく、あくまで内面から自然に湧き上がる素直な叙情に拠っているように感じられます。全曲を通じて、派手で有名な音型よりもむしろ、この曲ではほとんどのピアニストが注意を払わないであろう静かな箇所のほうに僕は引き込まれました(派手な箇所のパフォーマンスは当然、言うまでもなく、これ以上ないほど完璧なのです)。

それに合わせるオケ。第1楽章冒頭の和音を聴いた瞬間から、もう開いた口が塞がらない。これがあのフィラデルフィア・サウンドなのか…。初めこそやや固さもありましたが、聞きしにまさるその壮麗さ、豊饒さ、ピアニッシモでも決して痩せない音色にただただ茫然。個人的には本日これより世界最強オケ認定です(何を今さら)。さらにエッシェンバッハのドライヴセンスにも驚嘆。この鬼のように豪放なオケを見事に操ってラン・ランの呼吸にピタリと合わせるんですね。でもエッシェンバッハの凄さは、まだまだこんなものではなかった。

さてチャイ5です。前半から引き続き1stVn→Vc→Va→2ndVnという両翼配置。
第1楽章の序奏からしてすでに、凡百の演奏とは違います。引きずるようなテンポのなかでVaに主導権を持たせ、華やかな弦の音色をわざと抑制。時にブルックナーのように大きな休止を挟む。主部に入ってからも暗いものに塗り込められるような重々しさがずっと付きまとい、光明は見えません。
第2楽章には本当に、息を飲みました。ただ重く、ただ暗く、静かに、しっとりと美しく歌われるあの有名な旋律マーラーのようなチャイコフスキーなんですよ。こんな演奏、聴いたことがない。痛々しいくらいロマンティックで、胸苦しくなるようなエッシェンバッハ自身の極度の繊細さを、このオケが受け止め、忠実に拡大して聴き手に伝える。万全のHrソロ、考え抜かれたClの音色、Kbの充実ぶり…こんな音楽を聴かされてしまってはもう何も言えないですよ。ぐうの音も出ない。音楽を聴いた衝撃で体が震えるなんていうこと、本当にあるんですね…。この第2楽章が聴けただけで、自分が音楽を趣味にしていたことを幸せに思います。
そんなわけで、続く第3、4楽章は僕にとってはもはや豪華な附録でしかなかったんです。全開のフィラデルフィア・サウンドによる純粋な耳の快楽。これ以上、何を望み得るというのか。
by Sonnenfleck | 2005-05-21 01:48 | 演奏会聴き語り
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