〈ル・プロジェ エマール 2012〉ドビュッシー+アイヴズ@トッパンホール(11/23)

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【2012年11月23日(金) 17:00~ トッパンホール】
●ドビュッシー:前奏曲集第2巻
●アイヴズ:Pfソナタ第2番《マサチューセッツ州コンコード1840-60年》
⇒ピエール=ロラン・エマール(Pf)


昨年の〈ル・プロジェ エマール|コラージュ―モンタージュ〉に続いて。
実は本公演、チケットを取るのを忘れてましてね。慌てて某オクを探すも当然ながら出てこず、悲嘆に暮れていたところへ急遽出品があり、たまたま酔っ払って帰宅した際のことなれば、他のひとと競ったあげく強引に落札したという顛末。

アルコールを入れた週末の夜に某オクとHMVのサイトを覗いてはいけない。

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とまれ、この日はドビュッシーを冷製オードヴルくらいの扱いに、メインの《コンコードソナタ》へと気持ちはまっしぐら。アイヴズの変竹林な作品群のなかで、僕が唯一接近できているのがこの、《コンコードソナタ》ことソナタ第2番《マサチューセッツ州コンコード1840-60年》なんである。

全4楽章からなるこの巨大なソナタは、脱湿装置に掛けて機械的に乾燥させた無調時代のシェーンベルク音楽をベースに、ベートーヴェンの運命動機と民謡と讃美歌とディキシーランドジャズとがメチャメチャにコラージュされた、非常に混沌とした音楽である。演奏時間は50分に達する。
いちおう、各楽章には描写する人物が設定されていて、それにちなんだ音楽になっているらしい(フランスバロックにおける内輪ネタ名付けを想起させる)。この陽気な混沌の前ではショスタコーヴィチなんか小僧みたいなものです。

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第1楽章〈エマーソン〉。WERGOレーベルのヘルベルト・ヘンクによる録音を聴いてきた自分は、エマールのことのほかエモーショナルなフレージングに、まずは吃驚する。と同時に、今夜の興奮を十分に予感する。
エマールはベルクのソナタで動物の脂が燃えるような濃密な録音を残しているけれども、あれとよく似た脂っぽい煙を感じる。タッチはクリアな水彩風、でも重ねられて出てくる響きは油彩。ピアニストのベートーヴェン的果断の前では、幽鬼のようなヴィオラは掻き消されてしまうだろう。

第2楽章〈ホーソーン〉。全曲中もっとも派手な見かけをしている。
ジャズや行進曲の主題が執拗にコラージュされていくいっぽうで、この楽章には「14と3/4インチ」の長さのトーンクラスターが登場します。
この日、エマールは黒く塗った細い角材を右手で巧みに操ってクラスターを鳴らしてたけれども、勢い余って角材を床に落としてしまい客席はヒヤリ!でも左手で和音を鳴らしながら右手で拾い上げ、また少し優しくクラスターを鳴らしてから、譜めくりストに左手で手渡しという軽業をやってのける肝っ玉。

そして、エマールがほとんど腰を浮かせるくらい猛然と最後の和音を叩きつけた直後、間髪入れずに客席に鳴り響く「ピポパピポパピポパ♪」というザンクトフローリアン携帯。教会の鐘じゃなく、エマールには電子音。
でも幸いにして旋律じゃなかったものだから、かえって綺麗なコラージュになったようにも感じたのよね。作曲家の意図からはトータルでそんなに遠くないっつーか。楽しがらせのアイヴズがこの夜、文京区に降臨してたかもしれん。

第3楽章〈オルコッツ〉。『若草物語』の作者ルイーザ・メイ・オルコットにちなむこの楽章は、全曲中の優雅な箸休め。エマールのタッチも急に優しい。

そして第4楽章〈ソロー〉。この楽章は本当に難しくて、自分にはまだ理解ができていない。エコでロハスな音楽かと思いきや、もう少し晦渋で近寄りがたい雰囲気もあって、森のなかで霧に包まれたような気持ちにさせられる。
エマールはどこかのメロディや何かの断片に足場を組んでいただろうか?いや、いかなる足場もなかった。構造は相対化され、ピアニストは浮遊し、茫洋とした時間だけが観測される。100年くらい先を行っていた音楽なのかもしれない。

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前半のドビュッシーは、実はそんなに胸に響いてこなかった。
前奏曲集第2巻って、ドビュッシー晩年の象徴主義好みや怪奇趣味がモロに出ている音楽だと思うんです。クリアな和音とかスタイリッシュな発音とか、そうしたものがあまり似合わない。エマールはとても美しく演奏していたけれども、僕は汚濁や呪術をこの曲集に求めたい。贅沢を言っているのはよくわかってますけれども。。

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ホールの行き来には、CLASSICAのiioさんが書かれていた「神楽坂ルート」を初めて辿ってみる。なんという静寂。脳みそに蓄積されたアイヴズの断片をひとつも落とさずに帰宅できたのは、帰りの神楽坂ルートの凛とした静けさゆえだろう。
by Sonnenfleck | 2012-11-26 06:12 | 演奏会聴き語り
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