大井浩明×クラヴィコード 「6つのパルティータ」@カフェ・モンタージュ(2/9)

冬の京都になぜか今年は縁があり、こうして2月に再び訪れることになった。1月に比べれば、心なしか日差しが暖かい。
この日は夕方まで大阪の大槻能楽堂で観能。その後、たぶん生まれて初めて阪急に乗って京都・烏丸へ。ホテルに荷物を置いて、演奏会場に向かう。

「カフェ・モンタージュ」は「京都の街中の小さな劇場」として昨年オープンしたばかりの、音楽カフェ兼小さなスタジオである。京都御所南の静かな一角に居を構えたオーナーの高田氏が、音楽や演劇でたいへん先鋭的な取り組みを行なっている。関東だと、、うーん、、関東にこんな空間はないかもしれないぞよ。いや、あるいは中央線沿いの音楽喫茶たちはちょっと似た雰囲気なのかもだが。。

店内は広くない。道路に面した入り口から半地下のガレージのように下がって、その奥にこの日はクラヴィコードが鎮座している。座席は満杯に詰めて40席程度で、この楽器を楽しむには限界のキャパなのね。

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c0060659_16265151.jpg【2013年2月9日(土) 20:00~ カフェ・モンタージュ】
<バッハ&高橋悠治>
●パルティータ第1番変ロ長調 BWV825
●《アフロアジア的バッハ》~「空」「沈む月」
●パルティータ第2番ハ短調 BWV826
●《アフロアジア的バッハ》~「浮き雲」「闇のとばり」
●パルティータ第3番イ短調 BWV827
●《アフロアジア的バッハ》~「煙の渦」「瞬く炎」
●パルティータ第4番ニ長調 BWV828
●《アフロアジア的バッハ》~「さざなみ」「冷たい雨」
●パルティータ第5番ト長調 BWV829
●《アフロアジア的バッハ》~「散る砂」「黄昏」
●パルティータ第6番ホ短調 BWV830
→大井浩明(クラヴィコード)


クラヴィコードは少しスマートな置床、あるいは横倒しにしたAEDケースくらいの木箱です(的確なたとえが思い浮かばない)
発音システムは、撥弦式のチェンバロよりも打弦式のピアノにまだ近い。しかし鍵盤が直接弦を叩くぶん、機構が1段階増えるピアノに比べると打鍵がストレートに伝わる面白さがある。そして音量は極小。かつ、速やかに減衰して空気に溶ける。

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このブログにたまに登場しているオルガニストの友人は、かつてチェンバロ、スピネット、クラヴィコードを自室に隠し持っていて、仲間うちの深夜の語らいの合間に、われわれは彼のクラヴィコードを聴いたりしたものだ。

友人が早く入場し席を確保してくれたため、幸運にも最前列かぶりつきの栄誉に浴することになった。筐体からの距離はわずか2メートル。そこへ怪人(と書くのをどうかお許しください)大井浩明氏が悠々とやってくる。プロの演奏家によるクラヴィコードはこれが初体験で、どんな聴こえ方になるのか想像がつかない。

大井氏は、彼が展開している現代音楽シリーズ「POC」のために東京の音楽シーンではややもすると現代音楽専門家のように見なされがち。でもこのひとのライヴを初めて聴いたのがスクエアピアノによるベートーヴェンの《テンペスト》だった僕は、数少ない古楽とゲソのハイブリッド者のひとりとして氏を捉えてます。

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この夜、バッハの巨大な世俗山塊であるパルティータを聴いて、僕は改めて大井氏の豊かなセンスに魅了された。

まず、適切で必要十分なリズム感覚。舞曲の集合体であるパルティータは、動きのないリズム感で塗り潰すと実に退屈な音楽に堕ちる。昔取った通奏低音の杵柄で少し慎重に聴いたりもしたんだけど、大井氏のサラバンドやジーグ、クーラントは完璧にハマっていた。恐れ入る。
欲を言うなら、できればリピートありの演奏で大井氏がどんな装飾づけをするのか聴いてみたかったが、それでは終演が軽く0時を超えてお客さんがみんな帰宅できなくなっちまうので、仕方がない(笑)

そして、楽器の特性を活かしきることによる色彩感覚。パルティータが曲者なのは、舞曲じゃないナンバーも、あるいは舞曲のかたちをしていても内容物が巨大すぎて舞曲の殻をぶち破っているナンバーも、そこに混入している点だと思うんだよね。
たとえば第2番のシンフォニア第4番の序曲、ジーグ第6番のコレンテなどは、ほとんど管弦楽を想定したかのような幅広い音色を要求しているのだけど、チェンバロでそれを実現させるのは実は至難のわざ(パルティータにモダンピアノの名録音が多いのはこのためじゃないかと)。そして…クラヴィコードはモダンピアノ以外にこの音色絵巻を実現しうる唯一の鍵盤楽器だったりするわけだ。

この日の大井氏は、ダイナミクスを自在に付けられるクラヴィコードを用いて、左手でB.C.ファゴットやヴィオラやティンパニ、右手でオーボエやヴァイオリンやトランペットをそれぞれよく想起させる音を実現。このシンフォニックな箱庭!全能の小器械クラヴィコードの音が、夜の京都のしじまに次々と溶けて消えてゆく!

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素晴らしい演奏実践と、終演後にオーナーの高田氏がお客みんなに振る舞ってくれた赤ワインに気分を良くしたわれわれ。その後、カフェ近くのイタリア料理店「クァルテット・コルサーレ」に突入し、すっきり系白ワインと美味しい魚介料理に舌鼓を打ちつつ、終電がなくなるまで音楽話に花を咲かせたのであった。

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(※入店時に入れ違いで、某有名ヴァイオリニストご一行に遭遇したのが愉快な思い出になった。ご贔屓にされてるらしい。)
by Sonnenfleck | 2013-02-10 17:21 | 演奏会聴き語り
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