【EXTON/OVCL-00472】
●ショスタコーヴィチ:交響曲第4番ハ長調 op.43 ⇒エリアフ・インバル/東京都交響楽団 レコードアカデミー賞大賞!の惹句が、わりとマジで気になって購入してみたのです。日本のオケ録音に大賞が出たことについて、陰謀論者は疑い深い視線を投げかけるのかもしれないけれど、僕は純粋に興味がある。 録音で聴いてきたインバル/ウィーン響のショスタコは、僕にとっては何か、言いたいことを言い切っていないような、噛みしめても繊維質がボソボソと口に当たるような生煮えの雰囲気を感じていた。 ところがインバル/都響のショスタコは、その半端な印象をしなやかに投げ飛ばし、もってインバル流レシピの決定版たるを得てます。ほんとです。 + + + ここに録音されたタコ4は、他のどんな演奏にも似ていない。 この演奏は、ザミャーチンの宇宙船インテグラル号のようなディストピア的全能でもなければ、社会主義リアリズムの泥をぼとぼと飛ばすようなどん底でもない。この演奏が表現しているのは、絶望的に乾ききった新古典主義バレエ。個人的にはものすごいショックである。 インバルはこういうショスタコーヴィチがやりたかったんだなあ。それはニュートラルかつ上手で品の佳い音のするオーケストラを絶対的に必要とする。たぶんオーケストラは「機能的」みたいな服すら脱ぐことが求められて、いわんやアクの強いウィーン響では十分にインバルの意志を実現することができなかったのだろうと思う。都響は理想的な道具なんだろうなあ。納得納得。 第1楽章で聴こえてくるのはストラヴィンスキーの遠い残響。アヴァンギャルドが支配する直前、帝政最末期のストラヴィンスキーが生み出していたバレエのように、露西亜の呪術的民話を内包しつつも肌を切り裂きそうな乾いた風が吹き抜ける音楽。この交響曲をマーラーからもアヴァンギャルドからも遠ざけた演奏で聴くのはこれが初めてかもしれない。 バレエを想起させられるのは、インバルが都響に対して命じている、恣意性を排除した音色とリズム感が完璧にハマっているからだろう。 もっとも強烈だったのは、あのプレストのフーガが「優雅」だったことである。いちばんしっくり来る形容詞がよりによって「優雅」だよ? じっとりしつこいマーラーをやらせると今では世界で一二を争うインバルだけど、マーラー成分が混入しまくってる第2楽章は意外にふわとろ系。バレエのロマンスシーンかというくらい、拍節感を維持しつつふんわりした音響で支配する。 第3楽章もやはり第1楽章と同じ傾向。苛烈な音響や粗雑なアゴーギクは退けられ、キリッと引き締まったリズムと、冷たく乾いた優雅なマチエールで音楽が展開していく。途中の木管隊による斉奏の、どこのものでもない中庸な美しさには呆然としちゃいますよ。これが無個性無個性と貶められ続けてきた日本のオーケストラの「個性」なのかもしれないな。だとしたらこんなに嬉しいことはない。 この楽章、いつもペトルーシュカの最終場・謝肉祭を彷彿とさせるんですが、インバル/都響のこの演奏に振り付けてバレエを上演したら、さぞかしクールだろうな。作りものじみててさ。
by Sonnenfleck
| 2013-03-13 23:18
| パンケーキ(20)
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