ブリュッヘン・プロジェクト第3夜|18世紀オーケストラのシューベルト、メンデルスゾーン@すみだ(4/6)

c0060659_7382884.jpg【2013年4月6日(土) 18:00~ すみだトリフォニーホール】
<ブリュッヘン・プロジェクト第3夜>
●シューベルト:交響曲第7番ロ短調 D759《未完成》
●メンデルスゾーン:交響曲第3番イ短調 op.56《スコットランド》
 ○バッハ:カンタータ第107番《汝何を悲しまんとするや》BWV107~コラール
 ○ヨゼフ・シュトラウス:ポルカ・マズルカ《とんぼ》op.204
⇒フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ


嵐の夕べ、すみだで18世紀オーケストラは19世紀オーケストラに変貌していた。
ブリュッヘンが18世紀老人から19世紀老人に変容して新日フィルを指導していたのは何度か聴いているが、CDで何度も鑑賞してきた彼「ら」のロマン派作品をこの耳で最後に体験できたのは、本当に、本当に幸せだった。

+ + +

まずシューベルトは。これは僕の当初の予想にもっとも近い、典型的な00年代ブリュッヘン像をしっかりと示していた。とにかく静かで、不穏で、冷たい風がひゅうひゅう吹いているようなグロテスクな音楽。生で聴くとああいう感じなんであるなあ。
2007年のブリュージュライヴをFMで聴いて書いた感想文とほとんど変わらないので、それをほぼそのまま転載しておく。
まず1曲目の《未完成》を聴いて、冗談ではなく心臓が止まるかと思った。暗くて、激しい、どん底の演奏でありました。一筋の光明もない。

第1楽章。胸を抉るような低弦の響き、Flが断末魔の声のように引き伸ばされて第1主題を締めくくり、したがって第2主題はなかなか訪れない。訪れたら訪れたで、気を病んでしまったような暗鬱な音をしている。音楽家は、お客を集めて、お金を取って、こんなに破滅的な音楽をやっていいんでしょうか。。

展開部が来ても、再現部が来ても、この暗さがまだ続くのかという印象が強い。夜のあとに夜が明けない、残酷な音楽です。咆哮がこの世のものとは思えないのです。大袈裟に書いているのではありません。全部本当にあったことです。

第2楽章。今度は予想外に軽くてそっけない。最初の下行音型主題の提示が終わって、付点の付いた主題が登場すると、いよいよ音の量感がすーっと消えます。青く美しく透き通った沼地、それは毒が流れ込んで生き物が住めないから。
2007年7月6日
+ + +

そして後半の《スコットランド》で、僕たちは19世紀のリアルを聴いた。
19世紀のリアルとは何か?19世紀のリアルとは、つまりそれは数十年前までバロックだったということ。簡単な事実です。

相対的に数を増やしていった弦楽隊に埋もれてしまっている木管隊の旋律を復権させ(第3楽章)、低音擦弦楽器とファゴットに通奏低音のフォルムを要請し(特に第1楽章のおしまい)、トランペットとティンパニには彼らが誕生した原初の「ランドスケープ」を思い出させる(第4楽章)こと。

30年間ずっと一緒にやってきた彼「ら」が簡単そうにこれをやってのけるのを目の当たりにしながら、僕はメンデルスゾーンを愉しむ。ただ演奏実践がすべてであった時代の音楽を。これが彼「ら」の着陸地点なのだろうなあといま思うのです。第3楽章の美しすぎるメロディと、それを自在に歌い上げるオーケストラの幸せな横顔とブリュッヘンの大きくて小さな背中を見ていて、涙が出て仕方がなかった。

+ + +

正規のプログラムを聴きながら、アンコールには何をやってくれるのかを断片的に考えていた。《真夏の夜の夢》のスケルツォなら寂しくて据わりがいいな。

ところが、車いすから降りて再び指揮台に上がったブリュッヘンが長い腕を振り下ろすと、明らかにバロックのダンスナンバーがオケから流れ出したので驚く。
付点のある3拍子系、寂しいメロディ、フレーズの残り香は少なからずフランス風、なので、心のなかで密かにラモーを期待していた僕はラモーと判断したのだが、耳からの様式判断がよろしくないのはかつて大学で学んだことなのであった。



↑この16:17~。バッハのカンタータ第107番から最終コラール。
コラールなので厳密に言えば世俗のダンスじゃないわけだけど、これはたとえばバッハが管組第1番で使ってるフォルラーヌのリズムの準用なのだ。19世紀オーケストラはまた18世紀オーケストラに戻った。
今どきのハイパーな古楽アンサンブルのバロックとは少し違う、どっしりした粒あんの大福みたいなバロック。明晰より野趣。しかし付点のリズムはきつくなく、角は柔らかい。最後に彼「ら」は僕たちにバロックを聴かせてくれたのだ。何を悲しもうとしているのか。僕たちは。

客席に、徐々にスタンディングオベーションが広がっていく。東京の音楽シーンで自然なスタオベが起こることはほとんどない。そうなんだよね。みんなブリュッヘンと18世紀オーケストラを聴きに来たひとたちなんだ。僕も立ち上がる。

そして最後に舞台から流れてきた音楽も、僕たちの度肝を抜いた。
ヨゼフ・シュトラウスの《とんぼ》!
やはりメンデルスゾーンと同じ公平な管弦バランス。透き通った羽の、優しくて、華やかな、寂しいとんぼ。いまこうして思い出していても、胸にこみ上げるものがある。満場のスタオベに応えて、指揮者の一般参賀が二度。そして最後に、ブリュッヘンを真ん中にしてオーケストラみんなが横一列に並んでみんな参賀。とんぼの羽に腰掛けて、リコーダー仙人は遠くに行ってしまった。ありがとうブリュッヘン。ありがとう18世紀オーケストラ。
by Sonnenfleck | 2013-04-14 08:32 | 演奏会聴き語り
<< バッハ・コレギウム・ジャパン《... フランシス・ベーコン展@東京国... >>