【161】5/3 1000-1045 G409〈アポリネール〉
<"パリのバロック" ランドフスカの再現コンサート> ●バッハ:前奏曲ホ長調 BWV854 ●ヴィヴァルディ/バッハ:協奏曲ニ長調 BWV972 ●バッハ:イタリア協奏曲ヘ長調 BWV971 ●クープラン:《牧歌(田園詩)》~クラヴサン曲集第2巻第6組曲より ●テレマン:ブーレ ヘ長調 ●フローベルガー:ラメント~たぶん第12組曲《皇帝フェルディナント3世の悲しい死に寄せる哀悼歌》より ○クープラン:《おしゃべり》~たぶんクラヴサン曲集第2巻第6組曲より ⇒中野振一郎(モダンCem) 楽しく、豊かで、意義深い時間。個人的には、これまでのLFJ8年間のなかで三指に入る公演だった。 これは、古楽実践に巧妙に偽装した未来主義プロデュース。19世紀末のデカダンスの球根から芽を出し、20世紀になって咲いたのは、未来主義の鉄の花じゃなかったか?ランドフスカのサロンに満ちていた鉄の花の香りが再現され、かつ未来主義者の幻覚が(幾重にも時空を捩らせつつ)結実した45分だったと言えないか?何しろ人びとは未来の服に身を包み、ガラスの建築物のなかの小部屋で豊かな音楽に耳を傾け、機械の精霊を閉じ込めた小さな板を持ち歩いて会話しているのだ。 中野氏いわく、このコンサートは特定の一夜を再現したものではなく、1920年代から50年代のランドフスカの代表的なレパートリーを集めたプログラムとのこと。奏法も(これがまた猛烈に面白いのだけど)当時の演奏様式を強く意識した、と語っておられ、事実そのように聴こえるんである。 + + + バッハのホ長調プレリュードから、ヴィヴァルディの協奏曲編曲、そしてイタリア協奏曲に至る流れは、ねっとりした浪漫派風タッチとモダンチェンバロならではの自在なフェルマータ(!)により、ピアノでもヒストリカルチェンバロでもない、何か独自の味わいを持つ珍妙な愉しさとともにこちらへ提示される。 折り返し、クープランからはさらに壮絶な音世界。未来よ。これは未来。 モダンチェンバロはペダルの踏み込みにより、4フィート・8フィート・16フィートの化学的レジストレーションが可能なのであり(未来でしょ!)、むろん演奏中でも対応できる。 中野氏は、当時「発見」されたばかりのイネガルを「ばんがばんがばんがばんが」と極端に奏しつつ(これこそがモダン古楽に対する敬意と古楽的実践精神の結実!)クープランの牧歌世界を、テレマンの舞踏世界を、途轍もなくギラギラした別のものに変容させていく。 そして最後のフローベルガーが演奏されたとき、これがマンガなら「ギュオーン」とか「ジャキーン」という擬声語がコマのなかに入ってもおかしくはなかった。 地底を這う巨大な配管を思わせる16フィートの極低音に下支えされ、チロチロとランプが点滅するような4フィートの高音が流れるなか、巨大ロボのようなフローベルガーが立ち上がってくるのね。これはもう本当に異常な体験。鋼のラメントは機械油の涙を流し、パリの至福は1889年のエッフェル塔から始まったのだ。
by Sonnenfleck
| 2013-05-04 11:43
| 演奏会聴き語り
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Comments(2)
ちょうど40年前、東京で暮らし始めたと同時に、細々とコンサート通いを始めた時の演奏会で使われていたチェンバロはこれすべてノイペルト製でした。
いわゆる歴史的チェンバロを初めて聴いたのは1976年秋のパリ・バロック・アンサンブルでロベール・ヴェイロン=ラクロワではなかったかと思っています。もっとも会場が上野の大ホールでしたから、いっそノイペルトのほうが聴こえたかもしれません。 その時に聴いたプログラムをツイッターに上げておきます。ただし、バッソンのポール・オンニュは急病で来日できず。プログラムは若干変更されていたはずですが、詳細不明。
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Sonnenfleck at 2013-05-06 12:08
>HIDAMARIさん
今回使われたモダンチェンバロもノイペルト製ではないかという情報を掴んでおります。会場は天井が低くてごく小さい会議室だったのですが、あの轟々という鳴り方・響き方を聴くかぎりでは、文化の大ホールなら十分に存在感を示せそうでした。 18世紀を真面目に再現する古楽が一般化して「フツーのこと」になったいま、今度は20世紀の古楽運動を参照する動きがあったって全然おかしくないんですよね。ヴェイロン=ラクロワはちょうどモダンからヒストリカルへ橋渡しをした御仁ですし、一度、本腰を据えて録音を聴いてみたい演奏家のひとりです。(Twitterのプログラム、拝見しました!)
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