舞城王太郎『煙か土か食い物』、2004年、講談社文庫/2001年、講談社ノベルス。
一か月前に読んだ
『阿修羅ガール』がじわじわと効いてきまして、つい手に取ってしまった舞城デビュー作。うーん…自分の心性とは合わないような気がするんだけどなあ…なんか妙に彼の世界観に惹かれてしまう。毒ですかね。
『阿修羅ガール』が純文学寄りだったのに対して、『煙か土か食い物』はいちおうミステリの体裁をとっている。天才外科医である主人公の母親が連続殺人未遂に巻き込まれ、復讐心を燃やした彼が事件解決に乗り出す、というストーリーの枠も、一見常識的(かつ常套的)に見えます。
でもやっぱり、『阿修羅ガール』と同じで、
これっぽっちも現実感がない。ふつうのミステリは
「いかに現実らしく作品世界を組み立てるか」ということにかなりの紙幅を消費してると思うんですが、ここでの舞城は
「いかに嘘っぽく作品世界を演出するか」という課題しか見据えていない。主人公は天才で、喧嘩にめっぽう強く、セックスアピールに優れ、一日二時間睡眠で何週間も過ごしている。事件を追う謎の名探偵や、ヤクザに捕まってのリンチ、複雑な家庭事情、政治権力の介入、義理の姉との濡れ場、交通事故で昏睡、複雑で「いかにもすぎる」トリック、大がかりな機械仕掛けの密室、犯人との乱闘。こうやって要素を書き出しただけで安っぽさ満点ですよね。でもその意図が非常にわざとらしいのがミソ。そのおかげで、読者は感情移入という手段から隔離され、
「自分はいま虚構を読んでいるのだー」という意識を強く持ちます。メタミステリって言っちゃっていいのかな。そしてお約束の白々しいハッピーエンドがGJ。
ひとつだけ気に入らないのは、小道具の中に2001年当時の流行モノが登場する点。近過去すぎる流行は、お台場や天王洲アイルと同じで胸が痛みます。時事ネタが山のように投入されたオペラ演出を見るのと同じ気分っすね。