[感想文の古漬け]ジャッド/都響 第750回定期演奏会Bシリーズ@サントリーホール(4/3)

c0060659_7411387.jpg【2013年4月3日(水) 19:00~ サントリーホール】
●エルガー:弦楽セレナーデ ホ短調 op.20
●ベートーヴェン:Pf協奏曲第5番変ホ長調 op.73《皇帝》
 ○バッハ/ジロティ/ホロデンコ:前奏曲
●ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番ニ長調
⇒ジェームズ・ジャッド/東京都交響楽団


ひと言、心の奥底からじわーっと温めてもらえたような、本当に素晴らしい音楽会だったのです。そのメインであるヴォーン。ウィリアムズの第5交響曲(自分愛称ヴォン5)から書かねばなりますまい。

僕はRVWの良い聴き手だとは言いにくい。それどころかイギリスの音楽全般について親しめずにこれまで過ごしてきた。
しかしこの一二年、好みはゆっくりとではあるが確実に変わりつつある。以前ほどにはソヴィエト音楽が好きではなくなり、代わりに北欧の作曲家たち、そしてイギリスの音楽作品が、僕の内面に深く浸透し始めているのを認識している。この好みの過渡期に、ほとんど決定的と言えるヴォン5のライヴを聴いてしまったのは、何かの縁なのだろうか。

+ + +

ジャッドはN響客演の常連なので何度もFMで聴いているような気がするのですが、ライヴに接するのはこれが初めてだと思う。でもN響とジャッドの組み合わせで好いなと思ったことはない。それは(この夜わかったことだけど)ジャッドがオーケストラの素顔の実力を養分にして花を咲かせる、庭師のようなタイプの指揮者であるためなんだろう。
N響はたしかに優れたオケだけれど、彼らが指揮者を下に見たときには本当に冷え冷えと乾いた音楽を平気で伝達する(そしてそうした音楽に当たる確率がめっぽう高い)。ジャッドが引き出すN響の素顔の花は、痩せ細ったしおれかけの花だった。

僕は庭師自身がそういうタイプの音楽をやるひとだと勘違いしていた。でも都響のアンサンブルを土壌にしてジャッドが咲かせた花は、豊穣で瑞々しく、何より佳い匂いのする花だったんだよねえ。

+ + +

手元にあったハンドリー/ロイヤル・リヴァプールpo盤、ハイティンク/ロンドンpo盤、そしてYouTubeに上がっていたバルビローリ/ハレoの古い録音などに比べ、ジャッド/都響の演奏はより鮮やかで瑞々しい印象を与えた。物理的なテンポの身軽さももちろんそうした感覚を生んだ要因だと思う。

でも、普通なら無意識に流されてしまっても仕方がないような木管の小さなパッセージのひとつひとつが、マニアックなくらい丁寧に描写されていたのもとても印象深いのです。

それって流れの停滞を生むんじゃないかって?いえいえ。実際の自然はどんなに小さな虫も草花も「有効」なのに、停滞しているようには見えないでしょう?必要なのは、小さなパッセージのひとつひとつが、丁寧に、かつ続けて絡み合っていく有機的な連関。互いを緻密に聴き合い補い合っている都響のアンサンブルは、楽句を発して、次行程に渡していくのがとても巧いんだよね。そうした美点を引き出しながら、RVW用の音色の文法を伝授していくジャッドの手腕もお見事。
(なお、このやり方をもう数歩進めると、ブロムシュテットのブルックナーみたいな感じになるはず。)

それゆえに第3楽章の豊かな盛り上がりもナチュラルだったし、スケルツォ楽章や最終楽章の前半などではにかみがちなシニシズムまで感じさせてくれたのは、新鮮な驚きだったと言える。これはやっぱり20世紀の交響曲なんだわね。

これは伝記的蛇足だけど、矢部コンマスが終演後にtwitterで次のような内容をつぶやいていた(ブログへの転載どうかお許しください)。惚れるぜ矢部っち。
都響の中で最も尊敬している奏者の一人が、今日演奏したRVWの交響曲第5番をこよなく愛していて、リハーサルの時からハンカチで目頭を押さえていた。彼のその思いを裏切りたくない気持ち1つで弾いたコンサートだった。もしかしたらこの曲を弾くのは最初で最後かも知れないと思って。
+ + +

前半の《皇帝》は、ムラっけがあってとことん夢見がちな、良くも悪くも「童貞っぽい」ソロの評価が分かれるだろう。僕はそれを面白く聴けたし、ジャッドと都響は完璧なサポートを実現していた。協奏曲を演るのに、ジャッドにあってフルシャになかったのは、このホスピタリティだったかもしれない。

都響の天下が続いている。どの在京オケも個性があって、僕は個人的に引き続き東響の音色のファンを自認しているけれど、都響のアンサンブルの高品質さはやはり抜きん出てしまっている感がありあり。この「何ものでもない」ニュートラルな美しさ。
by Sonnenfleck | 2013-06-08 07:46 | 演奏会聴き語り
<< 熱狂の復習―5月5日(日)その... 新国立劇場《ナブッコ》|ゴース... >>