調布音楽祭2013|バッハ・コレギウム・ジャパン「管弦楽組曲全曲」@調布市グリーンホール(6/22)

バッハの管弦楽組曲(自分愛称かんくみ)は意外に生演奏の機会がない。第2番や第3番は古楽アンサンブルの単発音楽会でたまに取り上げられるけれども、第1番や第4番は全然である。
それもそのはず、音楽的体力と美的知力が総動員されなければ、この曲集は音楽にならない。バッハの世俗音楽特有の演奏至難さを存分に持ち合わせている恐ろしい作品たち。3月末のヨハネ@さいたま芸術劇場で心を揺さぶったいまのBCJなら、どんな演奏をするのだろう、という強い好奇心で出かけたのだった(調布遠い…)

地下化された京王線調布駅(地上時代には一度だけ降り立ったことがあった)から、ごちゃっとした駅前広場に上がると、昭和の「文化会館」の姿をよく留めた調布市グリーンホールがある。内装はプチNHKホール。残響はほぼゼロ。
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【2013年6月22日(土) 17:00~ 調布市グリーンホール】
<調布音楽祭2013>
●バッハ:管弦楽組曲第1番ハ長調 BWV1066
●同:管弦楽組曲第4番ニ長調 BWV1069
●同:管弦楽組曲第2番ロ短調 BWV1067
●同:管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068
○同:ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調 BWV1048~第2、第3楽章
 ※第2楽章は3台Cem協奏曲ハ長調 BWV1064 第2楽章による補遺
 →アントワン・タメスティ(1stVa)
⇒鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン


それで。この日は非常にスリリングな瞬間に何度か出遭った。天下のBCJをしてもかんくみは難しいのだろうなあと思う。
僕はこの日、1階正面10列目中央に座ったのだけれど、各曲の序曲で付点のグラーヴェが終わってから、特に後半のヴィヴァーチェに入った直後、アンサンブルに小さな罅や瑕が入っているのが意外であった。巨大な受難曲では雅明氏の下で統一的に躍動していたBCJのアンサンブルが、少しく乱れている。

ここから先は特に僕の私論なのですが、通奏低音ががっちりしている古楽アンサンブルが比較的中規模以下の器楽合奏曲を演奏する際、もし指揮者がリハーサルで音楽に解釈を付与してしまって以降だとすれば、本番での指揮行為はどれくらい意味があるのか、ということについて以前から疑問を持っています。

現にこの日、秀美氏をリーダーにする懸田氏+今野氏+優人氏のBCは、雅明氏の指揮ではなく、ほとんどの場合コンマスのアインザッツに従っていたんだよねえ。もちろん寺神戸さんは雅明氏の指揮を汲み取るし、流れが大きく曲がったり停止したりする箇所は、秀美氏の目線は必ずお兄さんの指先を向いていたんだけれど。

帝と将軍と摂関家みたいな複層的なリズム構造が展開されてしまっていたこと、個人的にはここに罅や瑕の原因を探ってしまう。
さらにティンパニが入る曲だと、指揮者に従属する関東管領みたいなもうひとつのリズム権力が存在してしまって、もうどこがリズム権力の中枢かわからん状態(客演の菅原淳さんはもちろん相変わらず素晴らしいパフォーマンスでしたが…)。彼らの演奏する受難曲やカンタータは「声」を掌握している帝としての指揮者が、圧倒的に全体をまとめているのだけれども。

+ + +

こうしたことから第1番の序曲、ガヴォット、パスピエや第3番の序曲はどうにもスリル満点な演奏を観測したのだったが、そこは歴戦のBCJであるから、演奏途中に体勢を立て直して、通奏低音とコンマスが協力しながら指揮者にうまく合わせることにつなげていったのだった。

指揮者と通奏低音チェンバロが分離しているBCJの現状では、完全完璧なリズムの統一を図るのは(あえて率直に言いますが)困難だというのが僕の感想。これは、だから誰誰が悪い!とかいうのではなくて、それをBCJが自分たちのスタイルとして披露している以上、聴衆はそれを彼らの音楽として受け取り咀嚼すべきである。

だから、指揮者が通奏低音チェンバロに座って、各パート1人の中編成、コンマスやトラヴェルソのアインザッツと通奏低音だけで成立した第2番は、僕には理想的な演奏に思われた(これは雅明氏がチェンバロに座ったから、というのでは決してなくて、仮に優人氏が座ってお父上が舞台袖に入られても、そういう演奏になったと思う)。通奏低音と一緒に安心して呼吸できる演奏って、それはそれは素晴らしいのだ。

<いくつかの萌えポイント>

・文句めいたことを書いてきましたが、アンサンブルに小さな乱れが生じていたのは急速楽章であって、第1番のクーラントや第4番のメヌエットのようにきわめて柔らかく精妙なゆるふわイネガルが効いた楽章はサイコーであった。これは本当に。陰翳の濃いイタリアンな印象が増していた最近のBCJだけど、フレンチの味つけだってやっぱり上手だ。

第4番の終曲、レジュイサンスの中盤に寺神戸コンマスがまさかの断弦!6月の湿気とガット弦の相性の悪さは折り紙付きですね。残った3本の弦で、物凄いポジションチェンジを繰り出しながら懸命にアンサンブルをリードする寺神戸氏にブラヴォ!
第2番の序曲が終わったところで、秀美氏が調弦したげにチェンバロに座った雅明氏に話しかけてDかAをもらっていた。「おい兄貴、音くれよ」「あ?…ほらよ」みたいな感じに見えました(笑) この兄弟の通奏低音は完璧すぎて可笑しい。

第1番のブーレIIをはじめとして、村上さんのFgがあちこちで神懸かっていたのは言うまでもない。通奏低音もソロも担当する恐ろしい管楽器だ。。
・管さんのトラヴェルソもクールすぎる。ポロネーズ→メヌエット→バディネリの一気の寄せで、土俵下まで吹っ飛ばされたのだった。
・演奏後に明らかに疲労困憊だったOb3人衆、三宮氏・前橋さん・尾崎さん、お疲れさまでした。かんくみ全曲ってあんなに大変なのだなあ。。

・そして話題のスターヴィオリスト、アントワン・タメスティがアンコールでまさかの乱入。自分もBCJと何かやりたい!って申し出たらしい。何が演奏できるか雅明氏たちと一生懸命考えた結果、ブラ3の抜粋という嬉しい選曲に!
肩当てのあるモダン(仕様の)Vaだったとは思うんですけど、もしかしたらガット弦を張っていたかもしれない。それであの太い音ならたいへん恐ろしいのだが、圧倒的に華のあるスターの音色で、ブラ3の第3楽章のソロを弾かれてしまった。ぐうの音も出ず。すげーな彼。
by Sonnenfleck | 2013-06-25 22:18 | 演奏会聴き語り
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