【DGG/4791061】
<シューマン> ●交響曲第2番ハ長調 op.61 ●劇付随音楽《マンフレッド》序曲 ●歌劇《ゲノヴェーヴァ》序曲 ⇒クラウディオ・アバド/モーツァルト管弦楽団 超ひさびさにCD感想文を書きましょうか。 僕が本当にアバドと出会ったのは、彼がBPOを辞めてからだと言える。まずマーラー室内管と録れた《魔笛》、これで完璧に心を捉えられて以降、モーツァルト管との一連の交響曲・協奏曲録音、ブランデンブルク協奏曲、イザベル・ファウストとのベートーヴェン、、心の底から素晴らしいと思える録音をたくさん聴いてきた。 ほとんどの場合、自分は拍節感がくっきりした演奏が好みである。それはただの速い遅いではなく、天界の数学があるか否か。クレンペラーもセルもアーノンクールもブリュッヘンも、みんな数学の音楽を聴かせてくれる。 ところがアバドは。 アバドのリズムは数学ではなくて詩ではないかと思う。若いころのアバドの録音はちゃんと聴いていないのでコメントできないが、いまのアバドの「秩序」は彼の呼吸と彼の歌に依拠して、まるで靄や霧が大気に漂うように即興的な流れを示す。これは本来は僕の好みから大きく外れるはずなのに、すべてが楽しい。そして、フレーズのあちこちが軽くすっ...と消える。 + + + 交響曲第2番は(まったく予想どおりだけど)クレイジィでもホットでもなく、ただゆるふわーっと始まる。 この交響曲は「シューマンの4曲の交響曲のなかでも地味」などと言われがちだけど、その実、含んでいるものが4曲中もっとも多い複雑な作品で、アバドがここで取り組んでいるのは第2番のなかにあるハイドンやベートーヴェンの明るい理性の音色を実現させることではないかと感じる。腹の底にガツンと来る拍節感や、焦燥に駆られた末の浪漫的自殺ではなくて。 よく聴いていると第1楽章の序奏こそゆるふわで始まっているが、第2楽章に掛けてタンタンタンタン...という軽いリズム構造が収斂していく様子がわかる。それを彩るモーツァルト管の明るい響き。こういう演奏を否定しがちな旧世代の評論家さんたちは19世紀前半の本質をいまだに見誤っている可能性があるので、われわれとしては可能なかぎり注意してゆきたい(もちろん周到な解釈の結果、演奏家がそこへ19世紀末浪漫のドレッシングをかけること自体は全然否定しませんし、僕はそっちだって大いに楽しむし、そんな使い分けは常識的にどんどんやればいいと思うのです)。 この演奏の第3楽章には、ベートーヴェンの第9番のアダージョが遠くで鳴っている。なんという理性と平安の音楽だろうと思う。 シューマンの心の和平は保たれるのが難しいくらい微細なものだったかもしれないが、だからといってそれが無視されていいはずがないのだ。アバドの歌いかたは抑制が効いていて、たいへん品が良い。そしてリズムは「ゆるふわ」に戻っているが、それが古典性と両立するという奇跡のような演奏なのだ! 第4楽章は再びかっちりとまとまり、推進する音楽としてアバドのなかで設計されている。強すぎたり無理のあるアクセントが皆無なので、たいへん理知的で明晰な印象を受けます。シューマンがなぜこの交響曲にハ長調を選んだか、多くの指揮者は忘れているのかもしれない。大切なディスクが持ちものに加わった。 + + + もしこの1枚を皮切りにシューマンの交響曲全集が立ち上がるのであれば、エポックメイキングなできごとだと考える。他のひとがそう思わなくても僕はそう思う。
by Sonnenfleck
| 2013-07-07 21:59
| パンケーキ(19)
|
Comments(0)
|
カテゴリ
はじめに 日記 絵日記 演奏会聴き語り on the air 晴読雨読 展覧会探検隊 精神と時のお買い物 広大な海 ジャンクなんて... 華氏140度 パンケーキ(20) パンケーキ(19) パンケーキ(18) パンケーキ(17) パンケーキ(16→) タグ
日常
クラヲタ
ショスタコーヴィチ
バッハ
旅行
のだめ
散財
モーツァルト
ラ・フォル・ジュルネ
ベートーヴェン
B級グルメ
ノスタルジー
ブリュッヘン
マーラー
演奏会
名フィル
アニメ
ストラヴィンスキー
展覧会
シューベルト
Links
♯Credo
Blue lagoon Blue Moon--monolog DJK Klassik DRACの末裔による徒然の日々 dubrovnik's dream ETUDE Fantsie-Tableaux Langsamer Satz Le Concert de la Loge Olympique minamina日記 mondnacht music diary~クラシック音楽~ Nobumassa Visione preromantique Rakastava SEEDS ON WHITESNOW Signals from Heaven takの音楽 Takuya in Tokyo Valenciennes Traeumereien Vol.2 Wein, Weib und Gesang ○○| XupoakuOu yurikamomeの妄想的音楽鑑賞とお天気写真 4文字33行 アリスの音楽館 アルチーナのブログ あるYoginiの日常 アレグロ・エネルジコ マ・ノン・トロッポ アレグロ・オルディナリオ あれぐろ昆布漁 いいたい砲台 Grosse Valley Note ウェブラジオでクラシック音楽ライブ 「おかか1968」ダイアリー 音のタイル張り舗道。 オペラの夜 おやぢの部屋2 音楽のある暮らし(そして本も) 音源雑記帖 ガーター亭別館 河童メソッド ギタリスト 鈴木大介のブログ きままにARTSダイアリー ヽ['A`]ノキモメンの生活廃棄物展示場 クラシカル・ウォッチ 古楽ポリフォニックひとりごと 心の運動・胃の運動 コンサート日記 さまよえるクラヲタ人 瞬間の音楽 素敵に生活・・・したい! たんぶーらんの戯言 ディオニュソスの小部屋 ドイツ音楽紀行 弐代目・青い日記帳 爆音!!クラシック突撃隊♪ブログ。 ♪バッハ・カンタータ日記 ~カンタータのある生活~ はろるど ひだまりのお話 ひねくれ者と呼んでくれ 平井洋の音楽旅 ブラッセルの風・それから ぶらぶら、巡り歩き ベルリン中央駅 まめびとの音楽手帳 萌える葦、音楽をするヒト もぐらだってそらをとぶ やくぺん先生うわの空 ユビュ王の晩餐のための音楽 横浜逍遙亭 よし のフィルハーモニーな日々 ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2010 & オペラとクラシックコンサート通いのblog リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」 りんごの気持ち.blog 六国峠@ドクター円海山の音楽診療室 私たちは20世紀に生まれた * * * CLASSICA Dmitri Dmitriyevich Shostakovich Pippo Classic Guide Public Domain classic WEBぶらあぼ クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~ クラシック・データ資料館 木曽のあばら屋 佐藤卓史公式ウェブサイト 柳の下 artscape ミュージアムカフェ 豊田市美術館 東京都現代美術館 川村記念美術館 * * * 管理人宛のメールはdsch_1906 ◆yahoo.co.jp までどうぞ(◆=@)。 以前の記事
2023年 07月 2022年 07月 2020年 07月 2019年 02月 2019年 01月 2016年 06月 2015年 09月 2015年 06月 2015年 02月 2014年 11月 more... 検索
その他のジャンル
ブログパーツ
記事ランキング
|
ファン申請 |
||