【2013年7月15日(月祝) 14:00~ 東京オペラシティ・コンサートホール】
<東京オペラシティシリーズ第74回> ●ドビュッシー:《牧神の午後への前奏曲》 ●同:交響詩《海》~3つの交響的素描 ●ショーソン:《詩曲》op.25* ●ラヴェル:《ツィガーヌ》* ●同:《ボレロ》 ○同:《マ・メール・ロア》より第5曲〈妖精の園〉 →成田達輝(Vn*) ⇒ミシェル・プラッソン/東京交響楽団 初めに《牧神》のオーケストラの響きを聴いたときに、いつもの東響のプチ重厚な音色ではなくて、充実した中音域と華やいだメロディラインで構成された、まるで別のオーケストラのような印象を持ったことをまず書いておきたい。オーケストラをいろいろな指揮者で聴く醍醐味はこういうところに現れている。 それから《海》。これは自分×ドビュッシー史上に残るようなたいへんな名演であった…! 角ゴシック風のきりりとした太線で描かれた響きに、彩度の高いパリッとした色が乗っている。 これはよく言われていることだけど、フランス音楽は演奏実践がふわとろだと全然ハマらないことが多い。だからパレーやベイヌムの古い録音はいまでも明確な価値を持っているし、自分の聴神経の奥に眠っているフルネの音楽づくりだって、その価値観をしっかり体現していたように思うのだ。 プラッソンのことはこれまでそんなに気に留めたことがなかった。録音の多すぎる指揮者の例に漏れず、愚かな自分は無意識に彼のことを軽く見ていた可能性がある。しかしこの剛毅でカラフルなドビュッシー!大事に感じるマエストロがひとり増えた! + + + 後半はショーソンの《詩曲》にラヴェルの《ツィガーヌ》と続く。 ソロVnの成田氏は、これからもっともっと良い音楽家になるだろうと思う。力強く円やかな音色ははっきり言ってかなり好みなんだけれど、どの局面でも完全に均質なヴィブラートは、作品の陰影を失くす蛍光灯の照明のようでもあった。 ショーソンのオケパートは、しかしこれはまた素晴らしい仕上がり。 ワーグナーとフォーレの隙間に漂うのはオフホワイトのロマンティシズムである。プラッソンの指揮はそれほど精密には見えないが、曇天にも様々な表情があるように、光が射してくる時間や、黒雲が沸く時間、こうした「流れ」がホールの時間と同期していたのにはまったく驚いた。時間の流れはプラッソンの棒の先で操られていた。 ボレロ。この作品に「解釈」はありえない、と思っていた僕の考えを粉々に打ち砕いたのは、かつてFMで聴いたプレートル/SKDの演奏であった(史上もっとも猥雑なボレロ!)。 プラッソンはやはりドビュッシーのときと同じ太い描線でデッサンを描き始めるが、乗っているのはもう少しくすんでエロティックな色である。歌い回しに加わったほんの少しノンシャランな味つけが、そんなイメージを喚起する。 (※ボレロがいちばん楽しいのは初めてピッコロが加わるあたりで、それはドラクエで言うとルーラを覚えるくらいに相当する。) + + + そんなダンディちょいエロ系ボレロが華々しく爆発したあとのアンコールに用意されていたのは、精密の限りを尽くした〈妖精の園〉なのだった…!ここで泣かずにいられるクラシック音楽好きがいるだろうか。 ここで嗚咽しては恥ずかしいという気持ちが辛うじてブレーキを掛けてくれたが、危ないところだった。日々の仕事で鈍麻していく審美の感覚に対してさえこのような慰撫があるのだから、クラシック音楽を聴くのはますますやめられない。
by Sonnenfleck
| 2013-08-03 09:57
| 演奏会聴き語り
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