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次の時代に新しい風を。

以前どこかで書いたかもしれないが、フランチェスコ・ドゥランテ Francesco Durante(1684-1755)の弦楽のための協奏曲ト短調の通奏低音を弾いたことがあって、それ以来、このナポリ楽派随一の感傷主義者(もうちょっと正確に言うと「甘いメロディ量産家」)にはなんとなく心惹かれるものがある。



↑弦楽のための協奏曲ト短調
*ニコラス・クレーマー/ラグラン・バロック・プレイヤーズ

このひとはアレッサンドロ・スカルラッティの高弟としてナポリ楽派の隆盛に大いに貢献した人物なのですが、彼は面白いことにオペラを作曲せず、もっぱら教会音楽に人生を捧げてるんだよね。上にリンクを載せた弦楽協奏曲は数少ない例外。

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次の時代に新しい風を。_c0060659_12204516.jpg【Arts/475222】
<ドゥランテ>
●《預言者エレミヤの哀歌》
●《ヴェスプロ・ブレーヴェ》
→ロベルタ・インヴェルニッツィ、エマヌエラ・ガッリ(S)
 ドロシー・ラブッシュ、アンネミーケ・カントル、
 ローザ・ドミンゲス(A)
 マルコ・ビーズリー(T)
 アントニオ・アベーテ、フリオ・ザナージ(Bs)
 スイス・イタリア語放送合唱団
⇒ディエゴ・ファソリス/ソナトーリ・デ・ラ・ジョイオーサ・マルカ

したがって、劇性や旋律に対するナポリ的偏愛を一滴残らず注がれた彼の宗教作品は、ヴィヴァルディやヘンデルのそうした作品にまったく劣らない強靱な音楽として現在に伝わっている。このディスクはそのなかでも傑作と考えられている《預言者エレミヤの哀歌》と《ヴェスプロ・ブレーヴェ》を収めた一枚です。

まず《預言者エレミヤの哀歌》を聴いてびっくりするのは、そこに確かに現れている、モーツァルトのレクイエムとよく似た旋律運びなんだよね。
モーツァルトがナポリ楽派に甚大な影響を受けていることはよく知られていますが、こんなにはっきりと感知できる作品もあったんだねえ。



↑《預言者エレミヤの哀歌》序盤
*ファソリス/ソナトーリ・デ・ラ・ジョイオーサ・マルカ
◆2:45すぎくらいから、モーツァルトの元ネタっぽさが炸裂!

指揮は最近お気に入りのディエゴ・ファソリス。
彼のことはどこかであらためてちゃんと書きたいと思いますが、音の立ち上がりと立ち消えに対する彼の鋭敏な感覚と、音符の子音的特質に関する明快な好み、そして決して作品フォルムを崩さない優雅な音楽運びなど、僕は彼に「古楽界のドホナーニ」の称号を贈りたくてたまらんのです。

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《ヴェスプロ・ブレーヴェ》はもう少し前の時代の作品に寄っているような気がする。聴取による様式判断は禁じ手ではありますが、こっちはアレッサンドロ・スカルラッティと、さらにその師匠のカリッシミを経由して、昆布だしのように利いているパレストリーナ風の安寧が聴かれて愉快である。

もちろんバッハもモーツァルトも不世出のものすごい人物だし、彼らの作品は任意の瞬間の「雑な」演奏実践にも耐えうるくらい強靱なフォルムを持っているんだけれど、よりまともな藝術性を確保するために大切なのは、彼らに流れ込んでいるそれまでの潮流を忘れないようにすることだと思うの。
by Sonnenfleck | 2013-09-07 12:28 | パンケーキ(18) | Comments(0)
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