音楽会の感想文はこのブログの主たるメニューであるが、もう全然書けてない。溜まりに溜まってもう首が回らない。2013年分はここらでご破算としましょう。
+ + + ◆慶應義塾大学コレギウム・ムジクム合唱団・古楽アカデミー演奏会 【2013年1月5日(土) 18:30~ 慶應義塾大学・藤原洋記念ホール】 ●シュッツ:《宗教的合唱曲集》、《シンフォニア・サクラ集》より* ●ハッセ:《クレオフィーデ》序曲ニ長調 ●ヴィヴァルディ:4Vnのための協奏曲ロ短調 op.3-10 ●ムファット:《音楽の花束》第1巻より組曲第6番ホ短調 ●リュリ:《ロラン》~第4幕最終場・第5幕* ⇒佐藤望/慶應義塾大学コレギウム・ムジクム合唱団* ⇒石井明/慶應義塾大学コレギウム・ムジクム・古楽アカデミーオーケストラ 慶應の教養のいち授業として発足したコレギウム・ムジクム。その合唱団とオーケストラの初めての大規模合同演奏会。 曲数が多すぎて明らかに練習の足りていない作品もあったのだけど(3-10とか)、最後のリュリ抜粋で帳消しかと思う。驚くべきことにちゃんとリュリの舞台上演なのだった。バレエもパントマイムも、合唱もオケも、照明も字幕も手作り。バロックの演奏実践は音程より発音・フレージングが絶対条件になると考えていますが、この点ではオケも合唱も相当に訓練されていた。ただの総合大学の教養の授業で、よくここまでマニアックに仕上げたなあと素直に驚いたのだった。 ※ちなみに年末年始にはコジファントゥッテを上演してしまうみたい。行かれないのが残念。 ◆大野和士/水戸室内管弦楽団 第86回定期演奏会 【2013年1月13日(日) 18:30~ 水戸芸術館コンサートホールATM】 ●ドヴォルザーク:弦楽セレナード ホ長調 op.22 ●ブリテン:《ノクターン》op.60 →西村悟(T) ●シューベルト:交響曲第6番ハ長調 D589 ⇒大野和士/水戸室内管弦楽団 大野さんのブリテンが聴いてみたくて、初の水戸遠征となった。 前半の《ノクターン》ではあの素敵なホールの親密さがぐるっと反転、寒さと孤独と夜の気配が空間を満たして、忘れられない藝術体験になってしまった。振り返ってみると10月のギルクリスト+ノリントン/N響よりさらにきめ細やかな残忍さが全体を覆っていたように思う。西村さんの声質も、バボラークのホルンも、アルトマンのティンパニも、みな冷たく光っていた。 後半、凍りついた心胆を再び温め直してくれたのが、シューベルトの第6。マエストロ大野のシューベルトはまるでロッシーニみたいに、楽しいものも、きれいなものも、美味しいものも、気持ちのいいものも、全部ぎゅうぎゅうに詰まった幸せ空間であった。第4楽章を聴いていてどんどん頬が緩んできたのを覚えている。 この夜、帰りのフレッシュひたち号でNHKスペシャルのダイオウイカを見逃したことを知る。ノクターン第2曲のクラーケンが脳裏に浮かぶ。 ◆東京春祭 ストラヴィンスキー・ザ・バレエ 【2013年4月14日(日) 15:00~ 東京文化会館】 ●《ミューズを率いるアポロ》 →パトリック・ド・バナ(振付) ⇒長岡京室内アンサンブル ●《春の祭典》 →モーリス・ベジャール(振付) ⇒ジェームズ・ジャッド/東京都交響楽団 控えめに言ってうーん…という感じ。自分はバレエ観者にはなれないかもしれないなと改めて思ってしまった。 能や歌舞伎からのエコーで今回のような振付のバレエを見ると、「ルールなんかないのサ!」というルールに縛られてるようですこぶる窮屈に感じる。びょんびょん飛んだり跳ねたりするモダン振付バレエの身体性が、能や歌舞伎ほどには納得できない。いやまったくすとんと落ちてこない。ギチギチのルールの中で身体を満開に咲かせている日本の劇作品のほうが、端的に言って好みなんであるよ。 でもそれゆえに、古典的な振付のバレエをちゃんと観なければばならない。くるみ割り人形とか。 ◆ヘレヴェッヘ/コレギウム・ヴォカーレ+シャンゼリゼ管弦楽団来日公演@所沢 【2013年6月9日(日) 15:00~ ミューズ所沢】 <モーツァルト> ●交響曲第41番ハ長調 K551《ジュピター》 ●《レクイエム》ニ短調 K626 →スンハエ・イム(S) クリスティーナ・ハンマーストローム(A) ベンジャミン・ヒューレット(T) ヨハネス・ヴァイザー(Br) →コレギウム・ヴォカーレ・ゲント ⇒フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管弦楽団 初めての生ヘレヴェッヘで嬉しい。 まず前半のジュピター、アンチ通奏低音な演奏実践にすごく驚いたのを覚えている。指揮者を含めて誰も(低弦やファゴットでさえ!)リズムに責任を持っていないように聴こえるんだけれど、しかし中音域にコアのあるオケは、清涼な小川のようによく横に流れてゆく…。これは実践の文法が違うだけなのだね…。いま思い出してみても特異な演奏だった。面白い。 そして後半のレクイエム。これは別次元の名演奏だったと思う。 前半、ヘレヴェッヘが何を指揮しているか自分にはよくわからない局面も多かったのですが、後半にコレギウム・ヴォカーレが入って、あれは声を最上位に置いた指揮なのだと確信。ヘレヴェッヘの両手は合唱とぴたり、、声が拍節を支配しているのだよねえ。声はヘレヴェッヘにとって旋律であり拍子であり和音なのだなあと改めて感じたのだった。 ◆沼尻竜典/東京トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ 第64回定期演奏会 【2013年6月30日(日) 15:00~ 三鷹市芸術文化センター風のホール】 ●プロコフィエフ:交響曲第1番ニ長調 op.25《古典》 ●ショスタコーヴィチ:交響曲第14番 op.135 →黒澤麻美(S) デニス・ヴィシュニャ(Bs) ⇒沼尻竜典/東京トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ 武蔵野でひっそりと執り行われた演奏会だったけれど、実は日本のショスタコーヴィチ演奏史上、決定的な名演のひとつだったのではないかと思う。からっとドライ、喉ごし鮮烈、、からの、、深い闇。抉られる日曜の午後。指揮者もオーケストラも歌手もお客さんも、あの小さなホールごと闇に沈んだ。 今日の日本でもまだ、演奏することに価値があるように思われがちなショスタコの第14交響曲に、沼尻さんはちゃんと第5や第10と同じ「交響曲」としてメスを入れていた。演奏で精一杯、なんていう時代はもうお終いにしよう。この交響曲では比較的単調になりがちな響きの色づけ、特に弦楽器のアーティキュレーションを丹念に見直すことで、フルカラーのショスタコーヴィチが眼前に現れて、、そして第11楽章のв нааааааас!!!!!!!の絶叫とともにホール中の照明を落とした。 若くて主張のはっきりしたTMPの巧さと、彼らをキレよくドライヴしてゆく沼尻さん。前半のプロコフィエフの第1交響曲もたいへん好みで、この作品のライヴであそこまで納得がいったのは初めてだと思う(プロコの古典交響曲は極めて難しい作品だと僕は考えてる)。あちこちでぶつかり合い反応し合うフォルムによって、ホール中に色や形が散乱していた。実に気持ちよかった。 ◆ブロムシュテット/N響 第1761回定期公演 【2013年9月21日(土) 18:00~ NHKホール】 <ブラームス> ●交響曲第2番ニ長調 op.73 ●交響曲第3番ヘ長調 op.90 ⇒ヘルベルト・ブロムシュテット/NHK交響楽団 先日、Eテレのクラシック音楽館でも放送されたので、多くの方がご覧になったのではないかと思う。言葉には尽くせない稀代の名演奏だった。 前半の第2番では第2楽章の艶と照り、第4楽章の爽快な爆発が印象に残る。こういう演奏をいまでも自在に繰り出すあの老人には心から敬意を表したい。何なんだろう。すごい。 後半の第3番は第3楽章がばらっとほどけて始まったんだけれど、風で揺れる梢が、瞬間的に途方もない複雑性を獲得するような感覚を受け取った。これまでブラームスでは体感したことのない不思議なマチエール。ブロムシュテットはブルックナーでもときどきこういう「自然のような複雑性」を花開かせたりするので、今回も何らかの事故ではなくああいう設計だったと考えている。 + + + (下)に続く。
by Sonnenfleck
| 2013-12-28 11:50
| 演奏会聴き語り
|
Comments(2)
僕も随分溜まってますよー、書いてない感想文。
もう永遠に追い付かなくても良いや、と開き直っております。
0
Commented
by
Sonnenfleck at 2014-01-01 14:22
>Pilgrimさん
お久しぶりです。自分ももう到底追いつけないので、せめて備忘録にはなるように最低限のかたちで残しておくようになってます。いやはや。。
|
カテゴリ
はじめに 日記 絵日記 演奏会聴き語り on the air 晴読雨読 展覧会探検隊 精神と時のお買い物 広大な海 ジャンクなんて... 華氏140度 パンケーキ(20) パンケーキ(19) パンケーキ(18) パンケーキ(17) パンケーキ(16→) タグ
日常
クラヲタ
ショスタコーヴィチ
バッハ
旅行
のだめ
散財
モーツァルト
ラ・フォル・ジュルネ
ベートーヴェン
B級グルメ
ノスタルジー
ブリュッヘン
マーラー
演奏会
名フィル
アニメ
ストラヴィンスキー
展覧会
シューベルト
Links
♯Credo
Blue lagoon Blue Moon--monolog DJK Klassik DRACの末裔による徒然の日々 dubrovnik's dream ETUDE Fantsie-Tableaux Langsamer Satz Le Concert de la Loge Olympique minamina日記 mondnacht music diary~クラシック音楽~ Nobumassa Visione preromantique Rakastava SEEDS ON WHITESNOW Signals from Heaven takの音楽 Takuya in Tokyo Valenciennes Traeumereien Vol.2 Wein, Weib und Gesang ○○| XupoakuOu yurikamomeの妄想的音楽鑑賞とお天気写真 4文字33行 アリスの音楽館 アルチーナのブログ あるYoginiの日常 アレグロ・エネルジコ マ・ノン・トロッポ アレグロ・オルディナリオ あれぐろ昆布漁 いいたい砲台 Grosse Valley Note ウェブラジオでクラシック音楽ライブ 「おかか1968」ダイアリー 音のタイル張り舗道。 オペラの夜 おやぢの部屋2 音楽のある暮らし(そして本も) 音源雑記帖 ガーター亭別館 河童メソッド ギタリスト 鈴木大介のブログ きままにARTSダイアリー ヽ['A`]ノキモメンの生活廃棄物展示場 クラシカル・ウォッチ 古楽ポリフォニックひとりごと 心の運動・胃の運動 コンサート日記 さまよえるクラヲタ人 瞬間の音楽 素敵に生活・・・したい! たんぶーらんの戯言 ディオニュソスの小部屋 ドイツ音楽紀行 弐代目・青い日記帳 爆音!!クラシック突撃隊♪ブログ。 ♪バッハ・カンタータ日記 ~カンタータのある生活~ はろるど ひだまりのお話 ひねくれ者と呼んでくれ 平井洋の音楽旅 ブラッセルの風・それから ぶらぶら、巡り歩き ベルリン中央駅 まめびとの音楽手帳 萌える葦、音楽をするヒト もぐらだってそらをとぶ やくぺん先生うわの空 ユビュ王の晩餐のための音楽 横浜逍遙亭 よし のフィルハーモニーな日々 ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2010 & オペラとクラシックコンサート通いのblog リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」 りんごの気持ち.blog 六国峠@ドクター円海山の音楽診療室 私たちは20世紀に生まれた * * * CLASSICA Dmitri Dmitriyevich Shostakovich Pippo Classic Guide Public Domain classic WEBぶらあぼ クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~ クラシック・データ資料館 木曽のあばら屋 佐藤卓史公式ウェブサイト 柳の下 artscape ミュージアムカフェ 豊田市美術館 東京都現代美術館 川村記念美術館 * * * 管理人宛のメールはdsch_1906 ◆yahoo.co.jp までどうぞ(◆=@)。 以前の記事
2023年 07月 2022年 07月 2020年 07月 2019年 02月 2019年 01月 2016年 06月 2015年 09月 2015年 06月 2015年 02月 2014年 11月 more... 検索
その他のジャンル
ブログパーツ
記事ランキング
|
ファン申請 |
||