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晴読雨読:ザミャーチン『われら』

晴読雨読:ザミャーチン『われら』_c0060659_20411611.jpgザミャーチン『われら』、1992年、岩波文庫。

エフゲニー・ザミャーチン(1884-1937) をご存じですか。
ソヴィエト「黄金の20年代」のもっとも過激なリーダーとして多くのフィクションを発表したザミャーチンは、当局から危険視されてパリに亡命するも、52歳の若さで客死。ソヴィエトでは長く「公的な」文学史から抹殺され、彼の作品たちはペレストロイカに至るまで禁書扱いという苛烈な運命を辿りました(ちなみに、ショスタコーヴィチは最初に《鼻》の脚本をこのザミャーチンに依頼しました>でも出来がイマイチだったらしく、最後は作曲家自身が大幅に手を入れてます)。
その中でも、代表作『われら』(1920-21) は「もっとも悪質な反ソ宣伝の書である」と断罪された曰く付きの作品です。

1000年後の未来、世界は「単一国」の支配のもと、輝かしい繁栄を築く。人々は「緑の壁」に区切られた人工都市で、「時間律法表」に従って完全な生活を送っている。いまや母音・子音・数字によって表されるナンバーを名前を持つ人間は、ガラスでできた透明な家に住み、食事、睡眠、セックスはすべて秘密警察と「恩人」によって統制されているが、それを疑問に思う者は存在しない。なぜなら「自由と想像力」は「古代人の病気」だからである。主人公は宇宙船「インテグラル」の製作担当官。おりしも実験飛行が迫り、彼は未開の宇宙人に宛てて「単一国」の偉大さを紹介する覚え書を書いている…

どんなに愚昧な官僚でも、1920年にあって、この作品がどんな意味を持つかということは理解できたでしょう。革命後、すでに自由が抑圧されつつあるこの状況を進展させるといったいどうなるのか、という恐怖を見事に昇華したアンチ・ユートピア小説です。
豪華絢爛な色彩イメージ、詩的な独白、プーシキンやスクリャービンの巧みな使い方、そして結末の大どんでん返し。最初完璧であった主人公が徐々に「魂」に目覚めて「狂って」いく様子は、ゴーゴリの『狂人日記』に比する迫力を持っています。ひとつのフィクションとして見ても非常に秀逸で、これが80年前に書かれた作品であるとはにわかに信じがたい。純粋にSFとして面白いんですよ。うーんすげえー。
by Sonnenfleck | 2005-07-10 20:47 | 晴読雨読 | Comments(0)
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