結婚してから生活のスタイルが変わり、難しい顔をして音楽をじっくり聴きながらPCの前に長時間座っているのが難しくなった。これではブログのエントリを生み出すことができない。できないが、したい。
+ + + 【Erato/WPCS22184】 ●プロコフィエフ:交響的協奏曲ホ短調 op.125 ●ショスタコーヴィチ:Vc協奏曲第1番変ホ長調 op.107 →ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Vc) ⇒小澤征爾/ロンドン交響楽団 HMVのセールで756円くらいになっていた。安いね。 小澤とロストロポーヴィチ、という組み合わせがいかにも昔風に見えるのはどうしてだろう。ところが組み合わせから受ける印象に比べて、ここに録音された演奏実践は意外にもスマートで聴きやすい。ひょっとすると「モダン」かもしれない。 まずロストロポーヴィチが、一般的にイメージされるような鈍重さをあまり感じさせない(僕の脳みそに残っている指揮者としてのロストロポーヴィチがテキストの前面に出てしまっているのだろうなあ)。 80年代後半にチェロを持ったときのロストロポーヴィチが敏捷ですらあった(!)ことを、この録音が証拠として伝えている。少し強引な歌い回しと鋭敏さがミックスされたマチエール、これがモダニズムの薫りをそのまま宿しているわけですが、たぶん今世紀の若いチェリストが同じことをやろうとすれば、そればメタな視点からしか獲得できないはずなのであります。 それから小澤だけれども。 なめらかに整えようとする圧力と、ガサガサに掘り下げようとする圧力の両方から常に引っ張られて、その強い張力や緩んだときの対処にいつも悩まされているような気がするのです。このひとは。 ところでショスタコーヴィチの楽譜は、実は小澤の(僕が勝手に想像している)悩みに対して意外によく合致するのではないかと思われて仕方がない。 とある両側の圧力に「悪意のある器用さ」で対応したのがショスタコーヴィチとすれば、小澤征爾は悪意なんて考えることもなくどこまでも真摯に楽譜をなぞる。それによって、髭のグルジア人とその後継者を横目にしていたショスタコーヴィチの悪意が打ち消されてしまい、ただ器用なスコアがイコールの向こう側に浮かび上がるではないですか。ロンドン響のつるっとした音響はここで完璧にプラスに働いています。 小澤は結局、ショスタコーヴィチを彼のキャリアのなかに置かなかったことが少なくともレコード史的にはわかっているけれど、このようにニュートラルな器用さがばっちり表面に出てくるショスタコーヴィチ演奏というのは実はあまり思いつかないんである。皆さんはどうでしょうか?アシュケナージ?ハイティンク?いやいや、少し違う。何でもない何か、である。 2010年代は、ショスタコーヴィチの悪意に指揮者の悪意を掛け合わせた悪意2乗のゲテモノ演奏がはびこっている。そんなときに僕たちは小澤の器用で真摯な運転に乗った、ナイーヴで力強いロストロポーヴィチの歌を懐かしく思い出すのかもしれません。これがモダンのひとつの正体。 + + + プロコフィエフについて書く時間がありませんでした。追記できるかな?
by Sonnenfleck
| 2015-06-03 23:21
| パンケーキ(20)
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Comments(4)
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s_numabe at 2015-06-04 00:10
Welcome back! 久しぶりとは思えぬ快筆ぶりですね、その調子でときどき書いてほしい。
前々からスラーヴァがセイジを高く買っている本当の理由が計り知れませんでした。伝記的には前者が当局から忌避され孤立無援に陥ったとき、後者が協奏曲での共演を申し出て苦境から救った、というふうに説明されるんですが、どうにも腑に落ちなかった。それがこの文章を読んでいて、ああそうなのかと納得しました。 悪意ある二枚舌とはまるきり無縁な、「すべては楽譜に書いてある」の無邪気な信奉者オザワ──そこにスラーヴァは一服の清涼剤、どころか、むしろ伴奏指揮の理想形をみたのではないか。ヘルベルトでもレナードでもなくセイジなのだ、と。 小澤の指揮でドヴォジャークの協奏曲を録音した際、「今度のが最高の出来。これでこの協奏曲の録音は打ち止めにする」とスラーヴァがのたまったのは、嘘いつわりなく彼の本心だったのですね。 プロコフィエフについての「追記」心待ちにしてます。
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pfaelzerwein at 2015-06-04 04:29
ボストン饗とですが、同じ組み合わせの二番とグラズーノフとのカップリング盤を鳴らしています。小澤は、DGとエラートなどから交響曲全集を依頼されていたのでしょう。対談等で「音楽的にショスタコーヴィッチは受け入れられない」というようなことを言っています。プロコフィエフが最終的にメインレパートリーになって行ったのと大分異なります。敢えて外すようなショスタコーヴィッチの書法に、こうした理解者ロストローヴィッチとの協調関係を経ても、小澤の共感は進まなかったようです。
ご指摘のように「小澤の浪花節」にもならず「ロストロポーヴィッチのようなつるつるのチェロサウンド」にもならない印象を与えるレパートリーが最終的に評価されるバランスの取れた小澤の演奏実践として評価されるのでしょう。
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Sonnenfleck at 2015-06-07 21:45
>numabeさん
段落が140字ごとに小さくまとまっていくのを必死で押さえながらの長い作文でした。誰にもおもねずに書く作文はやはり楽しい! ロストロポーヴィチがソヴィエトで共演していた賢明な指揮者たちは「悪意の二枚舌」に対して各人なりの解釈を持っていたはずで、それゆえにソリストとしては苦労があったのだろうと思います(だからこのひとは指揮者としてもショスタコーヴィチに臨んだのでしょう)。 自分でも小澤のほかの伴奏録音を聴き直してみようと思うのでした。ムローヴァとのチャイコフスキーなんか、こうした切り口で改めて聴く意味があるはずです。
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Sonnenfleck at 2015-06-07 21:52
>pfaelzerweinさん
大変ご無沙汰しております。コメントいただけて嬉しいです! 小澤のそうした発言は知りませんでした。プロコフィエフとショスタコーヴィチは完全に逆の精神で作曲実践(という言葉があってよいものか知りませんが)に臨んだ二人だと思いますが、前者の可憐な素直さに小澤は共鳴しているのでしょうね。 小澤の最盛期をよく知らない後発組リスナーとしては、このひとの正体ははっきり言って曖昧で、とにかく捉えどころがありません。しかしこうした録音を聴くにつけ才能のあるひとだと思うし、もっと聴き直さなければとも思うのです。
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