イサム・ノグチ(1904-1988)の遺作のひとつとなった設計プランが、札幌の《モエレ沼公園》のデザインであります。若い頃から「遊び場」のデザインを夢見ていたノグチが、札幌市の公園造成計画に興味を示したのは当然のことであったでしょう。でもノグチ自身はマスタープラン完成後ほどなくして亡くなり、プランを引き継いだ札幌市が造成に努めてきた結果、今夏ようやく公園の全体が完成。それを記念して、現在札幌芸術の森美術館でイサム・ノグチの特別展が開かれています(九月からは東京都現代美術館で開催)。 本展はノグチ作品のなかでも主に「空間演出(あるいは創造)」と関係の深いものが出品されており、作品数は少ないものの見応えがあります。 目玉は香川のイサム・ノグチ庭園美術館から空輸された《エナジー・ヴォイド》(1971-72、黒花崗岩)。香川では蔵のなかで密やかに展示されているこの作品が、札幌では白昼、美術館前庭の池のなかに水上展示される。黒光りする巨大な環が夏の陽光を浴びて佇むさまは、偉大な鈍重さと停止する時間の静けさを感じさせて、異様な存在感を示しています。でもこれ現美ではどうやって展示するんだろう?? その後、件の《モエレ沼公園》に移動。最寄りの地下鉄駅からバスで30分もかかるド郊外にあるんですが、苦労して行った甲斐はありました〜♪ 写真は、公園内の巨大な築山「プレイグラウンド」を下から見上げた図。頂上の人影を見れば、どれくらい大きな構造物かおわかりいただけると思います。噴水やガラスのピラミッド、そして独特な形態の遊具を備えたこの「空間=彫刻」には、ランドスケープを創造するという困難で贅沢な課題を楽しみきったノグチの刻印が確かに刻まれています。 (そういう文脈で考えれば、萬来舎のノグチルームを「破壊」した慶應義塾の蛮行はやはり断罪されるべきだろう。空間そのものを作品としてとらえる考え方は彫刻家ノグチにあって当然のものであったと思う。僕は移築される以前のノグチルームを見学したことはないんですが…) あたりを飛び交う鮮やかなウルトラマリンのイトトンボがかわいらしくて切ない。そろそろお盆だなぁ。
by Sonnenfleck
| 2005-08-08 19:35
| 展覧会探検隊
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Comments(12)
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iustitia
at 2005-08-09 12:58
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《エナジー・ヴォイド》は、空輸ではなく、トレーラーとフェリーで運んだようです。ちなみに設置風景は、
http://blog.goo.ne.jp/mocas2005/e/ad53b013a66381fbc2b87dbf594da132 東京都現代美術館では、地下2階企画展示室のアトリウムかサンクン・ガーデンに設置するんでしょうね。自然光が生かせるので、なかなか良さそうです。 ノグチ・ルームについては、移築工事差止仮処分事件の決定(東京地決平15・6・11)全文がここで読めます。 http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/D48021263E66703C49256DB3000DDCA5/ イサム・ノグチの遺言書の内容の部分では、《エナジー・ヴォイド》についても触れられています。
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Sonnenfleck at 2005-08-10 13:56
>iustitiaさん
陸路・海路でゆっくり運ばれてきたのでしたか。いずれにせよ《エナジー・ヴォイド》が牟礼の庭園美術館の外に出るのはこれが最初で最後になりそう。現美での展示もまた楽しみです。 判決文…いちおうさーっと目を通しましたが、なんかすっきりしないです^^;; 法的に正しいことと、文化倫理的(こんな言葉あるのでしょうか?)に納得できることとは必ずしも一致しない、ということは理解できるのですが…市井の一凡人としてはなんだかなあという感じです。私は法学についてなにも知らないのでこれ以上は深入りしませんけれど。 今週末の「美の巨人たち」で《モエレ沼公園》のことを取り上げるみたいですね!秋田はテレビ東京系放送局がないので私はお預けです●
ブログにコメントありがとうございました。
札幌のイサム・ノグチ展いかれたのですね。ぼくが札幌に行ったのは開催直前でした。。。ぼくは東京で観ることになりそうです。 《エナジー・ヴォイド》の展示はいまから楽しみです。展示方法も興味ありますね。けっこう大きいんですよね。 いつかは牟礼で《エナジー・ヴォイド》に出会いたいなと思います。
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iustitia
at 2005-08-11 00:36
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そうなんですよね。
法的に問題がないことと、文化に対する大学の見識として適当かどうかということは別問題ですからね。 ところで、9月から10月にかけて、秋田県立近代美術館で"ESCHER! ESCHER!! ESCHER!!!"という展覧会が開かれるんですね。長崎のハウステンボス美術館の所蔵品(3年前にBunkamuraでも展示されてましたね)で構成されるそうですが、おもしろそうです。
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Sonnenfleck at 2005-08-11 07:12
>mckeeさん
いらっしゃいませ。こちらこそコメントありがとうございます◎ 札幌のノグチ展も静かでよかったですが、今度は東京の展示方法が気になってしまって…結局木場に行ってしまいそうです(^_^;) 晩年のノグチが、牟礼の蔵の中で《エナジー・ヴォイド》の隣に佇む写真がパンフレット(か図録)に載っていました。確かに、あの暗くて濃密な空間も体験してみたいですね*
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Sonnenfleck at 2005-08-11 07:24
>iustitiaさん
あのBunkamuraのエッシャー展、見に行きましたよ! 秋田県立近代美術館は秋田市じゃなく横手市(県南内陸部)にあるんですよね。。企画の質はいいんですが、いかんせん高速道路を使っても1時間半では遠い…。マネジメント的に大丈夫なのか、他人事ながらいつも気になります。
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iustitia
at 2005-09-04 16:06
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Sonnenfleck at 2005-09-04 19:58
こんばんは。
TBありがとうございました。 「エナジー・ヴォイド」に願いがかなうなら 触れてみたいです。 なんてことを距離を置いて作品観ながら思ってました。 しょうもないことばかり考えています。 現代美術館では例の吹き抜けの空間使って ぽつんとこの作品だけ置いてありました。 空間の広さに負けない迫力があります。
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Sonnenfleck at 2005-10-12 21:10
>Takさん
こちらこそTB&コメントありがとうございます。 確かに「エナジー・ヴォイド」、触ってみたいですよね◎◎ 札幌のほうでは写真撮影禁止だったのですが、木立に隠れて池の中のあれを撮ってしまいました。さすがにブログには載せられませんが^^;; それにしてもはやく木場に行ってしまわないと。。楽しみです。 貴ブログへリンクさせていただきました。今後ともよろしくお願いいたします。
こんばんは。
Takさんも仰られている通り、 東京展でもエナジーの存在感は健在で、 かなり上手く見せています。 是非ご覧になってください。 >萬来舎のノグチルームを「破壊」した慶應義塾 以前雑誌かなにかで読んだ記憶があるのですが、 かなりもめた末決まったのですよね。 移築された今はどうなのでしょうか。 この展覧会を機会に少し見てみたいと思いました。
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Sonnenfleck at 2005-10-13 23:50
>はろるどさん
移築後のノグチルームも外からしか見たことがないのでなんとも言えないのですが(大きな口を叩いておいて恥ずかしい…)、建物の屋上スペースに持ち上げられるということで、作者の意図した空間性というのは思い切りぶち壊されてしまっていると思います。他に用地を買う資金を拠出する痛みと、芸術になんの理解もないと蔑まれる危険…これを天秤にかけると「実学」を標榜する大学にとっては前者のほうが大きな問題なのでしょう。
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