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石井歓は夢を見る

石井歓は夢を見る_c0060659_21354872.gif「県民歌」というジャンルがあります。郷土の豊かさを謳って地域ナショナリズムを鼓舞し、「おらが国」の優位性を主張することが目的。「伸びゆく」とか「健やかな」とか「わが○○」とかで埋め尽くされた、たいがいは七五調の歌詞に、平易で明るくわかりやすいメロディ(無調ではないし、セリーでもないし、ましてやミニマルでもない)が与えられています(あれっ?社会主義リアリズム?)

秋田にもやはり県民歌があります。しかし並の県民歌とは一線を画す仰々しさなのですよ。その名も「混声合唱と吹奏楽のための楽曲《大いなる秋田》」は、演奏時間40分を超す全四楽章構成。1968年(昭和43年)、明治100年を記念して(ここからしてもうひどくうしろむきです)秋田県が石井に委嘱したこの作品、合唱が入らず吹奏楽のみが展開する部分がかなりの割合を占めるため、県民歌というより県威発揚オラトリオみたいな感じです。見栄っぱりの県民性がよーく滲み出てますねえ(笑)

第1楽章〈黎明〉は、荘重なアダージョと、恥ずかしくも格好いい(!!)アレグロの二部形式。合唱の歌詞、臆面もなく盛り上がるオケは、ほとんど《森の歌》のような体裁です。
つづく第2楽章〈追憶〉はABAの三部形式。Aでは鉛色の冬空をひとり見上げるような寂しい子守歌が、スケルツォ的なBでは鰯と鰰が水揚げされる様子がコミカルなカノンで表現され、全曲中でも特に印象深いところです。
行進曲風に開始される第3楽章〈躍進〉では、中間部に厳かな「県民歌」(旧秋田県民歌)(何年制定とか、いつどうして廃されたとか、いまいちよくわからない。作曲は成田為三)が引用され、高揚に一役買います。
そして第4楽章は、序奏で第1楽章冒頭の旋律が回帰したのち、「県民の歌」(新県民歌)である《大いなる秋田》が軽快なマーチで歌われて幕。

今回、実家の引っ越しで、この《大いなる秋田》のLPを見つけてしまったんです。しかも録音データを見ると、これは1971年、佐藤菊夫(日本人では数少ない、生でフリッチャイを聴いた経験のある指揮者です。1929年秋田県生まれ)指揮の東京交響楽団によって、東京文化会館で演奏されたときのライヴ録音(非売品じゃなく、ちゃんとポリドールから市販されたLP)。どうやらこの「ナショナルな」作品が、東北本線を伝って大東京に殴り込みをかけたときの貴重な記録みたいなんです。

■石井歓/佐藤菊夫:ソプラノ、大合唱、オルガンと管弦楽のための交声曲《大いなる秋田》
ソプラノ:滝沢三重子
オルガン(ナショナル電子オルガンD0-22):西川清子
合唱:東京合唱研究会、横浜合唱研究会、カンパネラ・コール、東京少年少女合唱隊
管弦楽:東京交響楽団
1971年5月18日、東京文化会館大ホール(第14回佐藤菊夫シンフォニー・コンサート)

しかもここでの演奏は、吹奏楽による原典版ではない。指揮者の佐藤菊夫によって、管弦楽バージョンに編曲されているのです。彼の編曲は、かなり念入り。もともと原曲もR.シュトラウス(+ハチャトゥリアン)みたいな感じで華々しいんですが、佐藤はさらに独唱ソプラノと独奏オルガンのパートを作り出す。特に独奏オルガンには原曲で吹奏楽のソロ楽器に与えられている格好いいソロのいくつかが流れ、非常にオイシイことになっているのでした。

いちおう。「原典版」は最新録音のCDが出ています。こちら。
また、第3楽章に出てくる旧県民歌と、第4楽章の新県民歌はここで聴くことができます。
しかしCDのジャケット…英題「AKITA the GREAT」は恥ずがしいからやめてけれでゃ●
by Sonnenfleck | 2005-08-12 22:05 | パンケーキ(20) | Comments(4)
Commented by Honey at 2005-08-13 23:03 x
あはは~っのはっ!面白すぎです!!!!!
すばらしいじゃないですか、秋田県!(拍手)
そして、Sonnenfleckさんにもその土地の血が?
今後も、ますます期待してしまいます、音楽評論文学ブログ。

ちょっと前に、県民性をいちいち拾ってまとめた本がありましたよね。
今度本屋さんで見かけたら、秋田県民のところを読んでこようかしらん?
Commented by Sonnenfleck at 2005-08-14 10:07
>Honeyさん
面白いっすよー(笑)
特に第2楽章のカノンは歌詞が秋田弁なんですが、冬の港の活気ある様子が、ほんと見事に描写されてるんです。いやあウェブ上に音源落ちてないかなあ。。お聴かせしたいですー。

書店で立ち読みした県民性の本、ひとつひとつ頷いたり、これは違うだろーと反発したり、いい暇つぶしになりましたね◎…秋田県民(それから、私)が見栄坊なのは間違いありません。
Commented by iustitia at 2011-11-06 01:48 x
秋田県といえば、白瀬矗の肖像となまはげがデザインされた千円銀貨幣、白瀬矗の肖像と竿燈がデザインされた五百円バイカラー・クラッド貨幣が発行されますね。
http://www.mint.go.jp/prefecture/page19.html
千円銀貨幣は抽選販売のみで、11月22日まで申し込み受付中です。五百円バイカラー・クラッド貨幣は、来年1月頃に、金融機関等の窓口において額面価格により引換えが行われます。
http://www.mint.go.jp/coin/kahei/tushin_hanbai/page136.html
Commented by Sonnenfleck at 2011-11-06 20:59
>iustitiaさん
またずいぶん昔のエントリを…(笑)
白瀬の出身地である旧・金浦町には「白瀬南極探検隊記念館」があって、子どものころ家族で行きました。懐かしい。千円銀貨幣を申し込んでみようかと思います(申し込み方法は今どき葉書だけなんですねえ)。
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