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晴読雨読:伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』

晴読雨読:伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』_c0060659_1520174.jpg伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』、2003年、新潮文庫(2000年、新潮社)。

伊坂幸太郎のデビュー作です。
僕は寡聞にしてこの作家の名前を知りませんでしたので、書店のポップ広告の煽り文句に騙されるつもりで、特に期待もせず手に取ったのがこの『オーデュボンの祈り』。裏表紙の紹介を見ると、ふんふんこれはどうやらミステリらしい。でも殺されるのは人間じゃなく、、案山子?え?

(一部ネタバレ含みます)
少し前にSEを退職した主人公は、人生をリセットしてみたくなってなんとなくコンビニ強盗を企てるものの、あっけなく失敗し、逃走。しかし気づくと彼は見知らぬ孤島・荻島にいたのであります。宮城県沖に浮かぶ荻島は江戸の終わりから「鎖国」を続ける謎の島…そこに住まうのは合法の殺人者、300kgの巨躯を持つ女、狂気の画家、郵便屋、足萎え、そして、人語を話し人格を有し予言を為す案山子
ある日、案山子がバラバラ「死体」となって発見される。しかしその謎を追う主人公が突き当たるのは、どうして案山子は自分の死を予見しなかったのか、というパラドックスなのでありました。

支倉常長の後日譚、荻島とスペインの交流、表題の鳥類学者オーデュボンとリョコウバトの絶滅、予言者によって実行された予言など、虚構の構成要素自体は凡庸ではない。素材のよさは十分に認めます。
しかしこの作品が纏う雰囲気が、どうにも掴まえられないんですよね。。いったい何を指向しているんだろう。ミステリにしてはトリックが常套的すぎるし、幻想小説にしては中途半端な日常のリアリティを描き込みすぎている(そのくせ、案山子がなぜ話すか最後まで解決されないので、フラストレーションが溜まる)。怪奇小説でもない。それに、主人公の敵である「絶対悪の警察官」をどうして設定しなきゃならなかったのか、これだけは本当に理解できない。荻島の出来事と並行して描写される彼の悪虐が作品全体に嫌なトーンをもたらしていて、しかもそれが何を狙っているのか、僕にはよくわからないんです。

アマゾンのカスタマーレビューだと手放しの絶賛ばかりなんで自信なくします(^_^;)
新潮社的には今一番売り出したい若手のひとりであるらしく、カバーの折り返しの作家紹介があまりにも情熱的で思わず微笑んでしまいます。このままじゃ納得いかないし、、彼の別の作品も読んでみようか。
by Sonnenfleck | 2005-08-20 16:17 | 晴読雨読 | Comments(0)
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