拙ブログは恐れ多くも【dsch1906】のURLを掲げておりますが、去る9日がドミトリー・ドミトリーエヴィチの30回目の命日であることを知りつつ、旅行中であったために満足なエントリひとつ書けませんでした。今日は遅ればせながら、ショスタコーヴィチの没後30年特別企画として、カラヤンが遺した4種類の第10交響曲について時系列順にまとめてみようと思います。
厖大なレパートリーを誇ったカラヤンが、意外にもショスタコに関しては10番のみを繰り返し執拗に演奏していたことはわりと知られてないんじゃないでしょうか。どうしてこの作品だけが彼の審美眼にかなったのか、確か…どっかの伝記に記述があったような気がするんですが、手元に資料がないので詳述できません。また真偽のほどは不明ですが、5番に関して「ムラヴィンスキーの演奏があるから私は録音しないのだ」と語ったとされる逸話もあったはず。いや、そうでなくても《レニングラード》とか11番なんかいかにも好きそうだし、録音しててもおかしくないんですけどねえ(マーラーやシベリウスにおいても、彼は「全集」的なスタンスを取らなかった>何度も全集を録音したベートーヴェンやブルックナーとは対照的です)。 ◆最初の録音は1966年のDG盤です。 カラヤンの10番を聴くなら、まずはこの旧録がオススメ。レガートを排したかなり速めのインテンポを基盤としつつ、しなやかで効果的なアゴーギクがC.クライバー的な快感をもたらします。特に第1楽章中間部の完璧に統御された姿には度肝を抜かれますねえ。本当に理想的です。ここの音響バランスをうやむやして勢いだけで押してる演奏なんて掃いて捨てるほどありますよ。またカラヤンは、第2楽章でゆったりと大きなアッチェレランドをかけていく手法をほぼ生涯通じて守り続けますが、これはオケの機能が完璧でなければなし得ないやり方です。 ◆続いてその3年後、カラヤンはBPOを引き連れてモスクワへ遠征します。そのときプログラムに入れた唯一のロシア音楽が、第10交響曲でした。現在そのライヴが正規盤で入手可能です(露Ars Nova、ARS 008)。 僕はこのCDを聴いて初めて、カラヤンという人が心底怖くなった。背筋が凍るような弱音が、残忍なfffが、圧倒的な押しの強さで迫ってくる。作曲者臨席という状況だけじゃこの演奏の壮絶さは説明できないでしょう。基本的な解釈は上のDG盤とそんなに変わらないけれど、第4楽章後半のアイロニカルな楽句のキレのよさは4種中随一、60種超の第10録音のなかでもトップクラスです。でもこれを最初に聴くのはやめてほしい。 ◆これは反則ですが、1976年、カラヤンがドレスデン・シュターツカペレを振った演奏会の海賊盤であります(米sardana records、sacd-203/4)。 オケが曲に慣れてないせいか木管のミスが頻発するし、第3楽章でコンマスがソロの音を外すし、テンポも乱れがちなんですが(特に最終楽章)、これがドレスデンの音なんだろうなあ、4種のなかではもっとも芳醇な独特の音響となっています。第3楽章のHrソロを吹いているのはたぶんこの年に首席奏者となったペーター・ダムなんですが、彼のソロを聴くためだけにこの海賊盤を買ってもいいくらいの完成度。 なお第1楽章中間部で20小節くらい欠落があります(編集ミス?)。 ◆そして最後が、1981年のBPOとの再録音。 これは…異形のショスタコです。上の3つの演奏で顕著だった爽快なインテンポはすっかり影を潜め、かわりに分厚いビブラートと、ねっとりと粘り着くようなレガートが支配的になる。これがカラヤンの晩年様式ってやつなんでしょうか。BPOの光り輝く機能美をまざまざと見せつけられます。本当に憎々しいほど巧い。 第1楽章の贅沢で不健康な滑らかさは特筆すべきでしょう。黄金の子牛です。そしてこれは旧録から変わらぬ、中間部の音響整理の巧さ。うねるようなトゥッティのユニゾンには冷や汗が出る。第3楽章の幻想的な雰囲気。 さてカラヤンの60年代録音は、驚くほどムラヴィンスキーの解釈に似ております。厳しいインテンポ、すっきりとタイトな音響…。今日遺された録音を聴くかぎり、70年代まで、第10の演奏はこの解釈がほぼ一般的でした。ミトロプーロス、オーマンディ、コンドラシン、ロジンスキーなどはこのスタイルを顕示しています。 初演者ムラヴィンスキー式の呪縛は、しかしカラヤンの新録の登場によって解かれる。80年代後半から増えたのは、カラヤン晩年式の、遅く滑らかで柔らかな響きの演奏でありました。いま現在も第10の演奏はこのカラヤン晩年スタイルが席巻しておるのですが、カエターニ(2002)やスクロヴァチェフスキ海賊盤(2003)の演奏は振り子の揺り戻しを予感させます。
by Sonnenfleck
| 2005-08-21 11:02
| パンケーキ(20)
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