ヴェニス・バロック・オーケストラ来日公演:最後に喜びに辿り着く

c0060659_1248149.jpg【2005年9月13日(火)19:00〜 東京オペラシティ】
●ヴィヴァルディ「ほか」:歌劇《アンドロメダ・リベラータ》
→シモーネ・ケルメス(S、エチオピアの王女アンドロメダ)、
 マックス・エマニュエル・ツェンチッチ(C-T、英雄ペルセウス)、
 ルース・ロジック(S、アンドロメダの母カシオペイア)、
 ロミーナ・バッソ(MS、エチオピア王の羊飼いメリソ)、
 マーク・タッカー(T、アンドロメダが恋する若い異邦人ダリソ)
→アンドレーア・マルコン(Cem)/ヴェニス・バロック・オーケストラ
 ○アンコール 同:歌劇《ジュスティーノ》〜五重唱のアリア


いまや破竹の勢いのヴェニス・バロック・オーケストラ。今回の来日公演の目玉は当然、ヴィヴァルディ「ほか」による《アンドロメダ・リベラータ》の日本初演でありましょう。本作は2003年に楽譜の現存が確認されたばかりの発掘ホヤホヤのオペラでして、しかもヴィヴァルディを含む多くの作曲家の作品を寄せ集めた「パスティッチョ」である可能性が非常に高いとのこと。どこまでがヴィヴァルディ作でどこからが別の作曲家かということがほとんど不明という楽しく妖しい素性の作品なわけです。

ストーリーは、まあよくある話ですね。
(前段階として、以下が承知されている:母親が海の精をバカにしたせいで娘が怪獣の生贄になる。それをペルセウスが救った。)母親はそのお礼に娘をペルセウスにやろうとするが、はたして娘には別に想い人がいる。でも当の想い人には振られちゃって、娘は悩んだ挙げ句ペルセウスになびき、ああ善哉々々、と。

正確に言うと本作は「オペラ」ではなく、祝賀行事に際して上演される「セレナータ」。これはヴィヴァルディのパトロンの一人であった枢機卿ピエトロ・オットボーニのヴェネツィア政界復帰を祝する作品であるとのことです。つまり冷遇されるペルセウスがオットボーニに、ペルセウスを振ったが最後には彼を受け入れるアンドロメダがヴェネツィアに、それぞれ見立てられているのですな。上手い。
さて肝心の演奏ですが、これはもう笑ってしまうくらいの凄まじいレベルに達しているわけです。
舞台中央にチェンバロ(たぶんブルース・ケネディ。そして調律はギタルラ社の佐藤さん!)が置かれ、その向かって右隣にリュートが二台、Vcが二人とCbが一人。チェンバロの左側には1stと2ndVnが各パート四人ずつ、Vaが二人、さらにその後方にはObとHr、という布陣。

・二部形式の活気のある序曲。マルコンはCemを弾かず、立ったまま指揮。撥弦音は二台のLtに任せているみたいですね。
・ペルセウスのレチタティーヴォ。ツェンチッチは翳りのある灰色の声がとーっても魅力的ですが(C-Tっていうと頭から突き抜けるような開放的な声質をついイメージしがち)、残念ながら初め音程が安定せず。
・アンドロメダ最初のアリアは伴奏にソロVcと通奏低音。ケルメスの表現力もさることながら、変幻自在のソロVcと通奏軍団の繊細な語り口に驚嘆です。巧すぎる。
・カシオペイアはアンドロメダと比べてより技巧的なアリアが多く与えられています。ロジックはやや重みのある声質で、ダ・カーポ・アリアの愉しみである、二回目のA部分の装飾をたっぷりつけてくれてシヤワセです。さらにBからAに回帰するほんの一瞬の伴奏のコントロールが、実に美しい。
・母娘対決のレチタティーヴォは刺激的!魔笛を思い出します。そして返す返すも通奏低音が巧い。アリアよりもレチタティーヴォのほうに引き込まれます。
・第2部はさらに音楽的な密度が増します。荒れ狂う心を歌うアンドロメダのアリア、それを冷たく突き放すダリソのアリア、そして二人の対話。それを上の視点から見守り、ストーリーテリングを受け持つ羊飼いメリソにも、シリアスなアリアが多く与えられている。バッソは腹筋から放出される太い声の持ち主で、会場も沸きます。
・でもやっぱり昨晩の頂点は、ヴィヴァルディの手になると唯一確認されているペルセウスのアリア「太陽はしばしば」でしたね。コンマスのオブリガートVn付きの荘重かつアンニュイな曲調で、ツェンチッチの憂鬱な声質とピタリ。打ち震えます。技巧的な装飾もピカイチでした。ブラーヴォ。

会場の入りは8割ほど。みな熱狂しておりました。
これからバイエルンの《アリオダンテ》、BCJ・二期会の《ジューリオ・チェーザレ》、来年2月にはエウローパ・ガランテの《バヤゼット》と続きます。15年遅れで日本にもようやくバロックオペラ・ブームが到来でしょうかっ。
by Sonnenfleck | 2005-09-14 12:59 | 演奏会聴き語り
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