東京文化会館《響の森》vol. 19 −赤い森−:世界一真面目なコメディ

いいかげん忘れぬうちに書いてしまいましょう。

【2005年10月2日(日)15:00〜 東京文化会館】
●ショスタコーヴィチ:《祝典序曲》Op. 96
●同/コーナル編曲:喜歌劇《モスクワ=チェリョームシュキ》Op. 105 より管弦楽組曲
●同:オラトリオ《森の歌》Op. 81
→伊達英二(T)、久保和範(BBar)
→晋友会合唱団、TOKYO FM 少年合唱団
→岩城宏之/東京都交響楽団


解説の渡辺和氏(やくぺん先生うわの空)の言葉を借りれば、オール「仮面の」ショスタコーヴィチ・プロ。まずは企画が成立したこと自体を讃えたい。でも(憶測ですが)かなりの数の招待券をばらまいたんじゃないかなあ。会場の東京文化会館の大ホールがほぼ満席ですよ?このプログラムで?ありえないでしょ!

病に倒れていた岩城氏の復帰第1弾公演ということで、指揮者の登場に会場が沸きます。ちょっと痩せて小さくなられたか。1曲目は《祝典序曲》。初っ端から全開のブラスが、直後に精密な弦のアンサンブルが要求される恐ろしい曲ですが、この日の都響は非常に明るく華やか、気持ちよく聴けます。岩城氏の指示によるのでしょう、シンコペーションを強調した軽快なリズムの演奏。
初めて聴く2曲目の《モスクワ=チェリョームシュキ》。念願かないました。もともと3月の都響定期で交響曲第8番の前プロとして置かれるはずだったこの曲ですが、直前にベルティーニが亡くなったことでその定期は急遽追悼公演になり、あまりにも賑々しく可笑しいこの作品はプログラムから外されたのでした(その演奏会の様子はこちら)。
先日実際に聴いてみて、、その判断は正しかったなと確信です。初期のショスタコを髣髴とさせる才気煥発で毒のある曲調、狙い澄ました鋭いリズム。そして何より、甘くて俗悪でとびきり切ないメロディ。たまりませんよ。開き直ったようにキッチュで甘い音を出す都響の面々に(特にソロを張ったSaxに!)拍手。

そしていよいよ《森の歌》。
歌詞は当然1962年改訂版です。「我らが教師、指導者にして父なる人は〜」なんて歌ったりはしませんが…そこら中にちりばめられた「我らは平凡なソヴィエト人民」「コミュニズムの夜明け」「レーニンの党に栄光あれ!」のフレーズひとつひとつが、博物館のガラスケースに陳列された珍妙な風俗のようでひたすら楽しいのですよ。その風俗の中に暮らしてた人たちにとってそれは途轍もなく神聖な意味を持ってたんだろうけど、今じゃただのコメディにしか見えない。おまけにそれぞれの文物には、ものすごく効果的な解説文としてショスタコ謹製☆かっこよく煽ってやるぜ音楽が附けられてるわけで、40分間ずっと歌詞を追いつつニヤニヤしてました(隣の方ゴメンナサイ)。
シチュエーション・コメディで大事なのはあくまで真面目にやること。ふざけながら演じられたら観客は白けます。その点この日の演奏者は全員「大真面目」で「社会主義万歳!」を演じてくれてて実によかった。BBar氏はロシア語の発音に難アリでしたが、合唱はクリアで聴き取りやすく大満足。岩城氏は基本的にほとんどタメを作らずインテンポで攻めますが、溌剌とした印象で非常に心地よいです。

最後のSlava!の大合唱が消えるか否かというところで万雷の拍手。ひたすらブラヴォーが飛び交い、スタンディング・オヴェーションもちらほら。やっぱりこの曲は巧く盛り上がるようにできてるんだなあ。1949年のモスクワを模するコメディ…最後は聴衆もそこに参加したようでした。
by Sonnenfleck | 2005-10-06 22:50 | 演奏会聴き語り
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