二期会+BCJ《エジプトのジューリオ・チェーザレ》:ローマ人の物語

c0060659_21381717.jpg【2005年10月16日(日)15:00〜 二期会オペラ研修所50周年記念公演/北とぴあさくらホール】
●ヘンデル:歌劇《エジプトのジューリオ・チェーザレ》
→田村由貴絵(MS、ローマの軍人チェーザレ(シーザー))
 星野恵里(S、ポンペイウスの未亡人コルネリア)
 田上知穂(S、ポンペイウスの遺児セスト)
 大井哲也(Br、ローマの護民官クーリオ)
 星川美保子(S、エジプトの女王クレオパトラ)
 諸田広美(MS、エジプトの王トロメーオ(プトレマイオス))
 斉木健詞(Bs、エジプトの将軍アキッラ)
 庄司祐美(Ms、クレオパトラの腹心ニレーノ)
平尾力哉(演出)
→鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン


ついに念願の《チェーザレ》を生で観ることができました!ヘンデルオペラの中でも名高いこの作品は、紀元前50年頃の第1回三頭政治解消直後を描いた大セリア。典型的な「DCアリア+レチタティーヴォ」の連続ながら、緊迫感のある台本と数多くの名アリアのおかげで三時間半の長丁場を飽きさせません。
ストーリーは乱暴にまとめると以下のような感じ。
・残虐淫乱な弟トロメーオに王座を奪われようとしているクレオパトラが
・打算で近づいたはずのチェーザレに惚れ
・トロメーオによってポンペイウス(劇中には出てきません)を殺されて復讐を誓うその妻と子とともに
・チェーザレと協力してトロメーオを倒し、ああめでたい。ローマ万歳。

歌手はみな二期会の若手ホープ。チェーザレ役の田村女史だけが緊張のせいか音程が不安定でまた声量も少なく残念でしたが(でも終幕ではかなり立ち直って雄々しいアリアを聴かせてくれた)、頭抜けてよかったのはクレオパトラ役の星川女史とアキッラ役の斉木氏ですかねえ。
前者が演じるのは「野望に燃える女と官能に萌える女」両方の演技を要求される難しい役ですが、コケットで軽い声質を巧く使って最高度の歌唱を聴かせてくれました。また後者はすでに堂々たる偉丈夫(そして純情で弱い男)を歌いきる実力を持った方で、今後の活躍が実に楽しみ。てか追い掛けたい!

オケはもう、磐石ですよ。実はBCJはバッハのカンタータシリーズくらいしか聴いたことがなかったのですが(そしてその生真面目なストイックさにやや引いてたのですが)、今日の演奏はヘンデルの豊満さ・不毛な贅沢さを見事に響かせてくれた。特にオケピットから直線的に立ち上る鈴木優人氏の「強く鳴り響いて主張するチェンバロ」 には感心です。幸福なレチタティーヴォから、ドキッとするよう劇的な和音でいともたやすく会場の空気をどん底に叩き落とす彼のチェンバロ。毒気の強い超新人が現れたですよ〜。要チェック。そして姿は見えずとも一聴してわかる前田りり子女史のトラヴェルソを筆頭に安定感のある管楽、いつもより表情が濃くて響きが派手めの弦楽。

クレオパトラ星川女史公式ブログ。→ホシの東京再出発
チェンバリスト鈴木氏公式ブログ。→eugene's blog !!

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さて、あえて演出には触れずにまいりましたが。
本日の演出は平尾力哉氏。舞台は三面鏡状の3スクリーンにそれぞれ映像が投影、一方床は高低差がなくシンプルで、可動式のひな壇ブロックを5つほど使って場面を設定します。

・第1幕冒頭チェーザレのエジプト凱旋。スクリーンはニューヨーク。群衆は一目でアメリカ国旗のパロディとわかる手旗を強制的に振らされている。→開始数分でPAX ROMANA=PAX AMERICANAとわかる親切な趣向です(実際終幕ではスクリーンにこの文字が交互に点滅しながら投影された)。
・第3幕トロメーオの後宮では、スクリーンにごく一瞬「喜び組」の映像が…。→ああ「北の将軍様」ですかそうですか。なんとまあご丁寧に。
・結末の大団円では群衆がナチばりに右手を掲げてチェーザレを称賛。背景のスクリーンはこれ見よがしに「健在のころの」ツインタワー。そして上に書いたように「PAX AMERICANA」の文字。

ちょっとこれには参ってしまいました。
…でも「わかりやすすぎるぞテメー」っていう観客の反応自体を皮肉ってるのかもしれず。。カーテンコールでは演出家に盛大なブーが飛んでいましたが、小ネタのセンスはけっこうよかったんですよ。トロメーオがアリアを歌いながら家来にドラッグを注射させていたり(ここは「将軍様」っていうよりむしろマイケル・ジャクソンみたいな感じですね)、セストを若いポップスターに設定して「追っかけ(まあいわゆるジャニヲタですな)」の女の子たちを舞台に登場させていたり(しかもキャーキャー騒ぐ)、直前に死んだアキッラを簡単に叩いて生き返らせたり(でもこれはコンヴィチュニーの《神々の黄昏》終幕のジークフリートのパクリかしら(笑)?)。

小ネタにいちいち反応して笑うような楽しみ方に(たぶん)あんまり慣れてない観客たちばかりで(ていうか年齢層高すぎ!周りの人々寝過ぎ!)、舞台でドタバタやっても客席はドン引きという局面がかなりありました。この演出で一番言いたかったことは「PAX AMERICANA自体が小ネタである」ということなんじゃないかと考えておくことにします。
by Sonnenfleck | 2005-10-16 22:58 | 演奏会聴き語り
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