小澤のコンサートはいつも高すぎて到底聴けるもんではなく(そしてそんな高額でも瞬く間に売り切れてしまうので)、実は彼の実演を聴くのはこれが初めてだったりします。しかも相手が因縁のN響とあらばテンションも上がってしまいますね!
上がってしまいますか? 【2005年10月27日(木)19:00〜 NHK音楽祭2005/NHKホール】 ●ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 Op. 67 ●ガーシュイン/マーカス・ロバーツ編曲:Pf協奏曲ヘ調 →マーカス・ロバーツ・トリオ マーカス・ロバーツ(Pf)、ローランド・ゲリン(Bass)、ジェイソン・マルサリス(Drums) ●千住明:《日本交響詩》(2005、NHK放送80周年記念委嘱作品・初演) どうですこのプログラム! チケットを買った時点ではベートーヴェン5番と《ラプソディ・イン・ブルー》だけだったんですが、その後プログラムは変更され、しかも思わぬ伏兵の登場となりました。そっかあ…小澤+N響+千住なんて一生に一度の経験だろうなあ…なんて考えながら開演前にプログラムを眺めておりますと、年端もいかぬお子さま方が歓声を上げながらそこらへんを走り回っているのが目に入ります。これは「こどものためのプログラム」なんだよ?我慢しなさいよ自分? 小走りに小澤が登場し、万雷の拍手。1曲目。 冒頭の4音モチーフを二回繰り返して…あれ、、休符がすげえ長いぞ??フルヴェンっすか??と思ったら、小澤がくるりとこちらへ向き直って「…とまあこんな感じです」とスピーチを始める。4音モチーフが曲中に潜んでいることを楽しく説明しつつ、楽器の違いについて解説し(「堀さん(コンマス様!)と店村さん(Va首席)並んで楽器挙げてみて!」には笑ってしまった^^)、会場を盛り上げます。この辺は本当にすごい人だなあと恐れ入りました。いつもこういうことをやっておられるからでしょう、教育プログラムへの戸惑いが全然ない。 演奏自体にも、驚かされましたですよ。 Kb8本の巨大な編成でどう料理するのかしらんと思っていましたら、本当に何も起こらないのです。重いソースも、軽妙なスパイスもなく…塩ゆでと言ったらいいんでしょうか、出過ぎた味つけは一切なしに、こちらの予想をまったく裏切ることなく、堂々として苦悩から歓喜に至ってしまいました。これが名高い小澤の「スーパードライ(マルC宇野功芳)」なんでしょうか。確かに非常に丁寧でキレイなテクスチュアで、ここまで清純に、滑らかにベートーヴェンを聴かせるのがどれほど難しいか、敬服します(皮肉でもなんでもないですよ?)。これが彼の個性なんでしょうね。素直に拍手したい。 後半は指揮台の横にピアノ、ベース、ドラムが登場。それらの音を拡大するスピーカーも用意され、お堅いファン(とかコンマス様!)を怒らす準備はばっちり整いました。 マーカス・ロバーツによる編曲はかなり自由なもので(まさに「ガーシュインに基づくインプロヴィゼーション」)Pfソロに絡むベースとドラムのノった感じは、「美しく整った」前半との違いを際だたせる。ジャズは聴かないんでよくわからんのですが、きっとスマートなプレイだったのだと思います。見ていると小澤の指揮は実に気持ちよくリズムにノっているのですが、オケのほうは自在に伸縮するソロパートに辟易といった様子もチラリ。でもN響のベッタリ甘々な様子を聴けたのは収穫です(思ったよりギチギチしていない)。 最後は千住明の新作。 ものすごくベタな民謡コラージュ(…ですらないか。ところどころちょっとだけ大胆な和音を作ったりしていますが、基本的に「NHKみんなの童謡」路線)です。《故郷》《最上川舟歌》に始まり、《花笠音頭》《佐渡おけさ》《ソーラン節》《五木の子守歌》…《てぃんさぐぬ花》で日本列島の南北に気を遣い、《金比羅船々》《阿波踊り》と。最後は「NHK歌謡コンサート」ばりに客席がライトアップされ、こちらを向いた小澤の指揮で《さくらさくら》の大合唱。 ああ…両隣のおばあちゃんも向こうのガキもみんな歌ってるよ… 、、追風に帆かけて シュラシュシュシュ(ボソ)
by Sonnenfleck
| 2005-10-28 20:21
| 演奏会聴き語り
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Comments(8)
おお!お聴きになられましたか。
メディアでも取り上げられていて、少し気にはなっていたのですが、 Sonnenfleckさんの臨場感溢れるご感想で、 とてもお腹いっぱいになりました!ありがとうございます。 >名高い小澤の「スーパードライ(マルC宇野功芳)」 名(迷)言集の一つですよね。 私も一度だけ小澤さんの演奏を新日フィルで聴いたことがあるのですが、 キレ味がスゴい(?)なあと、至極妙に感心した記憶があります。 >小澤の指揮で《さくらさくら》の大合唱 紅白歌合戦みたいですね! NHKらしさ満点の盛り上げと言った所でしょうか!?
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pfaelzerwein
at 2005-10-29 04:40
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N饗復帰、何回目ぐらいですか?相性は良さそうですね。N饗の定期会員の小沢嫌いは、「観た事」の無い人が殆んどです。私は、先ず観てきなさいと言うのです。私の町には、日本滞在中に魅了されて、二人の子供にミドルで、セイジとキョウコと名付けている家庭があります。私自身は、小沢氏のツアーは少なくプログラムも面白くないので最近は専らご無沙汰です。
おはようございます。
雰囲気がとてもよく分かります。 どういうわけか、妙なバッシングに会うことも多い小澤さんですが、音楽を広く知ってもらおうとする姿勢は変わりませんよね。バーンスタイン譲りというのかタングルウッド流というのか分かりませんが、私は大変尊敬しています。 >非常に丁寧でキレイなテクスチュアで、ここまで清純に、滑らかにベートーヴェンを聴かせるのがどれほど難しいか、敬服します まさにそうなんだと思います。「きわめて音楽的であるが、ある一線を絶対に踏み外さない」という一点で、マエストロ小澤の音楽をどう評価するかが決まってくるような気がします。 是非、この演奏、BSで観てみたいと思います。
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Sonnenfleck at 2005-10-29 23:26
>はろるどさん
NHK音楽祭は公演数も少ないしコンセプトも薄弱だし、プロムス(の向こうを張るつもりなのでしょうか…)なんかと比べても明らかに地味な印象なんですが、少なくともこの小澤の公演は今年の音楽祭の呼び物でしたよね。メディアの注目度が高いのも頷けます。 ただこの公演のプログラムも「こどもだから《運命》」「こどもだから日本の民謡」みたいな小利口なまとまり方をしているなあという感じはします。演奏自体は高水準だったし(わかったような言い方であれですが、N響も「本気モード」だったと思います)、せっかくならこどもの度肝を抜くようなバルトークやプロコフィエフなど手加減なしのプログラムが聴きたかったですね(^_^;)
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Sonnenfleck at 2005-10-29 23:32
>pfaelzerweinさん
確か小澤のN響復帰は10年前の1995年だったと思いますが、それでも片手の指で足りるような回数しか共演していないんじゃないでしょうか。でも先日の公演を聴くと団員たちも友好的な様子で(というよりボイコット事件当時の団員はもう残っていない?)、本当におっしゃるとおり、もう気にしているのは一部の「心配性の」お客だけなのでしょうね。 ただ日本にいても小澤の実演に接する機会は非常に少なく、純粋に彼の音楽を聴いてみたいと考える者にとってはあまり状況はよくないです。こちらには、聴いたことのない音楽家を貶すという奇跡的な技を持った「音楽愛好家」がたくさんいるみたいですし。
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Sonnenfleck at 2005-10-29 23:36
>romaniさん
彼は謂われのない非難を浴びすぎですよね。小澤を貶せば一流、みたいな風潮には腹が立ちます。 こうやって何日かあとになって反芻してみると、小澤のベートーヴェン5番に漂っていた独特の控えめな美しさがじんわりと思い出されます。極端すぎるくらいの演奏が人気を博す日本では、彼のような個性は不利に働くのかもしれませんね。 私が行った日の前日の公演(10月26日)の様子は11月11日深夜、BS2のクラシックロイヤルシートで放送されるようです。
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iustitia
at 2005-10-31 13:37
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プログラムが「こども向け」なのはNHKの責任でしょうね。小澤は、水戸では地元の小中学生向けのゲネプロ公開で、こんなプログラムを組んだりしますから。
シュニトケ:合奏協奏曲第1番 プロコフィエフ:交響曲第1番 ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番(ミトロプーロスの編曲による弦楽合奏版)[※] ※バーンスタインの名盤あり http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000001GGN/
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Sonnenfleck at 2005-10-31 21:38
>iustitiaさん
そうですねえ。NHK音楽祭のもうひとつの「こども向け」プログラム(12月11日の北ドイツ放送響)が、特徴的なリズムに焦点を合わせて小品を巧く並べているのと対照的に、この日の演奏会のコンセプトは正直意味不明でした。 水戸のプログラム、いいですねえ。これは聴いてみたい。たまには新日フィル客演でこんなメニューを組んでほしいものです。
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