今年最初の美術館詣では、近美の須田国太郎展(1月13日~3月5日)。
といっても下調べをして臨んだわけではなく、時間が空いたからちょっと寄ってみようか…程度のノリで竹橋に行ったのでありましたが。。(浅学にしてそもそも須田国太郎という画家を知らなかった^^;;) 1891年京都に生まれた須田は、京都帝大で美術理論を、関西美術院でデッサンを学んだのち渡欧。そのときのプラド美術館での研究・ティツィアーノやエル・グレコの模写経験が彼の画風に多大な影響を与えたようです。本展は1932年の第1回個展の再現とともに、戦前戦後の膨大な作品を網羅的に集めた大回顧展という感じで(東京での回顧展は42年ぶりらしい)、質・量ともに非常に見ごたえがあります。 彼の画風は、僕のようなただの美術好きにもずしりと伝わるバロック的な重厚さが特徴。特に荒涼とした大地の描き方はすでに第1回個展から顕れていて、そのサーモンピンクの使い方には一度見たら忘れられないような衝撃があります。時系列的に並べてある本展を見進めるうちに気づきますが、この色は(大地に限らず)終生彼の作品を支配し続けていて、たとえどんなに暗い絵でも柔らかなピンクが潜んでいる。黒に近い焦げ茶を作るときにもピンクを基底にしてそこへ他の絵の具を混ぜているような感じで…これには驚きました。 戦前・戦中の風景画は絶品揃いです。《時雨(筆石村)》(1937-40年)や(正確な作品名はうろ覚えですが)《雨後》など、大気の一瞬の表情が(ピンクによって)見事にリアルに再現されているのと、それにとどまらない「雰囲気」のようなものの印象主義的な発露。特に後者の、遠くに黒くわだかまる雨雲と湿った大地を照らす陽光のコントラストに感銘を受けます。 静物もまた独特のもったりとしたユーモアがあって面白い。初期の《蔬菜》など、ほとんど平面のシルエットとして描かれる南瓜と丸々としたトマトとの視点のずれが楽しいし、絶筆となった《めろんと西瓜》(1961年)の幸福な薄緑色と瑞々しい様子は大変に美しい。 個人的に本展でもっとも魅入られたのは、《杉》(1955年)という暗い作品です。 夜の杉林が、月の逆光によって黒く浮かび上がる様子。しかし杉のがさついた樹皮を縁取るのは、現実では絶対にありえないピンク!深山幽谷の表現がこうしてなされることに驚きつつ、そこにリアルを見せてしまう須田の魔術に感激しました。 ネームバリューだけに頼っていると大切なものを見失うかもしれないと、そういう簡単なことに気づかされた展覧会でした。もっと勉強しないと!
by Sonnenfleck
| 2006-01-14 23:59
| 展覧会探検隊
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Comments(6)
Sonnenfleckさん、初めまして、こんばんは。
私も初めて名前を知った画家の展覧会でこんなに感激できるとは 思っていませんでした。 そうですね、ピンク色が潜んでいましたね、色んなところに。 何だか淡い明るさというのかオレンジ色でもないしなぁと思って 眺めていました。「杉」も良かったですねぇ。つい先日観て来た ばかりなので色々作品が浮かんできます。 >ネームバリューだけに頼っていると大切なものを見失うかもしれないと 本当です! P.S.ブログのタイトル、良いですね。
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Sonnenfleck at 2006-01-25 00:37
>code_nullさん
いらっしゃいませ。コメント&TBありがとうございます◎ 本当にいい展覧会でしたね。ただ日曜美術館で特集されたので現状は違うかもしれませんが、人が少ない。。私は会期初日に行ったのですが、あの広い会場に観覧者が全部で10人ほどしかおらず驚きました。もっと多くの人に味わってほしい画家だと思います。 ブログ名は(恥ずしながら)三島小説の結びからとってきたものです(^^;) code_nullさんのお名前もかっこいいです!
こんばんは。早速のTBとコメントをありがとうございました。
>サーモンピンク まさにそれですね!黒みを帯びた、独特なピンク色が印象的でした。 >戦前・戦中の風景画は絶品揃い 私もその時期の作品に最も惹かれました。 それこそ形なんぞは無視して、 あんなに色で雰囲気を作り上げてしまう画家もいないですよね。 空の色から山肌から、何から何まで、 サーモンピンクが見え隠れしながら多様に表情が変化する。 一見するとあまり洗練されているとは言い難いタッチですが、 器用に描いているなあと思いました。 集客は…、ちょっと知名度に欠けるのかもしれませんね。 次はスゴい混雑になりそうですが…。
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Sonnenfleck at 2006-02-04 01:39
>はろるどさん
戦前・戦中の風景画、近づいて見てみるとかなり雑多な、極論すれば乱雑に色が塗ったくってあるように見えるのですが、少し離れて遠くから全体を眺めると、鮮やかな一瞬のキャプチャになっていて本当に驚かされました~。そして確かに存在を主張するピンク。自らを表現する色を生涯持ち続けるというのは並大抵のことではないのでしょうね。 次回のFOUJITAは…確かにうんざりするくらい混みそうです(-_- ;)
こんばんは。
肌色ピンクと黒が効果的に使われていましたね。 こういう作家の展覧会を開いてくれる近美は偉いです。 大勢の作家の中に1,2点あってもこれだけの 感動は得ること到底できませんからね。 TBさせていただきました。
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Sonnenfleck at 2006-02-08 23:39
>Takさん
コメント&TB、ありがとうございました◎ そうですね。この展覧会では作品自体の質の高さもかなりものでしたが、何回角を曲がっても次から次へと作品が用意されているという量的な贅沢さも非常に印象に残っています。まさに「大回顧展」にふさわしい陣容でしたね。
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