アルミンク/新日フィル 《火刑台上のジャンヌ・ダルク》

c0060659_112938.jpg【2006年2月9日(木)19:15~/11日(土)15:00~ 
        第396回定期演奏会/すみだトリフォニーホール】
●オネゲル:劇的オラトリオ《火刑台上のジャンヌ・ダルク》
→ジャンヌ・ダルク:アンヌ・ベネント
  修道士ドミニク:フランク・ホフマン
  伝令官Ⅰ・Ⅲ/驢馬/ベッドフォード/
  農民/司祭:大槻孝志
  声/伝令官Ⅱ/ジャン・ド・リュクサンブール/
  ウルトビーズ/執行官/もう一人の農民:吉川健一
  ルニュー・ド・シャルトル/ギョーム・ド・フラヴィ/
  ペロー/酒樽かあさん:田村由貴絵
  聖処女/声:品田昭子
  マルグリート:菅有実子
  カトリーヌ:永井和子
  豚/声/書記:バーソルド・シュミット
  こどもの声:東京少年少女合唱隊
  合唱:栗友会合唱団、東京少年少女合唱隊
  助演(子役):阿嘉真理乃
  助演(野獣):原純
  オンド・マルトノ:原田節
  演出:三浦安浩
  舞台監督:幸泉浩司
  字幕:実相寺昭雄
→クリスティアン・アルミンク/新日本フィルハーモニー交響楽団


9日と11日、両方の公演を聴いてきました!
ともに一階右前方寄りの席だったために舞台のすべてを見渡すことができなかったので、以下の感想は視覚の面で多少の勘違いや誤解があるかもしれません。

特にオネゲルのファンというわけではない僕にとってはこの作品は紙の上の知識でしかなく、オネゲルの最高傑作という評価にもふぅんという感じでしたが、実際に耳にしてみて、なるほど、、あまりにも圧倒的な70分間。クリスマスと盆暮れ正月を愛する不埒な仏教徒の僕が、このようにしてある種の珍しい感動に襲われることになろうとは夢にも思わなかった。

ホールに入ると舞台の中央に大きな白い十字架。その直下には小さな舞台と合唱団の席、そして指揮台の左右数メートルに椅子がひとつずつ配置してあります(下の写真は指揮台右・椅子の場所から舞台を見上げたところ*携帯のカメラなので画質が粗いっす)。
演奏者が全員入場すると照明が完全に落ち、オペラ用の譜面台照明の光の中から重苦しいプロローグが始まります。十字架下の小舞台にはジャンヌを演じる子役と、今回の演出で狂言回しを務める野獣役のダンサーが登場。子役は野獣に追い回されます。続いて一階客席中央扉から修道士ドミニクが現れて通路を進み、指揮台左の椅子に座っていたジャンヌと対話しながら回想。修道士ドミニクは片手に持った本を示し、本に書かれたジャンヌの所行と彼女を取り巻いていた状況を語り始めます。

・第3景:「魔女、異端者、売女!」とジャンヌを罵る群衆
→合唱団は発音が不明瞭な箇所もあったが、全体にパワーがあって好感。特に11日は◎
・第4景:愚かしい裁判(豚・驢馬・山羊がジャンヌを裁く)
→裁判長の豚が恥知らずなテノールで歌う長い口上にまずはブラヴォー。ダンスホールのように原色ギラギラの照明。ジャズのリズムを巧みに取り入れて猥雑に鳴るオケ(ラトルとウッド・ブロックのリズム、ASaxの甘い音色がぐちゃぐちゃに入り乱れる)をうまくまとめるアルミンクもすばらしかったと思います(全編通して、彼はほとんどすべての歌詞を歌手にあわせて口ずさんでいた)。あとは、、「驢馬」を示す物体が「『くまのプーさん』のイーヨーの頭部」だったので笑ってしまいましたよ。
・第6景:王たちの奇怪なトランプゲームの様子(ジャンヌを取引)
→王たちは悪魔的に描かれる。宮廷を模しているのかチェンバロのような音が鳴っていましたが、あれはピアノの弦の上に金属板でも置いている?フランス・バロックの巧妙な換骨奪胎、実にキッチュで嫌らしい伴奏が繰り広げられます。

聖なる裁判、神聖なる王権の反転。この間、椅子のジャンヌは反発しうなだれている。いっぽう子役のジャンヌは野獣によって裁判とトランプゲームに担ぎ出され、ひどい扱いを受ける。

・第7景:二人の聖女(ジャンヌへの励まし)
マルグリートの菅さん、カトリーヌの永井さんが清純な声を聴かせる。
・第8景:民衆が信じるもの、誤解
→少年合唱がオルガン前のバルコニーに現れ、陽気な俗謡を歌う。しかしフランス国王が彼自身の力で国土と国民を救ったと勘違いしているのを見て、ジャンヌはショックを受ける。
・第9~11景:素朴な宗教歌、ジャンヌの火刑
→このあたりから音楽は混沌と凶暴さを抜けて、一気に清浄な様子になる(豚や凶王との凄まじい対比)。児童合唱団のひとりが「小麦と卵をください/食べも飲みもしない/一本のろうそくを天に捧げるため」と美しい歌を歌い、台詞ですべてを表現してきたジャンヌもここで初めてこの歌を口ずさむ。一瞬われに返って取り乱しながらも、火刑=一本のろうそく、として刑の執行に望むジャンヌ、そっと立ち去る修道士ドミニク。この局面は本当に静かで美しく、目頭が熱くなりました。

ジャンヌが肉体の鎖を断ち切ると、それまでだらしなく傾いでいた十字架の横棒が水平姿勢へと直され、照明は毒々しい赤から晴朗な白へ。ベタな演出なのに、、巧いなあ…。

* * * * * *

この公演で第一に喝采を浴びていたのは修道士ドミニク役のフランク・ホフマン。ジャンヌ役のアンヌ・ベネントが霞むくらいの堂々たる存在感とフランス語の美しさには驚きました。さらに、癖のある役を一人でいくつもこなした大槻氏、吉村氏、田村さん(昨年11月の《ジューリオ・チェーザレ》のタイトルロールの方ですね!)にも盛大な拍手を送りたいです。
ところで、1回目に見たとき、黙役の子役ジャンヌと野獣ダンサーの細かく指定された動きが目障りに感じたのですが、2回目の舞台でもその印象は変わりませんでした。せっかく非常にすばらしい俳優を二人揃えているのに、黙役がわざとらしく目立つ演出は邪魔なだけ。子役の女の子も野獣役のダンサーもかなりいい演技をしていただけに余計に印象が拡散してしまって、2回見ても動きを追いきれない箇所がたくさんありました。うーん。

しかし気になったのはその点くらい。
総合芸術なんていう言葉を使うのは口はばったいんですが、本当によくまとまっていて、非の打ち所のない最高の公演だったと思います。ブラヴォー!
by Sonnenfleck | 2006-02-13 01:08 | 演奏会聴き語り
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