クリスティ/レザール・フロリサン 《レ・パラダン》

c0060659_12504277.jpg【2006年11月4日(土)16:00~ オーチャードホール】
<パリ・シャトレ座プロジェクトⅢ>
●ラモー:3幕のコメディ・バレ《レ・パラダン》
→トピ・レティプ(T, アティス)
  ステファニ・ドゥストラック(MS, アルジ)
  アンナ・バヨディ(S, ネリーヌ)
  フランソワ・ピオリーノ(T, 妖精マント)
  ジョアオ・フェルナンデス(Bs, オルカン)
  ルネ・シレール(Bs, アンセルム) 他
→ジョゼ・モンタルヴォ、ドミニク・エルヴュ(演出・振付)
⇒ウィリアム・クリスティ/レザール・フロリサン


オペラの引越公演らしく、オーチャードホールは大使以下フランス人軍団、評論家勢(許光俊氏は目視確認)、きれいに着飾った紳士淑女などで一杯。久しぶりに緊張するコンサートです。。チケットが当日引き渡しだったので到着するまで席がわかりませんでしたが、「雨宿り席」ながら舞台が欠けない二階中央最後列をゲットしました。

あらすじ
助平な後見人アンセルムに閉じ込められた美しい娘アルジとその侍女ネリーヌ。アンセルムの留守中、ネリーヌは監視役の従僕オルカンを誘惑し、アルジの恋人で彼女を救出しに来た遍歴騎士(パラダン)のアティス一行を城内へ導く。
そこへアンセルムが帰還。アルジはアティスへの愛を認めるようアンセルムに願い出るが、彼は認めず、従僕オルカンに二人を殺害するよう命令する。しかしネリーヌに好意を寄せる臆病者のオルカンにはそれができず、さらにアティス一行が悪魔に変装してオルカンを脅したため(★)、アンセルムの陰謀は頓挫する。
それでも諦めきれないアンセルムだったが、突如現れた妖精・マントの美しさに魅了されて蕩けているところをアルジに目撃される。彼女から浮気を非難されてアンセルムは破滅。アルジとアティスの愛を讃える喜びの踊り(★)で大団円。

⇒正直に言うと、バロックオペラだということを差し引いても地味な話だと思います(苦笑)
本来用意された大規模なバレは★部分にて展開されるんですが、もし何もない普通の演出でこれを観たとしたら、間違いなく寝てしまうだろうなあ。。この地味で薄いストーリーに「ヒップホップな」演出が適用されるのは必然なのかもしれません。
(*逆に《カストルとポリュクス》や《ゾロアストル》など「強い」話の作品にあの演出が使われたら、きっとうるさくてかなわんでしょうねえ。)

演出
予想の遥か上を行く喧騒。脳内CPU使用率の急上昇でフリーズ目前の嬉しい悲鳴です。
1 ダンス
登場したダンスは、本来の脚本が必要としている「コメディ・バレ」の「バレ」と、登場人物の心象を代弁する分身としてのダンスという二つに大別することができます。前者はすでにロラン・ペリーがミンコフスキの《プラテー》でポップな演出を行なっていますが、あれがラモーの音楽と同期していたのとは異なり、今回のモンタルヴォとエルヴュの振付は音楽からさえ自由!ダンサーの動きが拍子と合わないことが多いので初めは少しイライラしましたが、慣れてしまえば知覚のチャンネルがひとつ増えたのを楽しめるようになります。
また後者も、ツァグロゼクの《後宮からの逃走》でノイエンフェルスがやってくれたので驚きはしませんでしたが、ダンサーへの単純な翻訳に陥っていなかったのがよかった。彼らの動きは必ずしも歌詞の内容と一致していたわけではなく、それゆえバロックオペラらしい類型的な人物造形に陰翳が生まれていたのは間違いない。
2 ビデオ
今回の演出を特徴付けるもうひとつの要素が、舞台後景に映写される突拍子もない映像の数々(上に載せた写真、アルジとアティスの後ろでウサギの大群が大写しになってますよね)。序曲とともに鹿の一群が走り抜けるのに始まり、象・ライオン・孔雀・ウサギ・ワニ・ヘビといった動物たちの実写/ダンサーの幻影(一緒に生身のダンサーも並んで踊るので、どれが虚でどれが実かわからず朦朧としてきます)/歌手の幻影(何人も現れる登場人物の姿に幻惑>これが脚本に合わせて動物とコラージュされたりする)/天上の世界(出ました全裸&真上から眺めるトランポリン)…
ひとことで言ってカオス。ビデオとダンスと歌とオケと、、どれに意識の焦点を合わせればいいのかわからずグラグラしますが、この異様な楽しさはまったく未体験の感覚です。
3 ヌード
本格的な裸体が登場したのは第2幕の途中で挟まれた休憩の後から。全裸の男女がトランポリンで飛び跳ねる映像が映写されます。DVDに年齢制限がある?のはこのせいなのかねえ…と思って観ていると、第3幕最後の大団円の踊りで本物のヌードダンサーが4人現れたのでさすがに吃驚。しかし猥褻な感じがまったくないのは、、ハダカよりレザール・フロリサンの音のほうがずっと官能的だからなのか。。

演奏
はい。生のレザール・フロリサンは、人をダメするくらい美しい音を放射するオケでした。
あの鈍重なオーチャードホールの響きの中にあって、凛とした音の輪郭を保ち、不協和音を伴った急激なアタックと、緩やかなレチタティーヴォ風の箇所における憂鬱な肌触りとの素晴らしい対比を聴かせる。CDで聴くよりさらに豊満で柔らかい音がします(第1幕でオルカンが驚いた「美しい響き」、ミュゼットとオーボエとフルートが折り重なったあの一瞬が忘れがたい)。
そして実はクリスティはあまり指揮の動作をしていなくて、コンミスのマルゴワール女史(指揮者のマルゴワールとは関係があるのかしら)が表現のニュアンスを統率しているのが見えますし、なんといってもリズムは通奏低音軍団が掌握している。あの生き生きとした音楽は、指揮者のオケに対する信頼と、信頼に応えようとするオケの自発性が作り出しているんですね。

歌唱
アンセルム役のシレールだけもうちょっと音量がほしかったものの、歌手は総じて凹凸のない出来でした。アルジ役のドゥストラックは最初やや音程が不安定でしたが、進行に従って上り調子。急遽(でもないんだろうけど...)代役に決まったバヨディは太くて丸い声で、たぶんピオーよりもお侠なネリーヌになっていたように思われます。
あとはレザール・フロリサンの合唱隊!本公演のMVPは彼らかもしれない。
例によって大勢登場する群衆はみなダンサーだと思っていたのですが(よく動くし)、いきなり声を上げたのには驚きました。あのシャルパンティエと、あの《メサイア》と同じ合唱が聴こえてきますよ。。感涙。

おわりに
カーテンコール。クリスティに最大の喝采が送られたのはまったく納得ですが、一人出てきた演出・振付のエルヴュ(モンタルヴォは欠席?)にブーが飛ばなかったので幸せな気分のままホールを後にすることができました。皆カオスとファンタジーを存分に味わった模様。。

※舞台の様子を知るにはここのクリップをご覧頂くのが最も手っ取り早いでしょう。
by Sonnenfleck | 2006-11-05 12:51 | 演奏会聴き語り
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