【2007年1月5日(金)19:00~ 愛知県芸術劇場】
●《ムナーリ・バイ・ムナーリ》(1967-72) *Perc ●《ヴォイス(声)》(1971) *Fl ●《フォリオス》(1974) *Gt ●《サクリファイス》(1962) *Perc/Fl/Gt ●《小さな空》(1962/81) ★谷川俊太郎+加藤訓子 トーク ... →加藤訓子(Perc)、鈴木大介(Gt)、木ノ脇道元(Fl)、 合唱団ノース・エコー、谷川俊太郎 新年最初から味のあるコンサートでした。 1曲目、iioさんや「ユビュ王の食卓」家主さんが大絶賛のパーカッショニスト・加藤訓子さんによる、《ムナーリ・バイ・ムナーリ》。 楽器を鳴らしながら登場→客席の間を移動・ステージへ上がる演出によって、弛んだ正月アトモスフェアが一気に引き締まります。この伝説の作品を生で聴く・視るのはもちろん初めてなんですけど、音そのものというよりは音が出る作用とそれを引き起こすパフォーマーの身体の動きに始終意識を奪われっぱなし。舞台に並んだ十数種の打楽器の中から、次はこれ、その次はあれ、というように(まるで何者かの意思に従うようにして)響きと時間を紡いでいく様子は…実に巫女ライクなのですね。。 残念なことに咳やくしゃみ、あるいは耐え切れずホールから退場する足音を発する物体が会場中に満遍なく配置してあって、、ああなんたるミュジク・コンクレート!だったけど…。 木ノ脇氏による2曲目の《ヴォイス(声)》も、やはり音よりも音が生まれる過程と仕組み、アーティストの息遣いを知覚させる面白さがある。生で聴くと本当に楽しい作品。木ノ脇氏のかっこよさに惚れます。 大介さんによる《フォリオス》になると―彼自身がプログラムで書いているように―、演奏者の身体よりも曲そのものがずいぶん表立ってくるようです。もちろんそこにあるのは複雑なリズムだったり、括弧つきの苦い「メロディ」だったりするのだけど、《フォリオⅢ》の最後に突如として引用されるマタイの優しいコラールは、それゆえにベルクのVn協奏曲での引用とは比べ物にならないくらい鮮やかな印象を与えるようでした。震えるような美しさ。。もうちょっと大介さんの近くで聴いてみたかった。 そうして3人による《サクリファイス》のセッションで休憩。 ロビーに行くと《ムナーリ...》の「楽譜」である『読めない絵本』が展示してあるので見てみます。ブルーノ・ムナーリによる音の減衰や閃きに通じるような造形と、そこに几帳面な筆跡で書き込まれた武満の演奏指示に納得。 + + + 後半はまず照明が暗転、P席に合唱団の皆さんが陣取って、武満が作詞と作曲の両方を手がけた《小さな空》を聴かせてくれます。団員は男女の区別がなくバラバラに配置されてたのだけど、男声と女声が見た目以上にしなやかに混じり合ってほんのりとした美しさが漂っていました。ブラヴォ。武満の商用音楽ってどれもなんとなく寂しくて、不思議な気分になる。 続いてステージに出てきた加藤訓子さんのアナウンス。それに応えて客席から軽やかに駆け上がる詩人の姿が見えます。作曲家の40年来の友人だった谷川俊太郎氏が語る素顔の武満…きっと有名な話ばかりなんだろうけど、実際に生の声を聞くと興奮しますね。 「武満はキャバレーに行って職業を中てさせることがあり、カーレーサーと言われたこともあった」、「二人で歩いていると武満はよく私の肩に頭を持たせかけてきたが、ゲイということではない」など楽しいエピソードを聞かせてくれましたが、「宇宙はそもそも音に満ちていて、自分はその<音の川>からテクスチュアを汲み取って翻訳しているだけなのだ、と武満はよく言っていた」という話にはちょっと感銘を受けた次第。 そしてこの後、武満の音楽からエッセンスを汲み取り、それを自分たちの言葉に翻訳する5人のミュージシャンが登場するのだけど、、長くなったので続きはまた明日。
by Sonnenfleck
| 2007-01-08 15:15
| 演奏会聴き語り
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Comments(8)
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zerosnow
at 2007-01-08 22:31
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おおっ。Sonnenfleckさんも聴かれたのですね、あのコンサート。
1曲目は書いていらっしゃるように「大変」な状況でしたね (-_-; 会場に向かう途中「なんか雰囲気の違う」方々とたくさんすれ違いまして 「今日は武満の他に何かあったかな?」なんて思っていたら 皆さん武満のコンサートに入られてびっくり・・・でした。 でもとっても素敵な、とっても素晴らしい「来て良かった」コンサートでした。 コンサート初めとして幸先の良いスタートとなりました。 明日の感想も楽しみですね。
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Sonnenfleck at 2007-01-08 23:26
>zerosnowさん
いらっしゃってましたか~。1曲目の間は雑音に気をとられないように、そして怒りに流されないように(笑) 集中するのが辛かったですね;; 出て行った方々はcobaが目当てだったんでしょうか…。 やっぱり武満作品は(他の作曲家の作品だって全部そうですけど)「音のない部分」も音楽なんですよねえ。そういう意味では前半はちょっと残念な結果でした。後半でたっぷり楽しませてもらったのでコンサートの後味はよかったですけど。。
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kn
at 2007-01-09 00:03
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kaorinishinaです。表記をknとしますが、今年もよろしくお願いいたします。
「ムナーリ・・」は'03年のSKFで竹原美歌さんの演奏で聴きました。楽譜があれですから、同じような演奏ではないのだろうと思いますが、当時の私の日記にはこうありました。「見たこともないような、一応楽器と呼べば呼べなくもないというような(そう、打てば音が出るのだから)ものも連ねた打楽器群の中心に居て、全身を使うようにしながら演奏された。観客は、一音一音の響き、奏者の動きに全身の感覚を集中させ、また、同時に音の海原にその感覚を解放した。(と思う。)」 続きの記事を楽しみにお待ちしています。
このコンサート、私も行っておりました。ニアミスでしたね。3時間弱にも及ぶ長丁場でしたが、結構楽しめました。前半はかなりディープな世界に感じられました。...1曲目、私は3階席だったので、客席をまわる加藤訓子はほとんど見えませんでした(笑)
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Sonnenfleck at 2007-01-09 21:48
>kn(kaorinishina)さん
こちらこそ今年もよろしくお願いします◎ 「観客は、一音一音の響き、奏者の動きに全身の感覚を集中させ、また、同時に音の海原にその感覚を解放した」のくだり、まったく同じ印象です。音のないところを「感覚を解放」することで聴く、というような。普通の音楽とは明らかに違う部分を使って聴いていました。 サイトウキネン、、今年はチャイコフスキーにラフマニノフと個人的にはかなり縁遠いプログラムですが、名古屋に引っ越したのだからいつかは行かなきゃと思っているところです!せめて武満のコンサートだけでも。
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Sonnenfleck at 2007-01-09 21:58
>蔵吉さん
またもニアミスでしたね。私は3階席の端っこに座っていたので、お客の間を回遊する加藤さんと吃驚してる1階平土間のお客たちが見えましたが(笑) 逆に真っ暗で何も見えなかったらもっと面白かったかもしれません。加藤さんがつまずいて楽譜にない音を発生させたりしたらいかんのですけど。。
今頃、こちらの記事を読んでしまいました。
合唱団で歌っておりました私です。 前半は聴衆の一人として聴いておりました。 ますます武満の音楽が身近に感じられてよかったです。ややハードではありましたが。 後半は合唱団としてP席におりました。cobaさんのソロはかなり凄かったと思います。 リハの時は「気乗りがしないと10秒で終わるから」とおっしゃっていましたが。どうしてどうして、本番はやはり凄いものでした。 合唱の演奏はそこそこお気に召したようで少しホッとしております。なにぶんアマチュアがプロの方々と一緒にお仕事をさせていただくのですから、恐縮しまくりです。 色々な方の感想を見聞きしておりますが、厳しいご批判も頂いており、それもまたとても勉強になっています。 武満の合唱曲は数は少ないですが、メロディアスであったり、ジャジーであったり、難しい曲ですが魅力的な曲がいっぱいあります。 ありがとうございました。
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Sonnenfleck at 2007-03-16 23:27
>ピースうさぎさん
おおお。そういうことでしたか! 《小さな空》、お世辞とかそういうことを抜きに、とても素敵でしたよ。 この日はちょうど指揮者さんの真上あたりに座っていたので、合唱の皆さんがまさにこちらを向いて歌っておられるのが見えました。皆さん表情は引き締まって真剣そのものなのに、ほんのりと柔らかい響きが飛んできて…。機会があればぜひまた聴かせてくださいね!
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