数年前の「クイズ・ミリオネア」で、1000万円を賭けた最終問題として、
「ピアニスト、ホロヴィッツの義理の父親であった指揮者は誰?」という問いが投げかけられたことがありました。 答えを知る人間として、解答者氏の逡巡と挫折を見守るつもりでいたところ、、あっさりと「Bのトスカニーニでファイナルアンサー!」の声。「ニーニが可愛らしかったから」というその山勘の理由を聞いて、椅子からずり落ちつつ思わず拍手しちゃいました。お金のカミサマは無欲で「ヲタクではない」人間にだけ微笑むのね。 さて1月16日は、アルトゥーロ・トスカニーニの没後50年目にあたる日でした。 モノラル録音から創造的な聴取を行なう自信がないので(あとヘッドホンで聴くのが辛いので)、1950年代中頃より前の録音を進んで聴くことはほとんどありません。でもそんな中で唯一、ときどき取り出して聴くのが、トスカニーニ/ウィーン・フィルの《魔笛》。 1937年ザルツブルク音楽祭のライヴ。 70年前の夏、ザルツブルクで起こっていたことについて、s_numabeさんの「留まるべきか、去るべきか」というエントリ以上に克明に事実を伝えるものはないと思います。歴史的記録の亡霊が1000円のパンケーキに封じ込められている、なんという奇怪なジョーク! ともあれ。 この録音で捉えられているトスカニーニの「フォルム」は、自分を魅了して已みません。 音色とか楽器のバランスは確かによくわからない。というか全然わからない。 でも指揮者がアンサンブルに要求してる拍節感だけは、はっきりとわかるんですよね。 〈序曲〉最初の1stVnの3連符、ここが音価どおり鮮やかに弾かれ、低音楽器の緊張した付点リズムによって高揚していく様子。そしてこれに続く火のようなフーガといったら! トスカニーニは、音符一つ一つを執拗に彫り込み(特に音価の短いものは徹底的に!)、鋭いフォルムに仕立て上げてからそれぞれに強いアクセントを置く。これでふくよかな縦の響きは失われるけれども、そのかわり音符が連鎖的に反応して爆発していくような、物凄い推進力が生まれています。 この点だけでいったら、ミンコフスキもノリントンもヤーコプスも敵わないような気がする。馬鹿馬鹿しい仮定だけど、もしこの指揮者が現代に生きる人だったら、自分はすべてを捧げて追っかけをやってたかもしれないな。恐ろしい。
by Sonnenfleck
| 2007-01-18 22:02
| パンケーキ(18)
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Comments(4)
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iustitia
at 2007-01-19 21:39
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1937年のザルツブルクと並ぶもう一つの伝説、1936年のバイロイトの録音はおすすめです。
http://www.amazon.co.jp/dp/B0006ZXG8M/ フランツ・フェルカーをはじめとして、歌手陣のレベルが非常に高い!
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Sonnenfleck at 2007-01-20 01:04
>iustitiaさん
ヒストリカル系は疎いのでよくわかりませんが、この年は全演目をフルトヴェングラーが振っているんでしたか。 往年の名歌手たちは確かに今の歌手とは根本から違うのですが、このトスカニーニの魔笛を聴いていていちばん残念だったのが、歌手たちのある種の横柄さでした。。トスカニーニの用意した枠にまったく合わせようとせず、仕方なく指揮者のほうでアンサンブルを緩めるのは、聴いていてあまりいい気分ではありませんね…。当時はそれが当然だったのだと言われればそれまでですが。
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iustitia
at 2007-01-20 08:13
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この年は、フルトヴェングラーとハインツ・ティーチェン(Heinz Tietjen)の二人が振っていたと思います。往年の録音でも歌手が指揮者に従うことはしばしばあるので、あまり一概には言えないですが、歌手の経験則と自主性が現在よりも重要視されていたのではないでしょうか。
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Sonnenfleck at 2007-01-21 00:18
>iustitiaさん
ティーチェンという人は、この時代を扱ったものの本には大抵名前が出てきますけど、実像が掴めませんね。有名な録音がないからなのか。。 しかしなにしろ戦前戦中の録音を聴いた経験がほとんどないので、オペラというと演出、でなければ指揮、というイメージしか持てないんですよ。。まだまだ修行が足らないです●
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