【2007年1月28日(土)15:00~ 第412回定期/すみだトリフォニーホール】
●シューマン:交響曲第4番ニ短調 Op.120(初稿) ●ベートーヴェン:バレエ《プロメテウスの創造物》 Op.43 より ⇒フランス・ブリュッヘン/新日本フィルハーモニー交響楽団 待ちに待ったるブリュッヘン。…しかし、いささか困惑しております。。 とりあえず彼の姿形には変化ありません。前回同様、枯木のような痩躯をよろめかせて登場し、椅子に座っての指揮。 しかし前半のシューマンは、あれはどうやって評価したらいいんだろう…。今回ブリュッヘンが取り上げたのは第4交響曲の初演に使用された稿で、その初演が大失敗だったために響きの補強を主眼として改訂されたバージョンが、現在シューマン第4として普通に演奏されているものらしいんです。でも、ブリュッヘンがどうして初稿を使ったのかという点が謎。やくぺん先生がプログラム解説でそのへんのことについて書いてくれるかと思ってましたが、 あえて初稿を使ったということは、ブリュッヘンは何かしら初稿のアドバンテージを認めているのだと思うんですけどね…。改訂稿より何か優れている箇所があるのか?しかしこちらの胸倉を掴んでそこを理解させてくれるような、そういう「強い」演奏ではなかったし、もっと言えば、少し空疎な雰囲気の漂う演奏だった。。この人は有無を言わせないような「強い」演奏をする人なのだとずっと思い込んできた自分にとっては、大いにショックでした。 加えて、オケのほうでも前回のシューマンとはノリが違う。 あんまり縦が合ってなかったなあというのがまず不満で、それ以上にずいぶんデュナーミクが硬直してたのが不可解。あんなに起伏がなくていいのか?…ノンヴィブラートはノリントン/N響よりずっと自然だったし、第3楽章のトリオ手前で鮮やかに減速する様子なんかは美しかったけれども。 このようにマイナスな印象を多く持った理由は ・事前に過剰に期待しすぎた ・ブリュッヘンがこういう曲作りをするようになった ・シューマン第4の初稿はそもそも空疎に書かれている ・楽団員の中に初稿の使用に納得していない人が大勢いる ・練習期間が短くてブリュッヘンの意思が伝わっていない ・ブリュッヘンが時差ぼけ ・楽団員が風邪 ・こちらの耳がいかれた などとたくさん考えられるのですが、熱狂しようと思って高いところに登ってたら下で梯子を外されたような、予想しない心持ち。これが前半を聴き終えたあとの偽らざる感想です。 後半《プロメテウスの創造物》は珍曲。ベートーヴェンらしい曲調のせいもあって前半よりは生き生きしてたと思うんですが、今度は空疎というより全体的にまったりと落ち着いてしまって、終始和やかなムードに。ブリュッヘンに和やかムードなんて似合わないヨ。。 それでも第5曲のpizzと木管+Vcソロのバランス、柔らかな歌わせ方がまさに絶妙で、ホロリときました。あとは《エロイカ》のテーマによる終曲に聴かれた重たい響き、あれがブリュッヘンの醍醐味です。この辺は変わってないようで。 ベートーヴェンやモーツァルトなど、過去の録音と簡単に聴き比べできるプログラムが聴けないのが悔しいです。結局ブリュッヘンが変わったのか変わっていないのか、曲のせいなのかオケのせいなのか自分のせいなのか、全部わからないまま名古屋へとんぼ返り。他のブログさんのレビューだけが頼みの綱です。。うーむ。
by Sonnenfleck
| 2007-01-28 18:20
| 演奏会聴き語り
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Comments(10)
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Takuya
at 2007-01-28 21:58
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シューマンに関しては、こちらに失礼します。
シューマンの初稿版は、現行版に比べて、響きを大幅に刈り込んであるのが特長だと思います。ばっさりと勢いよく刈り込んでしまった盆栽みたいな感じで、元々の魅力と比べると「風情がないなあ」と感じるところもある反面、風通しが良くなって、すっきり古典的な響きになったな、というところもあり。 というわけで、ガーディナーにせよ、かつて実演で聴いたナガノにせよ、こうした「風通しの良さ」をフルに活用して、きびきびとした透明感ある演奏をしていたんですが、ブリュッヘンはテンポも遅めだし、響きも結構べとっとしているし、「なぜこの稿を選んだのか」という疑問が、私も最後まで解けませんでした。 ベートーヴェンはそんなに私も不満があるわけではないんですが、期待値に比べるとなあ・・・といったところです。
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Sonnenfleck at 2007-01-28 23:08
>Takuyaさん
今回の感想でいちばん自信がないのが、初稿自体の印象とブリュッヘンの印象とを混同しているんじゃないだろうかという点です。。私はこの初稿にあまり馴染みがなくて、改訂稿との違いを追っかけるだけで精一杯だったのは否めません^^; 確かに第4楽章の冒頭など、改訂稿では存在する対旋律がきれいさっぱり消えてたりして、すっきりしてるなあという感じでしたが、少なくともこれを生かそうとする演奏ではなかったですよね。ということは、疑問は解けないけど疑問の設定自体は間違いではないというところにやっぱり着地してしまいますね(苦笑) ガーディナー聴いてみようかな。。
こんばんは、アリスです。今回は、初演版だということと、「ブリュッヘン」だということが、過剰に、 Sonnenfleckさんのなかで影響しているんじゃないかと思います。
私は、前回のブリュッヘンの音楽の本質と、さほど変わったという印象は持ちませんでしたが、むしろ、聴き手のほうが慣れてしまったのではないかと思いました。前回の公演で印象深かったアーティキュレーションの美しさというのは、まったく健在でした。 シューマンは実に多様な作曲家だということを、昨年11月のイッサーリスのシリーズで強く感じましたが、初演版にしろ改訂版にせよ、4番と2番では、まったく別物だと感じました。だから僕は、ブリュッヘンのどちらの演奏にも納得できたけれども、2番には大感動したが、4番はあまり・・・という人がいても、全然、不思議ではないと思います。 初稿自体の印象とブリュッヘンの印象とを混同しているんじゃないだろうか・・・と仰っていますが、その両方は切り離せるのでしょうか。僕は、この版を使って、ブリュッヘンがやりたかったことが、 Sonnenfleckさんのイメージに合わなかったということではないかと思います。
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yakupen
at 2007-01-29 14:26
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NJP曲解を担当させていただきました、よろず売文業の渡辺でございます。
ええ、シューマンの4番の版の問題ですが、ええ、実を申しますと、このブリュッヘンという方は、楽譜の選択にはそれほど煩くない方だそうなんです。で、どうして初演版を選んだかなど、楽団には一切事前の説明などない。それどころか、原稿締め切りの遙か昨年12月初旬には、当日プログラムに書きました実は2種類ある初演稿のどっちを使用するかも皆目判りませんでした。来日以降、練習が始まってからも、とくべつ楽譜選択の理由を説明したこともないようです。必要ならその辺りの事実関係、楽団員さんの誰かに尋ねてみましょうかねぇ、そのうち。 というわけで、ご期待のような事を書けませんで、申し訳ありませんです。ただ、ブリュッヘンという方は、アルノンクールみたいに「説明しすぎ」みたいなことはしない方みたいなんですね。選択した楽譜の理由を他人に説明するなどということは、まずあり得ない方だと思います。面と向かって質問しても、恐らく、どうでもいいことを仰って追い返されるんじゃないかなぁ。うううん。
ブリュッヘンの楽譜選択のこだわりのなさは、あちこちで聞きますね。。アーノンクールやノリントンだったら、まさかこの楽譜使わないだろ、という楽譜を、あっさり使っているそうですから。でも、メンデルスゾーンのスコットランドは、自筆譜を見てチェックはずという、こだわりの箇所もあったりと、、、、(200CD-交響曲の秘密の星野先生の稿参照)
おそらく、やる気があるかどうかで、演奏も楽譜選択も、大きく変わる人だと思います。昨年のショパンや、今度のシューベルト-ベリオのような、挑戦的なプログラムを組むツアーは、やる気まんまんだけど、それ以外の名曲ツアーや客演では、、、。 ともかく、楽譜選択という古楽系ならではのこだわりは、当初から期待していなかったのですけど、それでもねえ、、、。
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Sonnenfleck at 2007-01-29 21:26
>アリスさん
そうですねえ。私は彼の「ファン」ですから、アイドルはトイレに行かないと思い込むジャニヲタと同じような心理状態になっているのかもしれません。自分のイメージに合わないアプローチが嫌だという。。おそらくそれは中っています。情けないことです。 あまり聴いたことがない曲の場合、目の前の演奏家のやっていることがその曲の演奏解釈において常套的なのか革新的なのか、曲そのもののテクスチュアを再生しているだけなのか、あるいはそこに何か自分の解釈を入れているのか、私にはそれらを巧く感じ取って判断する自信がないのです。 作品の側から見れば、今回のシューマンは私には心地よいものではなかった。これは慣れ親しんだ気持ちよい響きが寸断されている所為かもしれないが、それは指揮者の解釈が入っているからなのかもしれない。わからない。 演奏の側から見れば、今回のブリュッヘンは私には心地よいものではなかった。これはブリュッヘンが僕の慣れ親しんだ音作りをやめた所為かもしれないが、それは曲自体がそのように聴こえるものであるためなのかもしれない。わからない。 という混沌とした疑問が、今回の感想の根幹です。グダグダですね。
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Sonnenfleck at 2007-01-29 21:44
>やくぺん先生
やや!まさかご本人からコメントをいただくとは…。光栄です。いつもブログ拝見しております。 裏話を教えてくださってありがとうございました。「ブリュッヘンはオリジナル楽器の人だからオリジナルな楽譜を使うのだ」というのがレコ芸読者欄的な模範解答なのかもしれませんが、本当にそういう文脈から離れたところで棒を振っている人なのですね。。楽団員にさえ説明がなかったというのが面白すぎます(笑) フルトヴェングラーの使用楽譜なんて誰も気にしないんですからね。。
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Sonnenfleck at 2007-01-29 22:37
>marutaさん
今回は皆さんのご感想が面白いくらい割れていて(某大きな掲示板の当該スレッドでさえばらばら)、その意味では聴きに行って正解だったと思ってます。どの意見もおそらくどこかの一面を捉えているのでしょうし。 ショパンもベリオも聴いてみたいですが、プログラムにいわゆる「名曲」しか乗っていない残りの新日フィル客演の様子が、こうなると本当に気になりますね。。かつて録音した「得意の曲」が、そのまま提示されるのか、それとも何か変わった様子で示されるのか。。確かにブリュッヘンが楽譜に拘るイメージはまったくありませんが、そうした曲でもやっぱりそうなのか…気になります。
こんばんは。
こちらのプロをご覧になったのですね。 私はモーツァルトプロを聴きましたが、基本的に同じような感想をもちました。 「自由にならない体、どんどん研ぎ澄まされていく精神、何かそのはざまで必死に孤高の音楽を奏でている」そんな印象をもちました。 それと、彼が多くを語らなくても趣旨を理解してくれる優秀なオケも、欠かせないんだろうと思います。
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Sonnenfleck at 2007-02-12 22:43
>romaniさん
モーツァルトの様子、教えていただいてありがとうございます◎ なるほど…彼はもう外を向いていないのかもしれませんね。。そうなると仰るとおり、いよいよ18世紀オーケストラの存在が大きくなってきますが、現状の彼らがどんな集団になっているのか、知る手立てが限られるのが悔しいです。ネットラジオで地道に探すしかないんでしょうかね。
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