佐藤卓史 「ラ・カンパネラ」~珠玉のピアノ小品集
リアルの世界で友人である音楽家の演奏についてここで書くのは、ある程度の困難と躊躇を伴います。でも逆に、それが自覚されることなく書かれた文章は何の説得力もないと思う。 掲示板「招き猫」の末期にOというピアニストを無節操に持ち上げていたひとりの常連がいましたが、あれはまさに贔屓の引き倒し、彼のせいで僕はOにいいイメージがもてないままでいます。 前置きが長くなりましたが…勝手に応援中のピアニスト・佐藤卓史が2月にソロ・デビューCDをリリースしました。(*佐藤卓史公式ウェブサイト。) ここではクラヲタ向けにキャラクタライズしてみましょう。 彼のピアノの特徴を(音楽評論術的な)一言で表すと、「品位の高さ」に尽きると思います。 彼の音楽はやり過ぎやあざとさ・踏み外しを絶対的に避けていて、たとえそういう曲調であっても彼の美音と「優雅な枠組み」の中に取り込んでしまう。爆演が絶賛され、人と違うこと、人を驚かすことが物凄く強い価値を持ち始めているクラ界にあっては絶滅寸前、化石のように(ごめん)貴重な音楽をやっていると思うんです。 このソロ・デビューCDは、彼が得意とする穏やかな小品を贅沢に収録しており、味のあるラインナップがかなり印象的です。 フンメルのロンド、メンデルスゾーンのロンド・カプリチオーソなどコミカルな小品は、前述の「優雅な枠組み」の中でその持ち味をいささか減じて、楽屋オチのようにきれいにまとまっている。無責任な聴き手としてはもっとハッチャケてほしいなあなんて思っちゃうのだけど。 でもリヒャルト・シュトラウスの《夢》、チャイコフスキーの夜想曲、ブラームスの間奏曲など、アルバムの中心から後ろ寄りにかけて配されたロマン派のレパートリー…これらの穏やかな叙情は本当に素晴らしいと思う。ベタな感傷的身振りに堕ちない絶対の優雅さ、これが彼の武器ですよ。 クープランの《葦》も非常に強う力で彼の世界に引き寄せられて演奏されるので、モダンピアノによるバロック・レパートリーの演奏に懐疑的な僕も頷かざるを得ない。。他のどのトラックよりも、このクープランの豊かなアゴーギクが美しいです。。 そしてシャミナードの《秋》。サロン風の長閑な主部から、このCDの中で唯一と言って差し支えない激昂を見せる中間部→主部の回帰、という流れが鮮やかで、ここで垣間見えるある種の厳しさには背筋が寒くなる。激することの価値は聴き手が考えるほど軽くはない―ここに前述の見識の高さが滲み出ていると思います。これは友人の身贔屓ではなくて。 そうそう、最後になりましたが、この録音で使用されているのはスタインウェイのコンサートグランドではなく、ベーゼンドルファー・インペリアルなのです。僕は残念ながらこの二つの違いが巧く聴き分けられませんが、ベーゼンドルファーの音を知りたい方にとっては最高に質の高いレファレンスになるかと。
by Sonnenfleck
| 2007-03-25 16:44
| パンケーキ(19)
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Comments(4)
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ぜろすのう
at 2007-03-25 21:04
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ベーゼンドルファー、当然(笑)名古屋市内にもあるとは思いますが
碧南市のエメラルドホールのベーゼンが県内ではおすすめですよ。 エメラルドホールは音響もいいし、なかなか素敵な企画も「低料金」でやってくれます。 もし機会がありましたら・・
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Sonnenfleck at 2007-03-25 22:46
>ぜろすのうさん
あそこにはベーゼンがあるんですね。しかし碧南市…の位置を勉強しておきます。。名古屋に引っ越してきてからそろそろ1年ですが、メンタルマップの更新は遅々として進みません^^;;
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iustitia
at 2007-09-13 23:49
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佐藤卓史氏・佐藤俊介氏のデュオ・リサイタルが、9月18日にBS2で放送されるようです。
http://www.nhk.or.jp/bsclassic/bscc/2007-09/bscc-2007-09-18.html
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Sonnenfleck at 2007-09-15 10:14
>iustitiaさん
ははは…我が庵はBSを受信できないのです。。情報ありがとうございましたが。。
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