【2007年6月23日(土)16:00~ 第337回定期/愛知県芸術劇場】
●ベートーヴェン:Pf協奏曲第3番ハ短調 op.37 ○アンコール シューベルト:4つの即興曲 D899~第3番変ト長調 →キリル・ゲルシテイン(Pf) ●ショスタコーヴィチ:交響曲第11番ト短調 op.103 《1905年》 ⇒ヤコフ・クライツベルク/名古屋フィルハーモニー交響楽団 ショスタコの幕切れで、事故が発生しました。 □1 第4楽章の終結部に差し掛かり、打楽器陣が渾身の力で曲をクライマックスへ導く。 □2 最後の和音にかぶさるようにして、かなりフライング気味なブラヴォと拍手。 □3 クライツベルクとオケは静止したまま動かない。 □4 ここで突然、女の叫び声がホール中に響く。「まだ鐘があるッ!!」 □5 拍手、一瞬止むも、当然「もう鐘はない」ので、指揮者もオケも動かない。騒然。 □6 指揮者、諦めたように力なく立ち尽くす。オケぐったり。再び拍手。 この間、わずか数秒であったと思います。ライヴはドラマだねえ。 勘違いして叫んだ女性は、天国のショスタコから電波を受信してしまったのでしょう。そういえば第4楽章には「警鐘」という副題が付いているのであった。ゴーン。 第4楽章のこの局面までは、クライツベルクと名フィル、非常にいい演奏をしていましたよ。 まず第1楽章の冒頭で、弦楽が気合の入った冷たい音色を出している!これで今日のショスタコも成功だなあと思いました。名古屋に来てからこれまで、1年の間にすでに第12、第5、第15と名フィルでショスタコの交響曲を聴いてきましたが、ひとつもハズレがないので驚いています(コバケンの第5は、コバケンの文脈では素晴らしい完成度)。 狂気を感じさせる高速テンポで、第2楽章の機銃掃射。重戦車ではなく、もっと小型でもっと恐ろしい火器という感じでした。クライツベルクってもう少し重たい曲づくりをするのかなと思ってましたが、それはビシュコフ兄さんのほうでしたネ。機銃掃射の終了、無音―かと思いきや、Vnの血煙が静かに漂っている、これは生のダイナミックレンジならではの恐ろしい落差。。細やかな配慮が、ゲ氏のように勢い任せだけではないことを感じさせます。。 前半のベートーヴェンが、実はさらに輪をかけてよかったのです。 この曲でも第2楽章の始まる直前に携帯電話が鳴ったりして、すでに客層的には悲惨の一途でしたが、演奏会全体としてはベートーヴェンの名演で救われるとこ大。 1979年生まれのキリル・ゲルシテイン、どこかで名前は聞いたことがありましたが、彼のピアノが素晴らしかった。非常に繊細でムードのある流麗な歌い口、美音、ムーディキリル。これはまったくネガティヴな意味ではなくて…ネオ浪漫とでも言えばいいのかなあ。第2楽章なんかこれ以上は望めないくらい繊細で切ない感じでした。受け流せないよー。 アンコールのシューベルトは、金曜の公演ではリスト編曲版の《魔王》だったみたいですが、この日は変ト長調の即興曲。やはり保守的で大変美しく、会場の空気をすっかり手玉に取っていたなあ。要注目の人です。 オケ。ノリントン/LCPの録音を先日聴いたばかりである僕にも力強くアピールしてくる、充実の保守本流でした。巨大な編成で編み上げる第3楽章のフーガがたいそうカッコよかった。協奏曲というのは、ソリストが必要なせいでモーツァルトやベートーヴェンであっても古楽化があまり進んでいないように思いますが、その中でも「オレたちは大編成保守でやってく!」という自信が伝わってくる演奏と、「ルーティンで流そ」という演奏では天と地ほどの差がある。 さて話をショスタコに戻しますと。 だらりと力を抜いたクライツベルクは、騒然とした拍手を浴びつつコンマスとトップサイド氏に向かって何か尋ねておりました。「さっきマダムが叫んだ言葉はどういう意味だい?」「『まだ鐘がある』という意味です、マエストロ。」― つくづく、ライヴは面白いのです。何が起こるかわからない。
by Sonnenfleck
| 2007-06-24 00:12
| 演奏会聴き語り
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Comments(11)
私も今日のその会場にいましたよ...
ああ、あれは「まだ鐘がある」と言っていたのですか...急に女性の金切り声が響いたのでビックリしてしまいました。そもそも、あれほど露骨なフライングブラボーにも驚かされました。なんというか、ある意味不思議な出来事でした。 でも、この11番も、名フィルのショスタコに対する情熱が感じられた内容でした。私の感想はまた後日。
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Sonnenfleck at 2007-06-24 01:58
>蔵吉さん
ただのフラブラなら(悔しいけれど)慣れてるつもりですが、あの大きなホールに響く女性の声ということで…一瞬凍りつきました。。あの直後は、怒りというよりは驚きが勝ってましたね。貴重な体験です(笑) 暮れに東京で開催される井上道義のショスタコツィクルスで、名フィルが第11番と第12番を担当しますよね。なんだか誇らしいといいますか、これなら間違いなく送り出せると確信しました。ミッチーの譜読みは物凄く細かそうですが、名フィルにはあの情熱そのままに頑張ってきてもらいたいですね。
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ライオンの昼寝
at 2007-06-24 14:56
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はじめまして
昨日の事件は私も遭遇しました。 女性がなんと言ったのか聞き取れませんでしたが、虚を突かれたためか怒りとか寂しさとかいう感情は湧いてきませんでした。 それと、私には叫んだ女性が鐘を鳴らしていた打楽器奏者に思えたんですが、これは単なる思い込みでしょうか・・・名フィルHPなどで何が起きたのかがわかるといいんですが。 5・7・10・12番だと最後の音がブラボー開始の合図になるのはわかります・・・フライングは勘弁してほしいけど・・・しかし11番は、残響が長引く鐘も同時に鳴るから、女性の叫びは「まだ鐘の音は消えてないよ」という意味だったんぢゃあないかと・・・推測にすぎませんが、そんな気がします。 指揮者も鐘の長い残響を意識して止っていたんぢゃあないでしょうか? それにしてもベートーヴェンの第2楽章前のケータイの音といい、フライング・ブラボーといい、困ったことです・・・繰り返し事前警告をしていくことしかないのかな? 名フィルも今回の件で色々と考えるかな? 後でここに演奏の感想を書きたいと思いますので、よろしくお願いします。
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ライオンの昼寝
at 2007-06-24 18:24
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感想を書きます。
Sonnenfleckさんの指摘通り、ベートーヴェンが素晴しかった。 広がりのある演奏で、神経質さを感じさせない 細やかさが、ハ短調の運命的暗さに救いを与えているといった風でした・・・カデンツァが長かったけれど、ちっとも弛緩せずに聴かせてくれました。 実に風通しのいい、それでいてこじんまりとしていまわない、作品の魅力を再確認させてくれものでした。 アンコールのシューベルトがまたいい・・・無理なく弾いて聴かせるってのが堪らなく嬉しい・・・この人はもう一度聴いてみたい。 ショスタコは冒頭のTpとHrが共に音を外して嫌な予感がしたんですが、その後はちょっくら打楽器と弦のリズムにずれが生じたりはしたけど、全体に見通しの良い安定した演奏でした。 機銃掃射の場面も終楽章冒頭も、決して鬼面人を驚かすようなことはせず、そこだけに期待をするわけではないショスタコ好きとしては、実に淡々とやっても恐ろしいのがわかるんだということを証明してくれたと思います。 昨年の12番、15番と共に「名フィルにショスタコは向いてる!」と思わせてくれるものでした。 「バビ・ヤール」やってくんないかな?
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Sonnenfleck at 2007-06-24 23:20
>ライオンの昼寝さん
はじめまして!コメントありがとうございます◎ 「まだ鐘がある」=「まだ鐘の音が残っている」と考えても、確かにあの状況ではまったく不自然ではないですね。そこまで考えが回りませんでした。。ネット上の情報を見ると、どうやら同じ定期でも金曜日のほうは、その長く残る鐘の音が消えるまで沈黙が続いたらしいですが…。演奏者が演奏から「帰ってくる」まで待てずに自分の興奮をぶつけるなんていうのは、もう野獣と同じですよね。ホールに2000人もいれば野獣が少々混じってしまうのも仕方ないのかなあとも思いますが、やり切れませんね。 >そこだけに期待をするわけではないショスタコ好き それです。。ショスタコファンの中には爆音好きも多いと思いますが、ショスタコはそれだけの作曲家ではないですよね。第13番の静かな幕切れは、名古屋で受け入れられるのかどうか…聴いてはみたいものの、今回のようなことがあると心配になりますよね。。 ともあれ、今後ともよろしくお願いいたします。
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Sonnenfleck at 2007-06-24 23:24
>ぜろすのうさん
いつもありがとうございます。ですが現在、エキサイトがエキサイト以外のブログからのTB受付を停止してまして…申し訳ありませんが反映されていないかと思います。スイマセン。。早く復旧してくれないと。。 今回はいろいろあって複雑な心境のまま家路につく羽目になりましたが、次回の定期は素直に盛り上がるべき、ブラヴォも盛大に飛ばすべき、楽しい演目なので、それほど心配はしていませんです^^
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ばーなん
at 2007-06-25 09:54
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私も「現場」にいました・・・ 友人に何が起こったか解説を求められましたが、私もしどろもどろ・・・かろうじて「ブラボーが早すぎて、まずいと思って?拍手が収まった時、女性のあのセリフが残ってしまったんじゃないかな」と答えましたが・・・ ライブはドキドキですね。
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Sonnenfleck at 2007-06-25 23:06
>ばーなんさん
まさに「事件は現場で!」でしたね。コンサートホールでブラヴォ以外の叫び声を聞くというハプニングには当然慣れてないですから^^; 人波にもまれてホールの出口に向かう際も、周囲のどよめきがなかなか収まってませんでした。…これがきっかけとなって、ライヴの一回性・貴重さに気づいてくれる人が増えればなあなんて思ったりしています。。
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DS愛好家
at 2013-01-04 15:56
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今日初めてこのブログを拝読しました。いまさらですが、コメントさせていただきます。
女性の「まだ鐘がある」という発言ですが、実はロストロポーヴィチ指揮の11番の録音(ナショナル響と、ロンドン響との2種類がある)が、最後の鐘の残響を長く残して収録しているんです。 私の推測ですが、特にナショナル響の録音は国内盤として広く流通していたはずなので、この女性はそのCDを聴いて、「この曲はこういう終わり方なのだ」と思いこんでいたのではないでしょうか。 そう思っていたのだとしても、実際に声に出して叫んでしまったというのは、かなり驚きですね。 面白い記事をありがとうございました。
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Sonnenfleck at 2013-01-05 08:57
>DS愛好家さん
はじめまして。コメントありがとうございます。なるほど~。ロストロポーヴィチ影響説。 生音楽のダイナミクスは受信側の感覚にもよりますから、もう聞こえなくなった!と判断して拍手する人がいても誰も責められないんですよね。この赤色がどこまで赤色かという感覚を共有できないのと同様。。 ともあれあの女性、勇気は買いたし行為は拙し、という感じでした。地方は拍手が早い傾向にありますが、一石を投じるにはちょっと波紋が大きすぎたかなあと(^^;) 今後ともよろしくお願いいたします。
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