【DISC15…35 SONGS】
●《牧神と羊飼いの娘》(1906) ※ →マリー・シモンズ(MS) ●《ヴェルレーヌの2つの詩》(1910/1951) + →ドナルド・グラム(Br) ●《バリモントの2つの詩》(1911/1954) + ●《日本の3つの抒情詩》(1913/1943) +' →イヴリン・リア(S) ●3つの小さな歌《わが幼き頃の思い出》(1906/1913/1930) + ●《プリバウトキ》(1914) + ●《猫の子守歌》(1916) + →キャシー・バーベリアン(MS) ●《4つのロシア農民の歌》(1917/1954) →グレッグ・スミス/グレッグ・スミス・シンガーズ ●《4つの歌》(1954) →アドリエンヌ・アルベール(MS) ルイーズ・ディ・トゥリオ(Fl) ドロシー・レムセン(Hp) ラウリンド・アルメイダ(Gt) ●《シェイクスピアの3つの歌曲》(1953) ++ →キャシー・バーベリアン(MS) ●《ディラン・トーマスの思い出に》(1954) ++ →アレクサンダー・ヤング(T) ●《J.F.ケネディのためのエレジー》(1964) →キャシー・バーベリアン(MS) ポール・E・ホランド(Cl) ジャック・クライゼルマン(Cl) チャールズ・ルッソ(Cl) ●《梟と子猫》(1966) →アドリエンヌ・アルベール(S) ロバート・クラフト(Pf) ●《4つの歌》~〈チーリンボン〉(管弦楽版)(1954?) +' →イヴリン・リア(S) ⇒イーゴリ・ストラヴィンスキー/ CBC交響楽団(※)、コロンビア交響楽団(+)、コロンビア室内アンサンブル(++)、 ロバート・クラフト/コロンビア交響楽団(+') 曲名と演奏者の表記だけでこんなに行を使ってしまった。 ストラヴィンスキー・マラソン、15枚目は歌曲がずらりと並びます。 で、廉価再発売された今回の「大全集」のライナーノーツからは、当然のごとく歌詞なんか省かれてるわけです。以前通常の値段で購入されて悔しい思いをされた方は、ここで大いに溜飲を下げてください!この先DISC21までの7枚は、テキストが読めなければお話にならないからです!くそう! 廉価ランナーができるのは、断片的に聴き取れるテキストと作品の題名から妄想をたくましくするか、声のパートも楽器として聴くか、それくらいの対応です。そうやって聴きました。 キーボードを叩いていてまず気になったのは、作曲年が10年代と50年代以降に固まっているところでしょうかね。10年代の作品もはっと思い出したみたいに50年代に改訂されてるし、晩年を迎えて声の魅力にはまり込んでしまったのかな。 まず《牧神と羊飼いの娘》は、交響曲第1番に次いで「作品2」の番号を与えられていて、華々しいオーケストレーション。いかにもリムスキー=コルサコフ流の重厚な面構えです。聴いた感じ交響曲第1番よりずっと保守的な雰囲気が漂っていて(この曲は改訂されてない)、現存するストラヴィンスキー作品の中でも特に19世紀の濃密な影を感じさせる作品だなと思いました。テキストもプーシキンみたいだし。 ところが《バリモントの2つの詩》と《日本の3つの抒情詩》に至って、突然簡潔で鋭い、半音階的な音響になります。2曲とも元はピアノ伴奏だったのが室内アンサンブル伴奏に改訂されていて、ギィ...パキッ...ポツ...といった感じで、、《アゴン》やPfと管弦楽のための《ムーヴメンツ》にちょっと似た響きを獲得しています。ただし、これは作曲当時にストラヴィンスキーの外側にあった表現主義の流れを汲んだもの(と同時に自らの原始主義が援用されたもの)であって(たぶん)、《アゴン》や《ムーヴメンツ》がストラヴィンスキー流にドデカフォニーを消化したものであることを考えると、同一視は全然できないなという感じ。 で、同じ10年代でも《わが幼き頃の思い出》から《4つのロシア農民の歌》までは、たぶんストラヴィンスキーの個人的な体験や嗜好が強く現れていて、ロシア土着の民謡主題が「なんたら主義」を塗り潰して圧倒的に自由で力強い。キャシー・バーベリアン決死の歌唱がいいですね(厳しいリハの効果か)。 そしてトラック25とトラック26の間にある隔たりは…譬えようもなく深い。 この間の40年で、土俗的な民謡を結晶化する術を完璧に身につけてしまったんでしょうかね。この《4つの歌》の主題自体は先ほど聴いていた10年代の作品とあまり違わないのに、歌を彩るフルート・ハープ・ギターのアンサンブルが劇的に巧く構築されていて、一体何と表現したらいいのか。。わずか数分の中に後期ストラヴィンスキーのエッセンスが詰まっている気がする。この録音のあっけらかんとした空気感は本当に見事。素晴らしい。「大全集」を開封してない方、このディスクだけはちゃんと聴いてくださいよ! さらに《シェイクスピアの3つの歌曲》と《ディラン・トーマスの思い出に》になると、非常に透徹した音響空間がすっ...と目の前に広がります。作曲者名を隠して聴かせて、これがストラヴィンスキーの作品だと言い当てられる人はあまりいないんじゃないか。 前者の第2曲〈汝の父は、5尋の海底にいて〉では、弔いの鐘?を模倣した「ディンドン」という音型がそのまま第3曲〈春(まだらなヒナギク)〉のカッコー音型へ流れ込む様子が見事。ヴィオラ・フルート・クラリネットの冷たく湿った響きもブリテンを想起させずにはいられない。 後者ではトロンボーン4本の鈍い光が特徴的。ディラン・トーマスは夭折した天才詩人のようです(ググると同名の競走馬がたくさんヒットするけど)。 これまで聴き進めてきた「大全集」のなかで最高の一枚でした。 繰り返しますけど、このディスクを聴かないのはもったいないです。 【今日の伴走者】 ■ジェーン・マニング+ラトル/ナッシュ・アンサンブル(CHANDOS) ⇒《バリモント...》、《日本の3つ...》他。ずいぶん拍節感が強くて、1、2、3、4、、とカウントを迫るような生真面目さが鼻につく。ナッシュEnsも小ざっぱりとした音なので余計に。
by Sonnenfleck
| 2007-11-18 07:40
| パンケーキ(20)
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Comments(7)
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pfaelzerwein
at 2007-11-18 18:37
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私もラトル盤とブーレーズ盤は保持しています。ストラヴィンスキーは新古典主義時代のものにもう少し馴染まないとと思っているのですが、ナイチンゲール編曲を含めて、20世紀後期のこの分野に与えた影響を考えると歌曲集は特に興味深いものです。
もし、歌詞テキスト、手に入り難いようでしたら、ブーレーズ盤の英訳つきならばPDFで送ってもよいですよ。
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Sonnenfleck at 2007-11-19 21:19
>pfaelzerweinさん
ブーレーズにこの手のストラヴィンスキー歌曲の録音があるんですか!寡聞にして知りませんでした。。昨日図書館へ立ち寄って、ディラン・トマスの詩集を斜め読みしたんですが、烈しいイメージがずらりと並んでいてストラヴィンスキー好みだったのかなと思ったり。 テキスト、読んでみたいのはやまやまですが…著作権的にグレーなので今回はお気持ちだけいただきます^^;;テキストがないっていうのはこの「廉価大全集」の大きな問題ですね。返す返す悔しい。。
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dr-enkaizan at 2007-11-19 23:53
毎度です
>「大全集」のなかで最高の一枚 まさにそのとおりですよ・・・! テクストがあればなおさらですが、音だけでもかなり充実していて様々な様相を堪能できるのが、この音盤の特筆すべき点でしょう。 これも多くの音楽マスコミやライターがなぜかスルーしている嘆かわしいところです。 なお伴走者にブーレーズ盤を言おうと思っていたのですが、先を越されたようですね。 当盤は後述契機にて、LP時代にてDGからリリースされて、CD化は20世紀音楽シリーズでなされたのですが、、国内発売はされていないと記憶されています。 また同じにエボニーコンチェルトを含む室内音楽集もリリースされ、たのpですが一部がベルクとのカップリングでCD化されたのみです。 なお、ブーレーズは初期の名盤の春の祭典の60年代の録音ころコンサートホール系にすこし録音があり、(*)その後生誕100年の1982年に向けて大量のストラヴィンスキーの室内楽や歌曲の録音しており、DGとエラートにまたがってリリースされています。 さらに是非番外屋って欲しいことに >日本の3つの抒情詩 についてありますが次のコメントにつづきます(笑)
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dr-enkaizan at 2007-11-20 00:04
まえの続きですが
ここで伴走曲として ラヴェルの三つのマラルメの歌とシェーンベルクのピエロリュネールを是非聞き比べていただくと面白いところがあります。 実にストラヴィンスキーがリュネールを発見して、当時ディアギレフの演目でのムソルグスキーのボリスの補筆での共作者ラヴェルに、同様の編成の歌曲を作りコンサートを広く企画を企てた記録あります、それは戦争で実現しなかったのですが、同時期dにての戦時下、ミヨーとプーランクがシェーンベルクのもとを尋ねるなどもあり、新ウィーンへのフランス音楽界の興味を示すものであります、それはブーレーズ曰くの如し、新ウィーンへの「誤解」を示す各々の首の向きでもあり、この接近とミスリードを感じるのも一興であるかと思います。
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Sonnenfleck at 2007-11-20 23:29
>ドクター円海山さん
ストラヴィンスキーって、表現主義に対しては一歩距離を置いているようなイメージがあるんですが…そこへ最接近したのが《日本の3つの抒情詩》だったんでしょうかね。ラヴェルと表現主義っていうミスマッチの面白さもあります。マラソンコースから外れて横軸を探求してみるのも楽しそうです。
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dr-enkaizan at 2007-11-21 01:21
どうも、ちなみに間違いが一つあり、ラヴェルとの共作はボリスではなくボヴァンシチーナの補完でありました、失礼しました。
まさに >ミスマッチの面白さ ですね、ラヴェルの室内楽編成の歌曲では、このあと、宿題のように持ち越して、より完成されたマダガスカル島などにも継続さえれもされるわけですが、・・・・マラルメでのここには、さらに共作と発見がなされたスイスのクラランスで、ラヴェルがストラヴィンスキーから見せられたであろう春の祭典のスコアやピエロリュネール、それらがダフニスの豊穣と組み合わされり、境界が曖昧になり、さらに表現主義の一要素の傾向である、切り詰めた表現への探求がこの曲をより意味深いものにしています。 入手しやすい充実したお勧めは、オッターのDG盤で、ここにはドラージュのインドの歌もあり、フランス近代の室内楽と歌曲の諸相を知ることもできます。個人的には上記音盤と似ている曲目の、メロスアンサンブルとジャネッド・ベイカーの硬いフランス語がいかしているデッカ録音が好きです。
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Sonnenfleck at 2007-11-22 22:12
>ドクター円海山さん
大全集を聴くまでの自分、つまりストラヴィンスキーについて3大バレエのイメージしか持たないころの自分では、ストラヴィンスキーとラヴェルがリンクしていることについて積極的には考えなかったでしょうが、今ではそのつながりに疑問は抱きません。 ラヴェルの歌曲については、いきなり《マダガスカル...》に飛びついてそれきり探求が途絶えてしまってるのが実情です。オッター盤買ってみないとなあ。。
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