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フランス・ブリュッヘン指揮新日本フィル:エポックメイキング

【2005年2月18日(金)19:15〜 第381回定期演奏会/すみだトリフォニーホール】
●ラモー:歌劇《ナイス》から序曲、シャコンヌ
●モーツァルト:交響曲第31番ニ長調《パリ》K. 297
●シューマン:交響曲第2番ハ長調 op. 61


結論から先に書きます。
僕が東京で通った演奏会のなかで、これほどに刺激的な公演は今回が初めてですね。日本のオーケストラが今夜ほど古楽器の音に近づいたことはないと思います。ノンヴィブラートが徹底されて緊迫する弦楽、軽く跳ねる木管、暗く光る金管、そして硬く鮮やかに打ち込まれるティンパニ。長くはないであろうリハーサルの間に、よくぞここまで指揮者の要求に応えた。まずは新日フィルのメンバーの音楽家魂を讃えたいと思います。日本のオケは無個性?蒸留水のよう?言わせておけばいい

ラモー。まずオケの配置が変。指揮台から見て右、いつもはVcの首席がいる位置にFgのソロが二人座り、その奥にコルネットとバロックティンパニ。あとの弦楽と木管は全部左側に寄せられてます。長身痩躯のブリュッヘンがいくぶんよろめきながら舞台に現われますと、場内からは期待と不安の混じった拍手。僕の後ろに座った女子高生たちが話してましたよ。「ラモー?はぁ?誰?」って。僕は念じます。リコーダー仙人の十八番を思い知れ!
僕は僕で、第一音を耳にして最高に驚きます。18世紀オケのCDと同じ音してるじゃん!曲づくりのポイントはそのCDと同じ。巧い!バコバコ打たれるティンパニに気分はルイ15世。ただやっぱりみんなの拍手には戸惑いを感じましたね。普段バロックなんて聴かない人たちがこうやってオケの会員制度を支えてることを思いつつ、二曲目。

モーツァルトの《パリ》には特に馴染みがありません。
プログラムによるとこの曲にはもともと第一稿と第二稿があり、今日の公演では第2楽章でなんとその両方を続けて演奏するとのこと!インテリっぽくて好きです(笑)ただ実際に第2楽章を聴いてみると、前者が8分の6拍子、後者が4分の3拍子なだけということで、期待してたほどの露骨な相違はありませんでしたね(ただ後者にはグレゴリオ聖歌の≪エレミアの哀歌≫の旋律がこっそりと織り込まれてるらしい。バッハみたいなことしやがってー萌えるー)。演奏は相変わらず刺激が強い。弦楽はめまぐるしい強弱変化をヴィブラートなしで(≒ごまかしなしで)やるものですから、ばらばらにならないかヒヤヒヤ。おまけに1stVnと2ndVnは両翼配置になってるものだから、互いの音が聴きにくそう。こっちはフーガ風のパッセージが出ると両翼配置の恩恵を享受することができますがね(^^;;)

休憩を挟んで3曲目はシューマンの2番。アーノンクールやノリントン、ガーディナーら80年代を支えた古楽系の指揮者たちが揃って中期ロマン派の敷居を踏み越えているいま、ブリュッヘンだけはせいぜいメンデルスゾーンどまり、なんと今回の日本公演で初めて2番を振るそうです。でもさすが。いちばんシューマンらしく錯乱したこの曲を選んでくれるなんて♪
第1楽章の序奏。暗く重くトランペットが鳴るさまは、ワーグナー。シューマンが白目むいて笑ってるような例のおっそろしい第2主題を、その裏でホルンに拍を打たせることによって…いっそう気持ち悪くします!!最高!!ここでも、薄いガラスのようなノンヴィブラートの弦楽と硬いモダンティンパニが際だちます。
第2楽章は思いのほか遅く開始されます。切迫する情念。木管がお花畑のように不毛な美しさを放つ。
第3楽章。個人的にはシューマンの書いたオケ作品の中でこの楽章がもっとも美しいと思ってます。バーンスタインばりの粘りをあの美しい響きの中でやるのだから、こっちはもう悶絶っすーどうにでもしてー◎◎
アタッカ気味で第4楽章に突入。一小節一振り(四小節で四拍子を形成)のかなり速いテンポでガンガン進みます。ただただ美音の粒子が飛び交う。最後に第1楽章序奏のテーマが回帰するところ、奥ゆかしく演奏するんでこっちは逆に熱くなります。コーダで上り詰めるロマン派♂の自意識。ブラヴォー!!!!!
by Sonnenfleck | 2005-02-18 23:46 | 演奏会聴き語り | Comments(4)
Commented by vagabond67 at 2005-02-19 02:23 x
TB&コメントありがとうございました。
素晴らしい演奏会でしたね~♪
私の生ブリュッヘン体験は二度目。
初回は,18世紀オケとのミサ曲ロ短調だったのですが,このときはオケがとちりまくりだったので,拍手もせずに憮然と席を立ちましたが,今日の演奏は本当に凄かった!
>18世紀オケのCDと同じ音してるじゃん!
との感想,私も同感です。
これだけの音作りがよくできたと思います。
しかも,技術面では,18世紀オケよりも数段上。
ブリュッヘンも座っての指揮ではありましたが,パッションは相変わらずでしたね。
思わず,明日もトリフォニーに行こうかと思いましたが,今のところは自制して,来週まで我慢しようと思っています(^^ゞ
Commented by Sonnenfleck at 2005-02-19 10:17 x
安普請の拙いブログにわざわざお越しいただいて恐縮です。こちらこそありがとうございます◎
私も今日の公演には所用で出かけられませんが、願わくはどうか、なるべく多くの音楽ファンがあの衝撃を味わわれんことを。

Commented by pfaelzerwein at 2005-12-18 23:21 x
本年のベスト3の割にはコメント少ないですね。オーケストラの定期会員の方は余りBLOGに登場しないのでしょうか?新日フィルが上手くなったのは、徐々に楽団員が自発的に奏法を勉強するようになったからじゃないですかね。ノリントンサウンドは良く知らないのですが、これがどれぐらいに可能性を広げるかですね。
Commented by Sonnenfleck at 2005-12-19 23:05
>pfaelzerweinさん
このエントリはブログを書き始めて二日後のものなので、いま読み返すと実に恥ずかしいのですが、少なくとも客席でこれぐらい興奮していたのは間違いありません。

ここ数年を見ていても、日本のオケに古楽系の指揮者が客演するのはほとんど例がないのですが(客が入らない?)、来年はN響定期にノリントンが来るようなので、今から怖いもの聴きたさでドキドキです。ノリントンはほとんど偏執狂的と言えるようなノンヴィブラートを教条にしていますが、これを「楽しい」と思う可能性がある層がNHKホールの3階奥にしか座れないのは意味がわかりませんね…。(定期会員制度がオールマイティだとはどうしても思えません。)
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