【2007年11月23日(金)15:00~ 東京オペラシティ】
<2007→2009 ヘンデル・プロジェクトⅠ> ●ヘンデル:オラトリオ《エジプトのイスラエル人》HWV54 (ハレ新全集より第2部・第3部を上演) ○アンコール 同:《司祭ザドク》HMV258 →野之下由香里、松井亜希(S) 上杉清仁(A) 藤井雄介(T) 浦野智行、渡辺祐介(Bs) ⇒鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン 10月に聴けなかったシェーンベルクの仇をヘンデルで討ちました(出エジプト的な意味で)。 それでですね、、うーむ。以下まとまらない感想。 全曲はそもそも3部構成になっているんですけど、第1部〈ヨセフの死を悼むイスラエル人の嘆き〉はヘンデル自身により旧作葬送アンセム《シオンの道は悲しみの道》HWV264がそのまま転用されているために、大概の演奏では「オリジナリティが弱いよねー」ということで省略されることになってるらしい。今回も省略。 で、第2部〈出エジプト〉が、序曲も何もなくいきなりレチタティーヴォで始まると。定食が出てきたら箸がなかった、くらいの気まずさをまずここで感じ、またBCJのソロも合唱もオケも決して磐石な立ち上がりではなかったけれども(これはちょっとショック。なんであんなにふらついていたのか?)、かねてから噂に聞いていた「露骨な<出エジプト>描写」が始まります。 水は血に変じ、大地にはカエル・ハエ・シラミ・イナゴが溢れ(※1)、天からは炎に包まれた雹が降り(※2)、世界が暗闇で覆われた挙句(※3)、エジプト人の初子は命を奪われてしまう(※4)。イスラエルの民は主の力で割れた海を難なく渡るけれども、それを追いかけるエジプトの軍勢は波頭に飲まれて全滅(※5)。 ◆※1…特徴的な付点リズム(カエル?)やVnの滑稽なくらい微細な運動(ハエ?)が大真面目に演奏されますが、その区切々々で3本のトロンボーンがそれぞれに主の威光を示すので、ユーモラス。 ◆※2…、、、、タン、、、、タン、、、タン、、タン、タン、タタタタダダダダ、という雹の描写が呆れるくらいの効果を伴って繰り出される。映像を見ているように。 ◆※3…ちょっと不思議な和音で、匂い立つように充満する暗闇が見事に表現されてました。極限まで抑えて絞った響き。 ◆※4…草取りを思わせるようなトゥッティのブチ!ブチ!という音型。ここは恐怖を感じました。ある程度までは残響(余韻)が残っているのが、残酷な状況を想像させる。 ◆※5…右から左から覆いかぶさる波が、ティンパニの華麗な名技で映像のようにはっきりと見える。見慣れないおじさんが叩いているので誰かしらとパンフレットを見てみたら、読響を退職された菅原氏ではないですか! それでです。 オペラシティの特設ページや『ぶらあぼ』11月号で雅明氏は、この作品のそういう箇所が「スペクタクル」で「エンタメ」であると何度もおっしゃってました。 でも、僕の中のミンコフスキやヤーコプスを好む心からすると、今回のBCJの「描写的演奏」には到底満足がいかなかった。やろうと思ったらどこまでも下品に、どこまでもエンタメ丸出しに突き進むことができる音楽で、BCJは品のいい高みからついに降りてくることがなかった。却って「スペクタクル」でも「エンタメ」でもない一月前の《ロ短調ミサ》のほうが、一昨日の演奏よりもずっと鮮やかな記憶を残しているんですもの。 その解決は、第3部〈モーセの歌〉において為されたように思う。 「エンタメ」だというアナウンスのわりに、第2部「エンタメの時間」はすぐに終わってしまって、作品の大部分を占める第3部は、むしろ声高な主張のない観念的でゆったりしたつくりになっている。第2部でも描写性の強い部分以外は優しい柔弱な響きが支配的で、一般にヘンデルらしいと思われている甘い旋律や豪快なオーケストレーションは意外に影が薄い。 ソロの傷つきやすい声、滅多矢鱈に飛んでくるわけではない合唱、オケの柔らかいアタック(通奏低音の静けさはいつもの比ではない)。「エンタメ」な部分ではなくて、冬の弱い日差しのような「ヘンデルらしくない音楽」にこそ立脚して、それを忠実に温かく再現した演奏だったのかなと思います。 それでも終局にはちゃんと高揚が用意されていて、アロンの姉ミリアム(この日は松井さん>ってBCJで聴いてたっけ?)が、まさかの無伴奏ソロ(!)で「主に向かって歌え!」と声を張り上げると、抑制されていた合唱とオケがこの日いちばんの豊かな響きを轟かせて幕。 しかし「エンタメ」部分に気を取られて聴き逃した「非エンタメ」部分が多かった。ヘンデルだからって決め付けてかかっちゃったなあ。猛省。。
by Sonnenfleck
| 2007-11-25 08:21
| 演奏会聴き語り
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Comments(2)
ぐるり周遊の旅、お疲れ様でした。エスカレータの乗り心地はいかがでしたでしょうか。
しかし、うらやましいなあ。私も事前情報で「スペクタクル」というところを強調されて、かなりぐらついたのですが、残念ながら見送りました。 Sonnenfleckさんが物足りないと感じられた「スペクタクル」はたしかに宗教曲ばかりやってる彼らにはきついかもしれませんね。どうしてもお下品になれないジレンマがあるのかも。ラモーは無理としても、ヘンデルのオペラあたりを日常的に取り上げていればその辺の耐性も上げってくるのではないでしょうか。
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Commented
by
Sonnenfleck at 2007-11-27 22:10
>kimataさん
自分は神戸定期に早くデビューしたいッス(笑) 「スペクタクル」情報は必ずしも全面的に当てはまるものではなくて、思い出してみると上に書いたとおり柔弱でなよやかな部分の美しさが印象に残ってます。だからあえてプロジェクトの最初にこの作品を選んだのかなあと思ったり。来年は《ユダス・マカベウス》らしいので、もうちょっと踏み込むのかなあという期待もあります。
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