プラハ国立劇場オペラ《魔笛》@名古屋

【2008年1月5日(土)17:00~ 中京大学文化市民会館】
●モーツァルト:《魔笛》 K.620
→イジー・カレンドフスキー(Bs/ザラストロ、弁者)
  ヤロスラフ・ブジェジナ(T/タミーノ)
  ダグマル・ヴァニュカトヴァー(S/夜の女王)
  マリエ・ファイトヴァー(S/パミーナ)
  アダム・プラヘトカ(Br/パパゲーノ)
  カテジナ・クニェジーコヴァー(S/パパゲーナ)
  ヤン・イェジェク(T/モノスタトス)
→ダヴィド・ラドク(演出)
  カタリーナ・ホラー(舞台美術・衣装)
  ハカン・マイヤー(振付)
⇒ヤン・ハルペツキー/プラハ国立劇場オペラ管弦楽団、合唱団、バレエ団


今年のコンサート初め、当日券が出ていたのでちょっと贅沢をして《魔笛》を聴きに行きました。贅沢といってもS席が19K円ですから、「一流どころ」の引越し公演に比べれば破格の値段設定。結果から先に言うと、この値段でこれだけ楽しめたら十分でありました。
2008年のコンサート運を占う上では実に幸先のいいスタート。
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3日に大阪、4日にびわ湖、5日に名古屋で6日に浜松、と年始から公演の連続で、このあとも20日の東京文化会館に至るまで10公演の「死のロード」が続くみたいですが、もしお近くの会場で残席があったら、行ってみる価値はありますよ。コストパフォーマンスがいい。

以下、ネタバレ。

演出
出かける前に、ひねりのない長閑な演出だったら嫌だなあと思ってはいました。今回の演出はダヴィド・ラドクという人で、事前にググってみてもほとんど情報がなかったんですが、マッケラスの《ドン・ジョヴァンニ》DVD(amazon)、および2001年にまったく同じ組み合わせで行なわれた《魔笛》東京公演のレヴューを見たところ、「現代的」で「奇を衒っている」というコメントを見つけたので、安心して出かけました(笑)

●第1幕
序曲の前から、中東風の赤い衣をまとったダンサーたちが思い思いにステージへ登場し、好きなように踊ったり語ったりしている。そこへ白いカツラと付けて白いタイツを履いた18世紀風の正装の人物が1名だけ紛れ込んでいます(すぐにいなくなるんだけど)。これが後々効いてくる。タミーノも序曲前に登場。
舞台の直上にはカラフルで巨大な天幕が吊るしてあって、その上げ下ろし機構も舞台の四方に露出しています。この天幕が、第1幕冒頭では「怪物」になり、タミーノがパミーナの絵姿を思い浮かべるときにはパミーナの姿が大きく投影されるスクリーンになり、あるときは目隠し、あるときは天井と、この演出では主役のように振る舞う。
赤い衣のダンサーたちは、劇中において瞬間の感情や情景の雰囲気を増幅する装置としてだけでなく、その天幕の上げ下ろしを自然に担う黒子の役目も果たしている。彼らはモノスタトスの部下だとか、ザラストロの信徒だとか、そういったわかりやすい役を与えられているわけではないので、自由が約束されているようでした。

ト書きの変更。第1幕で目立つのは、タミーノが〈何という美しい絵姿だろう〉を歌うときに、あらかじめ客席に座っていたパミーナがステージに上がってくるくらいですかね。その様子を客席脇からリアルタイムで撮影し、舞台の天幕に投影する。
あとは、前述のカツラ正装の人物ですね。「笛」と「鈴」をタミーノとパパゲーノに手渡しするのは3人の侍女ではなくて、この人物なんです。それにこの演出ではタミーノが笛を吹かない。タミーノが笛を高く掲げ、実際に舞台上でフルートを吹くのはこの人物。…あーなんか先が読めてきましたよ。
最後にザラストロの信徒たちが、モーニングのような衣装に勲章をいっぱいぶら下げて、一糸乱れぬ行進で入場してくる。実に胡散臭い。

●第2幕
祭壇に仮面に蝋燭と、第2幕はフツーに始まりまして、最後の最後までこのフツーが続きます。ダンサーの動きも天幕の動きも、ちょっと単調かな。パミーナ役のファイトヴァーがけっこうな美人なので、モノスタトスの劣情シーンがきわどく見える。。
パパゲーノの首吊りシーンは、これまたフツーの3人の童子が、手ずから(!)用意した首吊り用梯子と首吊り用縄のために、童子たちがわざと仕組んだものと解釈されていた模様。

夜の女王一味が奈落に堕ちて、いよいよ大団円。ザラストロの信徒たちがまたも隊列を組んで行進して来…その中にあのカツラ正装の人物がいます!彼がザラストロの首飾りをそっと外し、それをタミーノに掛けてやる。きっと「叡智」とか「真理」の象徴なんだろう。タミーノはその代わりに笛を正装の人物に返還する。そっと消える正装の人物。
ここまではいいんです。
晴れてザラストロの教団に入ったタミーノ、と、1階客席最前方の扉に、パミーナが顔を覗かせます。ここでタミーノはなんとその「叡智」の首飾りを音も高らかに床へ投げ捨てて、パミーナに招かれるまま会場から脱走!パパゲーノとパパゲーナも、ザラストロの信徒から鈴を奪い取って逃走!カツラ正装の人物=モーツァルトからも見捨てられて、それに気づかず空虚な大団円を迎えるのは、ただザラストロ教団だけであったのでした。いやー痛快痛快!

+ + +

■歌手
夜の女王のような威厳と安定した歌唱を聴かせてくれたパミーナ役のファイトヴァーに、まずはブラヴァ。小粒な歌手が多かった当公演中、今にもグラーネに跨って空を飛びそうな非常に強靭な声をよく客席まで飛ばして、、完全に浮いていました(笑)
次点はパパゲーノ役のプラヘトカ。後半ちょっと息切れした気がしないではないけど、演技で笑いも取りながら音程も取れていてブラヴォ。したがってこの日の白眉は〈恋を知るほどの殿方には〉の二重唱であったと断言できます。

タミーノ役のブジェジナは声も甘いけど音程も甘く、常に上ずり気味で残念。散々な出来だった夜の女王役のヴァニュカトヴァーには、カーテンコールで小さくブーが飛んでいたような。。一番真っ青になっていたのは彼女自身だと思うけど。。
ザラストロ(と弁者)役のカレンドフスキーは、第1幕最後の歌唱では伸びやかな声を聴かせてくれたんですが、肝心の第2幕〈この神聖な殿堂の中では〉で失速。
活躍の場は多くないんですが、第3の侍女役のエリシュカ・ヴァイソヴァーが土俗的で太いアルトを轟かせており、よかったと思ったです。

■オケ他
「プラハ国立劇場オペラ」は別名「スタヴォフスケー劇場」もしくは「エステート劇場」と呼ばれていて、1787年にモーツァルトが《ドン・ジョヴァンニ》を、1791年には《皇帝ティートの慈悲》を、それぞれ初演したのはこの劇場であるらしい。
聴いた感じでは弦楽器の編成がいかにも薄そうでしたが、市民会館のデッドな響きは先月の名フィル定期で嫌というほど思い知ったので、もしかするとそのせいかもしれません。
ただこのオペラのオケは、木管の自己主張、表現しようとする意欲が甚だ激しい。ずいっと響きを残すファゴットや出たがりのフルートなど、個性的ながらも説得力のあるバランスでアリアをなぞることが多く、はっとする美しい瞬間がいくつもあって非常に面白かったです。これは指揮のハルペツキーの趣味なのか?
by Sonnenfleck | 2008-01-08 07:15 | 演奏会聴き語り
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