ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン・シュターツカペレ:「聴かせる」ということ

【2005年2月20日(日)14:00〜 来日公演/サントリーホール】
●ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 op.19
●マーラー:交響曲第7番ホ短調


バレンボイムという指揮者、日本では評価がまったく定まりません。
宇野功芳や許光俊という、日本でもっとも影響力のある評論家たち(ここに「笑」を入れるかどうかの判断はおまかせします)に毛虫のように嫌われているせいでしょうか、、一般の愛好家の投票やウェブ上の個人サイトで「バレンボイム好き好き大好き超愛してる。」というような声にお目にかかったことはありません。
かくいう僕は、彼の指揮を、実演でもCDでもほとんどまったく聴いたことがありません。それは僕が、前出の評論家たちやウェブ上の意見をなんとなく正しいかなーと思っていた所為に違いなく、この来日公演のチケットを買い求めたのは、自分の耳で聴いて考えてみようという軽い自負心に引っ張られたからであります(ここは「笑」でしょ)。

前半、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番。
ピアノを縦に置いての弾き振り。Vnの両翼配置が実に好ましいです。
この曲はのことはよく知りません。CDも持っていないし、生で聴いたのもこれが初めてです。ほかと比べてどうであるか考えるという実践ができないので、特にコメントはしません。ああ古典派っぽいけど
ひらりマントですっ飛ばされる箇所も多いなーベートーヴェンらしいなーというのが感想でしょうか。第2楽章はきれいですね(素朴派)

後半はマーラーの交響曲第7番。
休憩中にロビーでお客の一人が「このまま両翼配置でいったら面白いな」とおっしゃっていて、近くにいた僕はうんうんまったくそのとおりだぜーとひとりにやついていましたが、彼の期待は見事に的中、指揮者の右からVn1st-Vc-Va-Vn2ndの席順でありました。この曲を実演で聴くのは沼尻竜典/東フィル、ベルティーニ/都響に次いで3度目ですが、それにしてもやはり巨大な編成に圧倒されます。
第1楽章、やや速めのインテンポで開始されましたが、わりと露骨なアゴーギクでテンポを揺らしてこちらをどきどきさせます。弦楽はやはり相当に巧い。指揮者のアクションを的確に感じ取り、ぅわんっ!という強靱なしなやかさで応えます。木管はそれに輪をかけてすばらしい芸達者ぶりを発揮、、するのですが、どうもトゥッティ全開時には主題を吹く金管の音に(強烈です)埋没しがち。あれ?終結部とか、あの大洪水のなかでこそ啼きわたる木管が聴きたいのに…。ともあれこの演奏の熱気は他の演奏ではそれこそ聴いたことのないレベルに達しており、ちょっと固まってしまいました。すげえ。
第2楽章はそれまでの熱気をとりあえず振り払って、醒めた感じを演出。自分的にはこの楽章の主役はホルンでもカウベルでもなくVaのコル・レーニョだと思ってますが、さすがに技術的にはなんなく及第。よく揃ってます。あの付点リズムは全曲を貫く最重要テーマですから、この楽章では最初Vaだけでやっていたコル・レーニョがVnに波及する箇所が聴かせどころ。ここではほかの楽器は抑えてほしい。この個人的・内的要求は満たされましたが。よかった。
スケルツォ、第3楽章は、異様に速いテンポ設定がちょっと好みではありません。もともと細かい弦のパッセージがあれでは潰れてしまう。。ただVaソロは最強に巧い。
コンマスの官能的なソロで始まる第4楽章。この楽章の主役はなんといってもマンドリンですが、思ってもみない事態に。当のマンドリン奏者のリズムがボロボロでトゥッティとぜんぜんかみ合わない。あれじゃあちょっとバレンボイムがかわいそうです。
第5楽章の冒頭のティンパニをこの曲一番の聴きどころだと考える方は多いと思いますが、その意味ではこの日の演奏は最高でしたね。腕っこきのティンパニ奏者が本気でfffを叩くとどんな響きになるのか、会場の聴衆は思い知ったはず。僕は思わず仰け反りましたよ(笑)P席の方がうらやましかった。この楽章ではバレンボイムの主旋律重視の傾向がはっきりと表出しました。ロンド主題を弾くときの「待ってましたっ!お客さんも聴いてっ!」という感じの理由を、オケの興奮だけに求めるのは無理がある。許光俊が「おバカ」で切って捨てるのはこういう感じなんですね。ところが聴いてる側としては非常に聴かせ上手な印象を抱く。これを否定する勇気は僕にはありません。あのとき会場で聴いていて並々ならぬ興奮を感じたのは疑いないですし、こうやって「聴かせる」という方向に特化した演奏としては、本当に高い完成度に達していると思います。僕はこういう演奏も好きです。「ものがたり」への信頼。
by Sonnenfleck | 2005-02-22 00:21 | 演奏会聴き語り
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